振り飛車を学びたいならこの5冊!定跡書から次の一手まで、これを読んでしっかり勉強しよう

振り飛車を学びたいならこの5冊!定跡書から次の一手まで、これを読んでしっかり勉強しよう

ライター: 水留啓  更新: 2019年03月22日

今回は、振り飛車の基本を知るための本を紹介していきます。振り飛車とは飛車を左に回って使う指し方の総称です。振り飛車はプロアマ問わず愛好者が多く、定跡書も数え切れないほど出されています。その中から、振り飛車の考え方・指し方全般を説明する定跡書を2冊挙げたあと、具体的な指し方を学ぶための次の一手の本3冊を紹介していきます。なお今回は振り飛車の基本を学ぶという意味で、居飛車対振り飛車のいわゆる対抗形(たいこうけい)を扱った書籍を主として扱います。

具体的な話に入る前に、振り飛車を分類する基準が2つあるということを前提知識として共有しておきましょう。まずはどの筋に飛車を移動するかという点。左から数えて2列目の筋(8筋)で使うのが向かい飛車。左から3列目(7筋)なら三間飛車(さんけんびしゃ)、4列目なら四間飛車(しけんびしゃ)、そして真ん中の5筋で使うのを中飛車(なかびしゃ)と呼びます。つづいてもう一つの分類軸が、角道を開けたままにしておくか、閉じておくか。角道を止める振り飛車は俗に「ノーマル振り飛車」と呼ばれることが多く、本稿でもそれに従うことにします。また一般的に、ノーマル振り飛車は角道を開けた振り飛車と比べて、穏やかな序盤戦になりやすいという特徴を知っておくと便利でしょう。

【ノーマル四間飛車の駒組み】

上野裕和『将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編』(マイナビ)


上野裕和『将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編』(マイナビ)

本書はその名の通り、振り飛車全般にまつわる定跡がどのような変遷をたどったのかをわかりやすくまとめた本です。定跡書ではあるのですが、盤面に矢印が引いてあったり大事なところが太字で説明してあったりと、読みやすくするための著者の工夫が随所に凝らされています。初心者・級位者が初めに読む定跡書として最適と断言します。

内容に目を移すと、第1部「序盤の基礎知識」でさまざまな囲いの特徴などを確認します。第2部「歴史を振り返る」では、四間飛車対急戦から藤井システムへといった歴史の変化を述べ、第3部「各戦法の解説」では角道を開けた中飛車と角交換系の振り飛車を中心に具体的な手順を解説するという構成になっています。

本書を通して読めば、数多くある振り飛車定跡がそれぞれ独立に進歩してきたわけではなく、棋士の創意工夫によって相互に関係しあいながら発展してきたことを概観することができるでしょう。また、自分だけのお気に入り戦法を見つけるためにカタログ的に使うのもいいと思います。ちなみに、同著者による本書の『相振り飛車編』も同じく良著なので、興味を持った方はぜひ読んでみて下さい。

先崎学『ホントに勝てる振り飛車』(河出書房新社)


先崎学『ホントに勝てる振り飛車』(河出書房新社)

こちらは級位者向けの振り飛車の定跡書です。定跡書というものが複雑で、アマチュアには難しすぎるものになっているということに危機感を持った著者の先崎学九段が、駒組みの手順の意味をわかりやすくかみ砕いて説明してくれます。内容としては、ノーマル三間飛車、ノーマル中飛車、ゴキゲン中飛車、急戦向かい飛車の順で合計8つの章からなります。それぞれの章は30ページ程度と読みやすい構成になっています。

将棋を始めてまもないうちは、なにを目標に指せばいいかわからないという方が多いのではないでしょうか。そのような初心者の方には得意戦法をひとつ持つことをとくにおすすめします。本書の中で角道を止める振り飛車をひとつ選び、その手順を繰り返し盤に並べてみましょう。個人的な好みをいえば、形が綺麗な三間飛車が一押しです。指し手の意味が分からないところには、きっと先崎九段のわかりやすい解説があるでしょう。本書は2003年出版と古い本ではあるのですが、現代においても色あせることのない基本を説いた、王道の教科書と言えます。

【図は▲8八飛まで】
第2章「完全無欠の急戦封じ 先手三間 VS 急戦」より。「『△7三桂には▲8八飛』と覚えよう。三間飛車党必修の受け。」というキャプションが理解を助ける。

ちなみに本書には『ホントに勝てる四間飛車』『ホントに勝てる穴熊』という姉妹編もあり、どちらも良書です。

藤井猛『四間飛車を指しこなす本(1)~(3)』(河出書房新社)


藤井猛『四間飛車を指しこなす本(1)~(3)』(河出書房新社)

ここからの3冊は次の一手形式の本となります。まずは四間飛車の大家、藤井猛九段による伝説的名著から。

四間飛車は以前からプロアマ問わず人気の戦法ですね。指導者の方に聞くと、四間飛車と居飛車の棒銀を指導の二本柱にしているという方が多い印象です。(ノーマル)四間飛車は手堅い駒組みが魅力で、いちど戦いが起こってしまえば美濃囲いの堅さを武器に飛車角を大胆に活用して戦えることが特徴でしょう。ただし、戦いを開始する主導権は居飛車側が握っていることが多いので、本書で基本的な駒組みの手順、居飛車の攻めへの対応を勉強しておくことが大切です。 本シリーズでとくに重要なのは第1巻で、居飛車からのさまざまな急戦への対策を学ぶことができます。

【図は△7五歩まで】
「問9 斜め棒銀」から。振り飛車の鉄則ともいえる受けが▲7八飛だ。

筆者は第3巻の前書きの中で、なんと「第1巻、第2巻、第3巻とすべてをマスターしたあなたは、確実にアマチュア四段の力はついているはずです」と言い切っています。私の指導経験から言ってもこれは決して言い過ぎではなく、いわゆる四間飛車党(四間飛車をメイン戦法にしている人)でも、本書で紹介されている知識がカバーしきれていない場合が往々にしてあるようです。その第3巻では自分から攻める四間飛車の攻め方も紹介されていますので、1、2巻で基本をマスターされた方はぜひそちらにもチャレンジしてみてください。

戸辺誠『将棋DVD 攻めて強くなる戸辺流中飛車』(ルーク)


戸辺誠『将棋DVD 攻めて強くなる戸辺流中飛車』(ルーク)

こちらは中飛車の次の一手本です。四間飛車と並んで振り飛車入門者の大きな受け皿となっているのが中飛車ですね。なかでも角道を止めない中飛車はゴキゲン中飛車と呼ばれ、ここ10年以上、アマチュアだけでなくプロの公式戦でもたびたび使われています。

著者である戸辺七段はゴキゲン中飛車党の旗頭ともいえる存在。勝負師としての面だけでなく、やさしく丁寧な指導でも定評があるのは周知のところでしょう。そんな戸辺七段が中飛車の勝ち方を1手ずつ指南してくれるこちらの本ですが、その魅力として欠かせないのがなんとDVDが付いてくるところ。定跡書ではよく、「第1図からの指し手」とか「第2図に戻って...」など分岐のわかりづらさの壁、そして「▲7六歩、△3四歩」といった符号の壁があり、初心者の頭を悩ませてきました。このDVDでは、本書に出てくる手順を戸辺七段みずからが、聞き手の藤田綾女流二段とともにこれまた1手1手解説してくれます。実際に盤駒を持ち出さずとも、気軽に再生しておくだけで定跡の感覚をつかめる本書は、入門者のバイブルとなるのではないでしょうか。

ちなみに構成は、「先手中飛車5筋位取り」、「先手中飛車角交換型」、「後手ゴキゲン中飛車」、「相振り飛車」となっています。

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戸辺七段と藤田女流二段が分かりやすく解説してくれます

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解説だけではなく特典映像もありますよ

藤倉勇樹『振り飛車の核心 "さばき"の基本手筋』(マイナビ)


藤倉勇樹『振り飛車の核心 "さばき"の基本手筋』(マイナビ)

本書はノーマル振り飛車の次の一手本です。振り飛車を指す上で欠かせない概念として、「さばき」があります。さばきとは、働きの悪い駒(特に自陣の飛車や角)を急所に運んだり相手の駒と交換することによってその働きを高めることを指します。振り飛車を指したことのある人であれば、自陣にいる飛車や角がなかなか敵陣に入れずに負けてしまった、飛車角をいじめられて取られてしまったという経験をお持ちでしょう。そんなときに必要なのがさばきの技術です。

具体例として本書第3問を挙げてみます。

【図は△6六角まで】

いま、後手が飛車取りに△6六角と出てきた局面です。ここで振り飛車を指し慣れていないと指しがちなのが、飛車を逃げる▲7八飛という手。この手に対しては△8八角成▲同飛と角交換をしてから△7六飛とされ、先手が銀損になってしまいまいした。これでは失敗です。

【図は△7六飛まで】

問題図は絶好のさばきのチャンス。ここは▲6七銀として飛車角交換に踏み切りましょう。以下△7七角成▲同角△2二銀(香取りを防ぐ)に▲6六角打△3三銀▲8四角と進めば、今度は逆に先手が銀得のわかれとなって大成功ですね。

【図は▲8四角まで】

このように、攻めては自陣左辺にいる飛車角を存分にさばき、守っては右辺の美濃囲いの堅さで相手を圧倒するというのが振り飛車の勝ち方の王道です。本書に収録された100問を何度も繰り返すことで繊細かつ大胆な大駒の使い方を手に入れ、ライバルをぎゃふんと言わせましょう!

おわりに

今回は振り飛車を指す際に知っておきたい基本的な知識を得るための本を5冊紹介してきました。この5冊の中には振り飛車党としてより高いのレベルを目指す上で大切な基礎知識がたくさん詰まっています。いずれの本も、今後長いこと存在価値が色あせない名著と思いますので、ぜひお手元に置いて繰り返し読んであげてくださいね。

棋書紹介

水留啓

ライター水留啓

ねこまど将棋教室講師。こども教室担当として積んだ指導経験を生かし、大人向け講座「平手初心者のための棒銀/四間飛車/中飛車入門講座」を開講。初心者・初級者を中心に、幅広い層に将棋の楽しさを伝えている。趣味は棋書収集で、最近は自宅の本棚が足りなくなってきているのが悩み。

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