将棋川柳・第1乃句 『ヘボ将棋王より飛車をかわいがり』

将棋川柳・第1乃句 『ヘボ将棋王より飛車をかわいがり』

ライター: 谷木世虫  更新: 2019年02月09日

今月から新しく「将棋川柳」の紹介をさせていただくことになりました。将棋で疲れた頭と体を、ホンのちょっとだけ"ニヤッとした笑い"で癒していただければ幸いです。

ご存じのように、川柳は俳句と同じくたった17文字でいろいろなことを表現したものですが、俳句と違う点は「権力側に対する風刺性、また、浮世への皮肉があること」と思っています。

では、開口一番、皆様のような将棋ファンならずとも、一般の人にも広く知られている将棋川柳中の川柳、川柳の王様、King of Senryuu から紹介しましょう!

赤コーナー、ヘボの味方ジム所属、220 ポンド、川柳チャンピオン、"ヘボ将棋王より飛車をかわいがり~"!!

これ、言わずもがなですが、あらためて説明してみまセウ。

将棋で一番大事な駒は「玉」で、続く二番目は? と聞くと、多くの人が「飛車」と答えます(そうではないでしょうか?)。飛車は縦横無尽に動き、その力強さ、つまり攻めの破壊力に魅力があるからです。皆、攻めが好きなのですヨ。

よって、不幸にも王手飛車を掛けられてしまったときなど、つい、指が飛車の方に行き、飛車を逃がしたくなるのです(その心情、ヘボの私にはよ~く分かります)。

例えば、私が将棋道場で見たアマ将棋、「図1」の局面。

【図1は△2八銀打まで】

王手が掛かっていることは分かっているンです、ハイ。また、飛車がどこかに逃げられるわけでもないンです。そんなことは百も承知なんですがネ、どういうわけか、読んでいるうちに気持ちは飛車を逃がしたくなってしまうンでござんすヨ。そういう心情は、強い人には分からないでしょうネ~。ナンと申しましょうか、人間の弱さというか、儚(はかな)さというか、脆(もろ)さというか......きっと人間は、潜在的に"強いものを大事にする"という本能があるンじゃないかと、ハイ、そんな気がするんでゴザンスよ。それはきっと、生きることへの防衛本能なのかもしれヤせん。でもって、強い駒を♪取られたくない~、取られたくないんだから~#という気持ちが湧くんじゃアリアせんでしょうか?

と思うのですが、さて、図1の実戦。先手の人は私と同じ心情のようで、手が飛車の方に行っては引っ込めたりしていましたが、やはり玉の方がかわいかったようで(そりゃそうだ)、図1で▲2六玉と逃げてしまったのです。ところが、そこで後手の△1五金(図2)が好手でした。続いて▲同歩に△1六金が捨て駒の好手・第2弾。以下、▲同玉(▲同香は、△1七銀打▲2七玉△2六金まで)△1五歩▲2六玉△1四桂▲1五玉△2六銀▲1六玉△1五金となって、詰まされてしまいました。

【図2は△1五金まで】

図1での正解は▲2八同飛と銀を取る手。以下、△同銀不成▲同玉で、先手は何事もなかったのです。

▲2八同飛と飛車と銀を交換する手は、ヘボにはかなりの勇気がいるもの。飛車を"切る"とか"見捨てる"といった手が指せるようになれば、棋力も上がるのでしょうね。なかなかできないンだ、ソレ。◆

将棋川柳

谷木世虫

ライター谷木世虫

東東京の下町、粋な向島の出身。大昔ミュージシャン、現フリーランス・ライター。棋力は低級ながら、好きが高じて道場通いが始まる。当初、道場は敷居が高く、入りにくい所だったが、勇気を出して入ると、そこは人間味が横溢した場所だった。前回は、将棋道場で聞かれる数々の「地口」をシリーズで紹介したが、今回は「川柳」がテーマ。これも地口同様、ユーモアと機知に富み、文化として残したいものとの思いで、このコンテツの執筆になった。

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前田祐司

監修前田祐司九段

1954年3月2日生まれ。熊本県出身。アマ時代から活躍し、1970年、71年と2年連続でアマ名人戦熊本県代表として出場。1972年に4級で奨励会入会。1974年9月に四段となり、2000年9月に八段となる。
早見え、早指しの天才肌の将棋で第36回NHK杯では、谷川棋王、中原名人を撃破(※肩書きは当時)。
決勝戦で森けい二九段を千日手の末、勝利し棋戦初優勝を飾った。2014年6月に現役を引退した。

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