"早見え早指しの攻め将棋"西山朋佳女王VS"年間勝率8割5分"里見香奈女流四冠。マイナビ女子オープン五番勝負の展望は?

ライター: 渡辺弥生  更新: 2019年04月09日

2019年3月8日、東京将棋会館の特別対局室で第12期マイナビ女子オープンの挑戦者決定戦が行われた。ここまで勝ち上がってきたのは、女流棋界の第一人者、そして第6期女王の里見香奈女流四冠と、第7期から第10期まで女王を四連覇した加藤桃子奨励会初段(4月より女流棋士三段)。戦型は里見のゴキゲン中飛車に加藤が急戦で対抗。機敏に戦機をとらえた里見が、最後まで緩まずに攻め続け、快勝。西山朋佳女王への挑戦権をものにした。

現在奨励会三段の西山と、昨年3月に奨励会を退会した里見は、ともに三段リーグを戦った仲。誰もが楽しみにしていたであろう二人のタイトル戦がついに第12期マイナビ女子オープン五番勝負で実現した。その展望を予想する。

念願の初タイトル

里見の挑戦を受けるのは、西山朋佳女王。昨年の4月から5月にかけて行われた第11期マイナビ女子オープン五番勝負で、加藤桃子女王(当時)に挑戦。3勝1敗で女王を奪取、念願の初タイトルを獲得した。西山の鋭い踏み込みが存分に発揮されたシリーズだった。

西山は現在関東奨励会に所属。三段に位置する。現在三段リーグを戦っている女性は西山ただ一人。初段から二段、そして三段へ昇段したのは、女性としては里見に次いで二人目。すべて里見より早い最年少記録を保持している(三段へ上がったのが20歳5か月)。

初参加の第59回奨励会三段リーグ戦で10勝8敗の成績を取り、女性で初めて三段リーグ戦で勝ち越した。里見同様、西山もまさに記録尽くしで勝ち上がってきた。初の女性棋士誕生の期待がかかっている。

西山が参加している女流棋戦はマイナビ女子オープン、リコー杯女流王座戦、女流タイトルホルダーとして出場した霧島酒造杯女流王将戦の3棋戦だ。昨年度の成績は6勝2敗。対局数が少なく、西山の状態はわかりにくいものの、この番勝負に合わせて調子を上げてくるはずだ。

早見え早指しの、恐るべき腕力、終盤力を持つ攻め将棋の振り飛車党。得意戦法は中飛車だ。

昨年の第11期マイナビ女子オープン五番勝負で印象に残っているのは第2局。第1図は先手の加藤が▲4五桂と跳ね出したところだ。

【第1図は▲4五桂まで】

第1図以下の指し手

△4五同桂▲2二角成△3七桂成▲2六飛△4七成桂▲同金△7六銀▲6六馬△6五銀打▲1一馬△5四金

困ったようだが、なんと西山は△4五同桂と桂馬を取り、飛車を差し出した。驚きの勝負手だ。▲2二角成に△3七桂成と桂馬を成り込む。最後の△5四金が味の良い活用。▲4一飛には△5五桂だ。実戦、加藤は△5四金に▲7九桂と受け、難しい戦いが続いたが、最後は西山が持ち前の終盤力で先手玉を寄せ切った。

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念願の初タイトルを防衛できるか 西山朋佳女王 マイナビ女子オープン中継ブログより

絶好調の挑戦者

挑戦者に名乗りを上げたのは里見香奈女流四冠。27歳にして、女流王座、女流名人、女流王将、倉敷藤花の四冠を保持。これまでのタイトル獲得数は35期で、クイーン名人、クイーン王将、クイーン倉敷藤花の資格を持っている。

里見の昨年度1年間の成績は素晴らしい。第29期女流王位戦五番勝負で渡部愛女流二段(現女流王位)に敗れ、女流王位を失ったものの、第8期リコー杯女流王座戦五番勝負では清水市代女流六段、第40期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負では加藤桃子奨励会初段、第26期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負では谷口由紀女流二段、第45期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負では伊藤沙恵女流二段の挑戦を退け、すべてタイトルを防衛。第12期マイナビ女子オープンの挑戦権獲得のほか、第10期女流王位戦でも紅組リーグを全勝優勝し、挑戦者決定戦で清水市代女流六段を破って挑戦者になっている。残る第1期ヒューリック杯清麗戦では現在3連勝中。2018年度成績は23勝4敗、勝率はなんと8割5分を超え、全女流棋士中ランキング1位。10月から1月にかけて14連勝し、こちらもランキング1位だ。現在も8連勝中。とにかく強い。昨年度、藤井聡太七段の勝率が0.849で歴代3位の記録をマークしたが、女流棋戦でそれ以上に勝ちまくっているのが里見だ。

攻守にバランスのとれた振り飛車党で、「出雲のイナズマ」の異名の通り、終盤に入ってからの鋭い寄せが最強の武器。つい先だっての3月23日、西山と里見は第5期叡王戦女流代表決定戦(非公式戦)で対戦した。第2図はその終盤戦。▲9三香の打ち込みに後手の西山が△7四桂と角取りに打ったところだ。ここで里見は決めに出た。

【第2図は△7四桂まで】

第2図以下の指し手

▲9一香成△6六桂▲同歩△8四歩▲7五桂△同角▲同歩△7六桂▲9二銀

△6六桂▲同歩に▲9一玉と成香を取るのは、▲9三歩成△同桂▲9四歩。

最後の▲9二銀が、▲8三香△同銀▲6二龍△同銀▲8三銀成△同玉▲9二銀△8二玉▲8一成香△9二玉▲8二金までの詰めろで勝負あり。▲9二銀以下、△6八桂成▲同金△5七歩成に▲8三香と進み、里見の勝ちとなった。

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挑戦者の里見香奈女流四冠 マイナビ女子オープン中継ブログより

初めての番勝負での対戦

西山と里見はこれまでに4度の対戦があり、西山1勝、里見3勝。番勝負でぶつかるのは初めてだ。戦型は相振りが3回、里見が居飛車、西山がゴキゲン中飛車の対抗形が1回。里見は振り飛車党に対しては居飛車を採用することも多いので、1局は居飛車振り飛車の対抗型を見ることができそうだ。

里見の女流棋戦における安定感は抜群だが、西山も今度が三度目のタイトル戦。両者が自分の力を出し切れば、勝負の上ではまったくの互角だろう。

五番勝負第1局は4月9日、神奈川県「元湯 陣屋」にて開幕する。

渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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