"7連覇なるか"渡辺明棋王VS"初の二冠へ"広瀬章人竜王。絶好調のトップ棋士が棋王戦で激突、第44期棋王戦五番勝負の展望は?

ライター: 相崎修司  更新: 2019年02月02日

将棋界の年度末を締めるタイトル戦、棋王戦が2月2日(土)に石川県金沢市でスタートする。第44期棋王戦五番勝負は渡辺明棋王に広瀬章人竜王が挑戦するシリーズだ。棋王6連覇中の渡辺に対し、昨年末に竜王を奪取した広瀬がどのように挑むだろうか。  

開幕戦を迎えて、両者のコンディションは絶好調と言って差し支えない。渡辺は現在、第68期王将戦七番勝負で久保利明王将に挑戦中。目下2連勝とこちらは奪取に向けて最高のスタートを切った。また順位戦では早々にA級復帰を決め、公式戦では今年度1位となる15連勝を達成。気になるのは連戦による疲労の蓄積くらいだろうか。

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第43期棋王戦五番勝負第4局(於・都市センターホテル)昼休明けの渡辺棋王。撮影:常盤秀樹

 

一方の広瀬も、竜王を奪取してからの勢いは止まらない。A級順位戦でも、二敗目を喫したものの、挑戦権にとどく位置ににいる。今期は対局数(53局)と勝ち数(39勝)の双方でトップということからも、充実ぶりがわかる(2019年2月1日現在)。

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第44期棋王戦挑戦者決定二番勝負第1局終局後の広瀬八段(当時)。窓の外がまだ明るい16時13分での終局だった。撮影:常盤秀樹

 

過去の両者対戦成績は渡辺の9勝10敗とほぼ互角である。面白いのは後手番が12勝7敗(渡辺が6勝4敗、広瀬が6勝3敗)と、かなり勝ち越していることだ。今年度のタイトル戦番勝負が先手の34勝13敗と圧倒的に先手有利であり、また前期棋王戦五番勝負でも全て先手番が勝ったという事実がある。両者の初手合いは2010年に遡るが、その当時でも先手有利は言われていた。それからすると両者の対戦戦績はかなり異質である。

 

渡辺は「後手では5割勝てば十分。先手で7~8割勝てばいい」と語っているが、今年度の後手番成績は15勝6敗と5割どころか7割を超えている。なお先手では14勝2敗と、こちらはさらに圧巻の数字だ。

 

対して広瀬はどうか。「自分は先後の差をあまり気にしないので」という。今年度の広瀬は先手で20勝5敗、後手で20勝8敗。これだけみると率では1割以上離れているようだが、通算成績をみると先手番勝率が0.656なのに対し、後手が0.645と1分ほどしか変わらない。現在のタイトル保持者7名の中では、先後の差が最も小さい棋士なのだ。

 

両者ともに先手番有利は認めているが、以上のデータからしても前期のように、最終局における振り駒の比重が高くなる、という状況は考えにくい。あるいは後手番がすべて勝って最終第5局を迎えるという展開もあり得るかもしれない。戦型は角換わりが最有力だろう。ともに終盤力には定評がある両対局者なので、中盤の押し引きをどちらが制するか、という図式が想像できる。

 

広瀬は奪取すれば竜王と合わせての二冠王が確定するし、渡辺も現在挑戦中の王将を奪い、かつ防衛を果たせばやはり二冠だ。豊島将之二冠(王位・棋聖)と並んで、今年度の最優秀棋士賞を争う有力候補になると言えるだろう。

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第44期棋王戦挑戦者決定二番勝負第1局感想戦での広瀬八段。撮影:常盤秀樹

 

広瀬は竜王奪取を果たした時に「自分が羽生さん(善治九段)のタイトル通算100期を許せば、羽生さんだけでなく、それを阻止した佐藤さん(天彦名人)と豊島さんにも負けるような気がした。それだけは避けたいという気持ちがだんだんと強くなった」と語っている。二冠達成に置き換えれば、やはり渡辺や豊島に負けたくないという気持ちが強くなると言えるのではないか。

 

そして渡辺も7連覇に向けてのモチベーションは戦っていくうちにだんだんと高まるに違いない。「棋士の評価は獲得タイトルの数」と公言しているし、また連覇記録は一度途切れてしまうと、再度の実現が極めて難しいということもある。

 

熱戦確実のシリーズに、要注目である。

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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