「観る将」を魅了した昭和のスター棋士・升田幸三をご存知ですか【升田幸三特集 第1回】

「観る将」を魅了した昭和のスター棋士・升田幸三をご存知ですか【升田幸三特集 第1回】

ライター: 古屋甲州  更新: 2019年01月11日

升田幸三をご存知ですか

升田幸三実力制第四代名人--。

昭和の将棋界で一番のスターは、と聞かれたら、大山康晴十五世名人でも中原誠十六世名人でもなく、多くの人がこの名前をあげるはずです。

どれほど魅力的な棋士だったのか。このコラムでとてもすべては書ききれませんが、あまりご存知ない方にも魅力の一端を感じてもらえれば幸いです。興味がわいた方には『名人に香車を引いた男 升田幸三自伝』(中公文庫)をお勧めします。

なお、「実力制第四代名人」という称号を軽んじるつもりはないのですが、かなり長いので書くにも読むにも少々煩雑です。以下は省略させていただきますので、ご了承ください。

升田といえば袴姿の和装に、無造作に伸びた長髪、貫禄たっぷりのヒゲ、というスタイルがおなじみです。伝説の将棋マンガ『月下の棋士』(小学館・能條純一)には刈田升三というほとんどそのままのキャラクターが同じスタイルで登場しています。

このスタイルは若いころからのものではなく、40代になってからでしょうか。30代までは洋装で短髪、ヒゲもあまりない写真が多く残っています。

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まだ和装の男性が多かった時期とはいえ、当時でもあのファッションは印象的でした。愛読していた剣豪小説の影響だとすれば、今でいうコスプレです。「将棋の升田」というイメージ作りを、けっこう楽しんでいたのかもしれません。「ヒゲの九段」=升田として定着していたのですから、イメージ戦略は大成功です。大酒のみのヘビースモーカーというのも、いかにも昭和の無頼派スターらしいところです。

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しかも、講演上手で対談上手。文明論から下ネタまで、話題の範囲はたいへんに広く、物事の本質を分かりやすく表現することに長けていたようです。自慢話も自虐ネタもおもしろく、毒のあるユーモアが人気でした。本人が「放言癖」とか「大ぼら吹き」などと言っているくらいですから、今なら大炎上の常連でしょうね。

豪放無頼な外見とは裏腹に、とても繊細な面もあったようです。人への配慮にはたいへん神経を使っていたらしく、それは師匠(木見金治郎九段)宅で内弟子だった少年期に培われたものかもしれません。

愛妻家でもありました。セクハラの権化のような顔をしていながら、式典などでは堂々と「女房のおかげです」と語ります。女性に関するスキャンダルは伝わっていません。

昭和に「観る将」という言葉はありませんが、そういう将棋ファンも少なくありませんでした。このように多様な魅力で、升田ほど当時の「観る将」を楽しませた棋士はいなかったでしょう。「観て楽しんでもらうことで成り立つ」というプロ意識がとても高かった棋士なのです。

政治、経済、文化、スポーツなど、あらゆる分野の著名人と交流があり、その人脈は将棋界発展の大きな支えになりました。日本将棋連盟の会長にはなりませんでしたが、ある時期には将棋界を代表する「顔」だったのです。おそらく本人にも、将棋界の広告塔としての自覚があったでしょう。

もちろん、ファッションや言動が注目されたのは、将棋がとても強かったからです。それもただ強いだけではなく、驚きの新戦法や派手な指し回しが多くの将棋ファンを魅了したからです。生涯成績は、正確には分かりません。戦前はもちろん、戦後もしばらくは、公式戦と非公式戦の区別などなく、戦災でなくなった記録も多いからです。

もともと升田の真価は勝敗の記録ではなく、棋譜そのものにあります。独創的な構想、華麗な駒のさばき。「升田幸三賞」は、その升田将棋を称えて創設されされました。
(※注 「升田幸三賞」とは、主にその年度において注目された斬新な発想による戦法・戦術が対象となり、また感動を与えた新手や妙手なども対象として選考される賞)

次回は、升田が社会的スターとなった王将戦の創設についてご紹介します。

プロフィール升田幸三実力制第四代名人

大正7年(1918年)3月21日、広島県三良坂町(現三次市)出身。木見金治郎九段門下。弟弟子の大山十五世名人は5歳年下。木村義雄十四世名人は6歳年上です。昨年は生誕100年でした。 昭和54年(1979年)に引退。長く「ヒゲの九段」として親しまれましたが、昭和63年(1988年)に実力制第四代名人の称号を贈られています。平成3年(1991年)4月5日に73歳で死去しました。
古屋甲州

ライター古屋甲州

サラリーマンを定年前に卒業し、フリーに転身した昭和のおじさん。 活字媒体からデジタルメディアまで、制作全般に携わってきた。 棋戦運営の経験もあり。

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