糸谷哲郎八段が使う言葉「ろのろ」の意味とは?第68期王将戦第2局、久保王将VS渡辺棋王の現地や大盤解説会の模様をご紹介!

糸谷哲郎八段が使う言葉「ろのろ」の意味とは?第68期王将戦第2局、久保王将VS渡辺棋王の現地や大盤解説会の模様をご紹介!

ライター: 山口絵美菜  更新: 2019年02月22日

冬は王将戦の季節!静岡県掛川市で開幕した第68期王将戦七番勝負、初戦は挑戦者の渡辺明棋王が先制しました。そして勝負の舞台は大阪へ。第2局が行われる大阪府高槻市は昨年日本将棋連盟と包括連携協定を締結しました。交通の便利性や複数の大学が立地するといった特性を活かして将棋文化の普及に寄与することを目指しています。高槻市出身や在住の棋士も多く、「どうしてこれまでタイトル戦がなかったか不思議」という声が上がるほど。渡辺棋王が二勝目を上げて好調の波をキープするのか?久保利明王将が巻き返してタイに戻すのか?1月26~27日に行われた王将戦第2局の現地、大盤解説会の模様をご紹介致します!

大阪府高槻市は大阪駅から電車で一本。乗り換えもなく、30分弱で到着という行きやすさ。駅前には今城塚古墳にちなんで埴輪のモニュメントや、ゆるキャラ「はにたん」のオブジェがあります。

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対局場である摂津峡・山水館はそこから車で25分ほど。無料のシャトルバスが通っています。1日目である1月26日は粉雪舞う真冬。強い寒風に吹き付けられて、手が痛くなるほどでした。曲がりくねった細い山道を登っていくと、寒空にはためく王将戦ののぼりが見えてきます。第2局の舞台「山水館」です。

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本局の立会人は桐山清澄九段、副立会人は浦野真彦八段、記録係は古森悠太四段と、みなさん高槻市とご縁のある顔ぶれ。対局室には先に久保王将が銀色がかった和服姿で姿を現し、続いて薄い緑の羽織に身を包んだ渡辺棋王が入室。対局開始定刻の9時を迎え、先手の久保王将がゴキゲン中飛車、後手の渡辺棋王が居飛車から「elmo(エルモ)囲い」(※将棋AIのエルモが対振り飛車戦で採用する囲い)と呼ばれる現代調の囲いに構え、ゆったりと進行していきます。

会場の山水館はすぐ隣を名勝「渓谷 摂津峡」が流れています。上流に向かって渓谷沿い散策すると、断崖に寄り添うように佇む句碑や、「八畳岩」「扇岩」と呼ばれる奇岩が続き、歩くのにもってこい。10分ほど歩くと、山水館の支配人おすすめ「摂津峡のベストポイント」にたどり着けるので、ぜひ足を運んで見てください。

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昼食休憩が中に窓の外は吹雪に。「山を下りられないかもね」と談笑しているうちに、山の天気はくるくると表情を変えていきます。あっという間にからっと晴れ渡り、吹雪いていたのが嘘のよう。その一方、盤上は膠着。互いに開戦の隙を狙いつつも、簡単には決行できずに手待ちが続きます。

午後には高槻現代劇場にて大盤解説会が始まりました。浦野八段や脇謙二八段、里見咲紀女流初段が登壇し、解説を行っていきます。夕刻、三度目の吹雪。渡辺棋王が△6五歩と仕掛け、いよいよ開戦かと思われましたが、全面戦争を避ける手待ちの応酬が続き、久保王将の手番で封じ手となりました。

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2日目、1月27日。山水館にはこの日も雪が降り、山肌が雪化粧。寒空の中定刻を迎え、立会人の桐山九段が封じ手を開封。封じ手は「▲7八銀」。前日の封じ手予想では▲4七金や▲3六歩が上がっており、意表の一手でした。10時からは1日目と同様、高槻現代劇場での大盤解説が始まり、立会人の桐山九段、里見女流初段が登壇しました。100人を超えるファンの方が詰めかけ大盛況。その後も次々と席が埋まっていき、会場に熱気が満ちていきます。局面は飛車角の総交換からいよいよ本格的な戦いが開始。先手は馬を、後手は竜をそれぞれ作り、囲いを切り崩す展開になりました。

午後の大盤解説では浦野八段と里見女流初段がマイクを握り、長考が続く難解な局面を解説。封じ手の話題になり「桐山先生が封じ手を始めにあけたんですけど、意外そうな顔をしなかったんですよね」と浦野八段。「だから予想に上がった手かと思ったんですけど、意外な手でしたね」とコメント。盤上や番外に話題を広げながら解説会が進んでいきます。そうこうするうちに客席からは空席が消え、200人を超える超満員。増席をしながら対応しました。

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65手目▲5五歩の局面で次の一手が出題され、候補手は(1)▲9一角(2)▲9九角(3)その他の三択。渡辺棋王は46分の考慮で△1五歩と突くと、控室はどよめきました。取る一手と思われていましたが、久保王将の指し手は▲6一飛。「とらないだと!?」とさらに驚きの声が上がりました。控室では濱田剛志高槻市長が継ぎ盤で検討に加わり、高槻市と御縁のある福崎文吾九段と談笑する場面も。ちなみに次の一手の正解者には抽選で対局者や登壇した棋士・女流棋士の色紙、高槻市に工場を持つmeijiのチョコレートや、はにたんのグッズなどが贈られました。

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局面はいよいよ終盤へ。解説会には糸谷哲郎八段が登場し、里見女流初段と解説を進めていきます。「▲5二金は振り飛車党の感覚なんですかね」「先手陣は端が詰まっていて息が苦しい」と解説。渡辺棋王が△6五歩と馬筋を遮り、△6七桂と美濃囲いに直接手で迫って優位に立ちました。

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最終盤までの寄せの解説をするなかで、話題は「ろのろ」へ。糸谷八段「詰めろの詰めろのことを、"ろのろ"って言いませんか?」里見女流初段「え?ろろろ?」糸谷八段「いやいや、"ろ・の・ろ"です。使わないですか?」里見女流初段「ろろろ?」客席「ののろや!」というやり取りを繰り返しているところで、「何の話してるんですか?」と笑顔の宮本広五段が登場。里見女流初段「ろろろ?の話です」宮本五段「ろろろ?」糸谷八段「ろのろ」里見女流初段「ろのろのろ?」宮本五段「そんな言い方、糸谷さんだけじゃないですか」と言うと会場は大爆笑。盤上に話を戻し、最終盤の解説を始めました。

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渡辺棋王が優位。逆転しそうにない形勢に「6時までには終わるでしょうね」という声も上がっていましたが、粘りのアーティストの名を持つ久保王将は折れることなく指し続けていきます。それでも渡辺棋王が一手一手確実に追い詰め、6時59分、勝利を収めました。

2月6、7日に栃木県大田原市で第3局が行われ、挑戦者の渡辺棋王が勝利し、3連勝となった第68期王将戦。久保王将にとっては踏ん張りどころとなる第4局は2月24-25日に沖縄県那覇市にて行われます。ぜひご注目ください!

撮影:山口絵美菜

山口絵美菜

ライター山口絵美菜

1994年5月生まれ、宮崎県出身の女流棋士。2017年に京都大学文学部を卒業し、在学中に研究した『将棋の「読み」と熟達度』を足掛かりに、将棋の上達法を模索している。
将棋を覚えるのが遅かったため「体で覚えた将棋」ではなく「頭で覚えた将棋」が強くなるには?が永遠のテーマ。好きな勉強法は棋譜並べ。

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