10連覇か初タイトルか、里見女流名人VS伊藤女流二段。勢いのある同世代対決、女流名人戦の展望は?

10連覇か初タイトルか、里見女流名人VS伊藤女流二段。勢いのある同世代対決、女流名人戦の展望は?

ライター: 渡辺弥生  更新: 2019年01月19日

2018年11月13日、第45期岡田美術館杯女流名人戦女流名人リーグの最終一斉対局が行われ、伊藤沙恵女流二段が相川春香女流初段に勝利、8勝1敗でリーグ優勝し、2年連続で里見香奈女流名人への挑戦を決めた。昨年度の五番勝負は里見が貫録を示して3連勝で防衛という結果に終わった。今期もまた里見が勝って女流名人10連覇となるのか、伊藤が雪辱を果たして初タイトルを獲得するのか。五番勝負の展望を予想する。

好調の両対局者

今期絶好調の挑戦者・伊藤沙恵

伊藤の今年度成績は20勝5敗、勝率0800。全女流棋士中のランキングは対局数25局が2位、勝数20勝が1位、勝率0.800が1位(勝率10割は、対局数が1局の脇田菜々子女流2級と磯谷真帆女流初段の二人)。2月から7月にかけて12連勝し、こちらのランキングも1位だ。男性棋戦においても、5勝4敗と勝ち越している。さすが伊藤と言うべき、素晴らしい成績だ。挑戦こそ逃したものの、今期の第40期霧島酒造杯女流王将戦と、第8期リコー杯女流王座戦では、挑戦者決定戦まで勝ち上がっている。

4年前の2014年10月にプロ入りしてから、タイトル戦の登場回数は5回。そのうち4度が、里見との番勝負だ。受けが強く、形にとらわれない金銀による「攻め駒を攻める」受けは見ものだ。

図1は伊藤が挑戦を決めた第45期女流名人戦女流名人リーグの9回戦、相川との一戦の中盤戦。相川が▲3六飛と歩を払った局面だ。次に▲3五歩の突き出しが厳しいが、ここから一気に伊藤が流れを引き寄せる。

【図1は▲3六飛まで】

図1以下の指し手
△5六歩▲7八歩△7七角成▲3四歩△6七馬▲2四角△4四桂

△5六歩と桂取りに突き出し、▲7八歩に△7七角成と切ったのが鋭い一手。▲同歩は△4四桂▲3七飛に△3六歩で、先手の飛車の行き場がない。 最後の△4四桂に▲3五飛は△5七歩成が厳しい。以下も快調に攻め続けた伊藤が、挑戦権を手に入れた。

女流名人戦9連覇中の里見香奈

伊藤を迎え撃つのは里見香奈女流名人。第36期ユニバーサル杯女流名人戦(第42期に冠名を岡田美術館杯に変更)五番勝負で当時の清水市代女流名人から女流名人を奪取して以来、現在9連覇中。

現在、女流王座、女流名人、女流王将、倉敷藤花の四冠を保持。タイトル獲得数は34期、タイトル戦登場回数は39回にのぼる。クイーン名人、クイーン王将、クイーン倉敷藤花の資格を保持する、女流棋界の第一人者だ。

里見の今期の成績は12勝3敗、勝率0.800。5月から6月にかけて行われた第29期女流王位戦では渡部愛女流二段(現女流王位)に敗れ、女流王位を失ったものの、その後、第40期霧島酒造杯女流王将戦では加藤桃子奨励会初段に、第8期リコー杯女流王座戦では清水市代女流六段に、そして第26期大山名人杯倉敷藤花戦では谷口由紀女流二段にそれぞれストレート勝ちをしてタイトルを防衛。他の女流棋戦でも順当に白星を重ねており、現在11連勝中だ。男性棋戦の成績も7勝8敗。

図2は第40期女流王将戦三番勝負第1局、加藤桃子奨励会初段との一戦の終盤戦。先手の加藤が▲7四桂△9二玉に▲3三角成と金を取ったところだ。△7一金と受けたくなるところ、里見は強く踏み込んだ。

【図2は▲3三角成まで】

図2以下の指し手
△8九角▲同玉△6九龍▲9八玉△7八金▲8二金△9三玉▲6六馬△7五歩▲7九歩△7六桂

△8九角が先手玉の弱点をついた捨て駒。▲6六馬から▲7九歩はうまい粘りだが、最後の△7六桂が決め手だ。△7六桂に▲7八歩と金を取るのは、△8八桂成▲同玉△8九飛▲9七玉△9九飛成▲9八金に△8四香で、先手玉は受けなしだ。

タイトルホルダー、挑戦者ともに好調の番勝負と言えそうだ。

勢いのある同世代の対決

里見と伊藤はこれまでに14度の対戦があり、里見の11勝、伊藤の3勝。このうちの12戦がタイトル戦の番勝負での対戦だ。里見はもちろん、伊藤も女流棋士になってからの4年間の間にどれだけ活躍してきたかがわかる。

二人の4度の番勝負は、いずれも里見の防衛という結果に終わっている。しかし内容では伊藤も負けてはいない。1月3日に放映された第1回女流AbemaTVトーナメントの決勝三番勝負では、金銀で相手の攻め駒を押さえ込む伊藤らしい指し回しで、里見を破り優勝している。これまで女流名人戦では里見が圧倒的な強さを見せているが、伊藤も得意の展開に持ち込めば、初戴冠の可能性も十分だ。

戦型は両者ともオールラウンドプレーヤーなので相居飛車から相振り飛車まで何でもありうるが、里見はやはり得意の振り飛車を採用する可能性が高く、まずは伊藤の序盤の工夫に注目だ。伊藤が押さえ込むか、里見が攻め切るか。26歳の里見と25歳の伊藤の、同世代ライバル対決にご期待いただきたい。

五番勝負第1局は、1月20日(日)、神奈川県箱根町「岡田美術館 開化亭」にて開幕する。

渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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