「楽しんで指したい」「もっと力を」違う景色を見る里見香奈と里見咲紀が語る、これまでとこれから【後編】

「楽しんで指したい」「もっと力を」違う景色を見る里見香奈と里見咲紀が語る、これまでとこれから【後編】

ライター: 遠藤結万  更新: 2019年02月01日

里見姉妹インタビュー

前回のインタビューでは、二人の原点や将棋観について伺いました。

後編となる今回は、藤井聡太七段との対局や、これからの抱負など、将棋について掘り下げたトピックを伺います。

二人の研究方法とは?

――里見女流四冠は、今年から男性棋戦にも出場されるようになりました。女流のタイトル戦も続いていますが、事前準備や研究の配分はどうされていますか。

里見(香奈)女流四冠 体調が一番なので、体調管理をしっかりした上で、勉強をしっかり集中したいと思っています。ずっとフルでやるよりは、短期集中でやったり、休みながら、といろいろ工夫しています。

――男性棋士に比べて、女流棋士の方は攻め将棋が多いと言われています。里見女流初段は、ご自身の棋風をどう思われていますか?

 

里見(咲紀)女流初段 バランス的にはちょっと攻めすぎている......というか、無理攻めになることが多いので、受けもしっかり出来るようにならなければいけないんですが、かなり攻め将棋のほうかな、とは思っています。

――里見女流初段と渡部愛女流王位との対局(第十二期マイナビ女子オープン)は、攻めて攻めきったという、相振り飛車の好局になりました。

【マイナビ女子オープン 里見咲紀女流初段VS渡部愛女流王位】

 

里見(咲紀)女流初段 直前に、姉が渡部さんと対局していたので、その戦型を参考に、想定局面を何個か考えてから行っていたので、序中盤はかなり研究通りに進めることが出来ました。それが自分の中では良かったんじゃないかなと思います。

――里見女流初段は攻め将棋ということですが、里見女流四冠は、ご自身の棋風をどう思われていますか。

 

里見(香奈)女流四冠 攻め将棋と言われたことも受け将棋と言われたこともあって。畠山先生には棋風が変わったと言われたこともあるんです。正直どっちかとは言えないのですが、やや受け将棋かな、と思っています。

――棋風が変わったというのは、奨励会に入られてということでしょうか。

 

里見(香奈)女流四冠 攻めてばっかりだと勝てないので。攻めと攻めだと強い方に攻め潰されるじゃないですか。だから、受けを覚えたというのはあります。できれば、バランスの取れた将棋を指したいとは思っています。

――羽生先生のようなイメージでしょうか。

 

里見(香奈)女流四冠 そうですね。

――女流棋戦と男性棋戦とですと、戦型なども異なってくるかと思います。

 

里見(香奈)女流四冠 男性棋戦は相居飛車の将棋が多く、居飛車党の方も多いのですが、私は振り飛車党なので、新しいことをしていければな、と思っています。

――矢倉規広七段との対局(第60期 王位戦予選)は、中飛車の出だしでしたが、序盤からかなり新しい将棋になったと思います。

【王位戦予選 里見香奈女流四冠VS矢倉規広七段】

 

里見(香奈)女流四冠 自分が楽しんで将棋を指せればと思っているのですが、なかなか楽しく指すというのは難しいので、それも一つの自分のテーマかな、と思っています。

盤を挟んで感じた藤井聡太七段の印象とは

――注目対局でいうと、藤井聡太七段との対局(第90期 ヒューリック杯棋聖戦 一次予選)がありました。あの一局を振り返っていかがでしたか。

【ヒューリック杯棋聖戦一次予選 里見香奈女流四冠VS藤井聡太七段】

 

里見(香奈)女流四冠 注目度も高く、始まる前には将棋界以外の方からも応援の声をいただきましたし、モチベーションも上がっていました。またそういった機会を作れるように頑張っていきたいと思います。すごくコンディションも良くて、やる気もあったので。

――里見女流四冠が指して、相手の方のほうが注目される、ということはあまりない経験ではないでしょうか。

 

里見(香奈)女流四冠 女性ということでスポットライトが当ててもらうことが多かったのですが、あれだけの......年齢と、めざましい活躍なので。

――盤を挟んでみて、実際の藤井七段はいかがでしたか。

 

里見(香奈)女流四冠 短い持ち時間の中でも正確な判断をされていることを体感しましたし、よく読まれているんだなということは感じました。

――中盤までは里見女流四冠が優勢ではないか、という声もありました。

 

里見(香奈)女流四冠 そうですね。ただ、一番最後がいちばん大事なので(笑)。競り合いを制するようにしたいな、と思います。短い持ち時間なのでいろいろ準備はしていたのですが、最後は力勝負なので、力をつけて、また機会を作りたいと思っています。

――王位戦ですと、持ち時間も四時間と長いですが、持ち時間の長い男性棋戦に多く参加されるようになって変化は感じましたか。

 

里見(香奈)女流四冠 たくさん考えられるな、と。そうですね、楽しいですね。たくさん考えられるというのは幸せなことなんだな、と思いました。

――里見女流四冠は長考派ということですが、里見女流初段は、好きな持ち時間はありますか?

 

里見(咲紀)女流初段 私は早指しが好きなんです。腰を落として考えるよりも、ずっと盤を見ていたい、というか。ただ、持ち時間二時間以上の棋戦が多いので、長い時間でも考えられる力をつけていきたいな、と思います。

――早指しのほうがお好きなんですね。長い時間になると事前研究や戦型の選び方なども、変わってきますよね。

 

里見(咲紀)女流初段 長い時間だと序盤に時間を使うことになりますが、早指しの棋戦だと、研究をしっかりした上で序盤は決めたとおりに指して、しっかり中終盤に時間を使っていくという将棋になります。

一家そろって振り飛車党?姉妹ともに振り飛車を指す理由

――序盤について伺います。里見女流初段は、振り飛車を得意とされているイメージがあります。これは里見女流四冠の影響なのでしょうか。

 

里見(咲紀)女流初段 いえ、姉もそうなんですが、父も祖父も兄も、教えてくれる人がみんな振飛車党だったので(笑)家族が居飛車党だったら、私も居飛車党になったと思います。

―― 一家そろって振飛車党ということですね。

 

里見(咲紀)女流初段 みんな振ってますね(笑)

――中飛車の研究もされると思いますが、里見女流初段は、里見女流四冠の棋譜は並べられることはあるのでしょうか。

 

里見(咲紀)女流初段 棋譜を並べるわけではなくて、中継を見るくらいですね。あとは、中継されていないものに関してはデータベースで、自分がよく指す戦型を調べるので、もちろんその中に姉の棋譜もあるんですけど、特に姉の棋譜を、という感じではないですね。

――里見女流四冠は最近、居飛車も指されていますが、これは奨励会に入られたことが影響しているのでしょうか。

 

里見(香奈)女流四冠 居飛車党の方も多いですし、手合として香落ちもありますから、指さざるを得ない状況になってしまって。指すこともあったんですが、振り飛車のほうが指していて楽しいというのはありますね。

――やはり振飛車党ということでしょうか。お二人とも振り飛車の中でも中飛車を得意とされている印象がありますが、中飛車の魅力は何でしょうか?

 

里見(香奈)女流四冠 わかりやすいですよね。初心者の方も指しやすいですし、駒の配置も綺麗です。

 

里見(咲紀)女流初段 攻め将棋で自分から動きたいので、戦いが早くて切り合いになった時にすごく楽しいです。

――女流棋戦は相振り飛車が多いですよね。どうしても力戦になりやすい部分もあるかと思いますが、研究はどうされていますでしょうか。

 

里見(香奈)女流四冠 定跡が整備されていないので、研究は難しいですね。ただ、力戦になるので、そこは楽しいです。

 

里見(咲紀)女流初段 そうですね。激しい将棋になるので。

――相振り飛車だと、金無双と美濃囲い、矢倉などがありますが、お好きな囲いは何でしょうか。

 

里見(香奈)女流四冠 私、金無双を多分一番指しているので......。

――好きなんでしょうか?

 

里見(香奈)女流四冠 好きなんでしょうね(笑)

――金無双は、手がつくと脆いということで、好きな方があまりいないイメージがありますが......。

 

里見(香奈)女流四冠 そうですね。今は美濃囲いが多いので......。振り飛車党なので、美濃囲い自体はすごく好きなんですが。

――やはり振り飛車党として。

 

里見(咲紀)女流初段 私も囲いの中では美濃囲いが一番多いです。

――好きなんでしょうか?

 

里見(咲紀)女流初段 好きです(笑)

――里見女流四冠というと、かつては角道を止めるクラシカルな中飛車を得意とされている印象がありましたが、ご家族の影響があったのでしょうか?

【第三十六期女流名人戦第三局 清水市代女流名人VS里見香奈倉敷藤花】

 

里見(香奈)女流四冠 家族の影響というわけではなくて、並べている棋譜が大山先生の棋譜が多かったんです。そこから角道を止める振り飛車を指すようになって。でも、今から始めるなら、四間飛車から始めたほうがいいのかな、と思います。四間飛車は振り飛車を捌いていく、独特の感覚が詰まってますから。

――奨励会に入られる以前から、新人王戦(第四十期)で稲葉陽八段に勝利されるなど、男性棋戦にも出場されていました。復帰されて、変化を感じるところはありますか?

 

里見(香奈)女流四冠 その時よりはしっかり読めるようになりましたし、ある程度勝負の呼吸がわかるようになりましたし、一般棋戦でもいい勝負をして勝っていけたらいいなと思っています。そのために力をつけ続けたいなと思います。

――復帰されてからは男性棋戦でも好成績を残されています。プロ編入は考えていない、と以前おっしゃっていましたが......。

 

里見(香奈)女流四冠 まだ、そういうことは、考えていないです。

――ありがとうございます。お二人のこれからの活躍に対する、ファンの期待も大きいと思います。今日はありがとうございました。

おわりに

幼少の頃から、ただ強くなるために出雲から関西に向かい、たった一人奨励会で戦い続けた里見香奈女流四冠と、指導対局で棋士が見せた心配りに感銘を受け、今も常に「ファン」という言葉が最初に出てくる里見咲紀女流初段。

二人は、見えている景色も、将棋から与えられたものも、そして向かっている場所も全く違いました。

姉妹であろうとなかろうと、棋士は皆、ただ一人将棋盤に向かい、八十一マスで孤独に戦い続けています。これまでも、これからも。

一人の棋士としての、お二人の姿が、このインタビューを通じて見えれば、と思っています。

遠藤結万

ライター遠藤結万

ライター。振飛車党で向かい飛車が大好き。著書に「エッセンシャル・デジタルマーケティング(技術評論社)」。 「ハーバー・ビジネス・オンライン(扶桑社)」連載中。

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