ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2019年05月08日
いよいよ平成も終わり、令和の時代が始まりました。新時代最初のタイトル戦を制するのは誰になるでしょうか。今回も注目局を格言とともに振り返っていきましょう。
【第1図は△8六桂まで】
第1図は第77期名人戦七番勝負第2局(▲豊島将之二冠△佐藤天彦名人)。前局は千日手となったため、本局も豊島二冠が先手です。
後手の飛車先が素通しで怖いですが、▲8二歩と打っては先手の攻めも難しくなります。▲8三歩と、と金を作りにいくのが確実な攻め。実戦は△2七馬▲6二角成△同玉▲8二歩成△3一飛▲8三と引が「と金の遅早」で先手優勢です。
豊島二冠が開幕2連勝で、初の名人に大きく近付きました。
名人戦棋譜速報より
【第2図は▲2八歩まで】
第2図は第12期マイナビ女子オープン五番勝負第2局(▲里見香奈女流四冠△西山朋佳女王)。後手がどう寄せるか難しそうな局面ですが、ここで西山女王に好手がありました。
実戦は△1一桂▲2二竜△2三香が「玉は包むように寄せよ」で先手玉が寄り筋に入りました。2筋は先手の竜が制圧しているのですが、その竜に働きかける△1一桂が好手。続く△2三香で挟撃態勢を実現させました。西山女王が2連勝で防衛まであと1勝です。
防衛まであと1勝に迫った西山朋佳女王 マイナビ女子オープン中継ブログより
里見香奈女流四冠の巻き返しはあるか マイナビ女子オープン中継ブログより
【第3図は△8九飛成まで】
第3図は第30期女流王位戦五番勝負第1局(▲里見香奈女流四冠△渡部愛女流王位)。初防衛を目指す渡部女流王位に、昨年とは立場を入れ替えて里見女流四冠が挑戦します。図で▲5九歩が「金底の歩岩よりも堅し」です。これで竜の利きをシャットアウト。形勢は難解ながら、玉の安定度の分先手の勝ちやすい展開です。
里見女流四冠が先勝し、復位とクイーン王位に向けて幸先の良いスタートを切りました。
初防衛を目指す渡部愛女流王位 女流王位戦中継ブログより
先勝した里見香奈女流四冠 女流王位戦中継ブログより
【第4図は△4七桂成まで】
第4図は第90期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦(▲渡辺明二冠-△郷田真隆九段)。角換わりで、後手が猛攻を掛けている終盤戦です。ここで▲8八玉が「玉の早逃げ八手の得」です。上から押さえられる形を防ぎ、玉の安定度が増しました。これで後手から早い攻めが難しくなり、反撃の余裕を得ることができました。
渡辺二冠は第84期以来の棋聖戦五番勝負登場。豊島棋聖との五番勝負は6月4日に兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」で開幕します。複数冠同士の注目されるシリーズになりました。
【第5図は△2二銀まで】
最後に、藤井聡太七段の論理的な寄せを見ていきましょう。第5図は第32期竜王戦ランキング戦4組(▲藤井聡太七段△高見泰地叡王)。最終盤で、後手が△2二銀の犠打で必死の抵抗を見せたところです。残り時間が少ないと焦ってしまいそうなところですが......。
実戦は▲2二同竜△5七角成▲8九玉△4三玉に▲6五銀が退路封鎖の好手。以下△同銀▲5二竜△3四玉(△5四玉は▲6三竜△4三玉▲4二金以下詰み)に▲3二竜と戻って後手の投了。今度は△2二銀と打っても▲同竜で、最初の図と違って6五の地点が塞がっているので後手玉は逃げることができません。また、銀を一枚渡しても先手玉が詰まない状況も変わっていません。冷静な寄せでタイトルホルダーを下し、藤井七段は竜王戦で3期連続昇級です。
ライター渡部壮大
監修高崎一生七段