斎藤王座と藤井新人王が誕生した10月。白熱したそれぞれの対局を棋譜と解説付きで振り返る【注目対局プレイバック 2018年10月下旬】

斎藤王座と藤井新人王が誕生した10月。白熱したそれぞれの対局を棋譜と解説付きで振り返る【注目対局プレイバック 2018年10月下旬】

ライター: 渡部壮大  更新: 2018年11月19日

10月下旬は斎藤慎太郎王座の誕生となった王座戦五番勝負。また、藤井聡太七段が最後となる新人王戦で優勝を飾りました。竜王戦は羽生善治竜王が2連勝と防衛に前進しています。(肩書は当時のもの)

【第66期王座戦五番勝負第5局】

第1図は第66期王座戦五番勝負第5局(▲斎藤慎太郎七段△中村太地王座)の終盤戦。図の△7七銀は最後の勝負手ですが、斎藤七段は落ち着いた対応で勝ちきりました。図から▲7七同金△7六歩に▲4三桂△同銀▲同歩成△同金に▲4四歩が要の金を狙いながら「寄せは俗手で」と基本に忠実な寄せ。

△7七銀に▲同金△7六歩の局面は先手玉が詰まない形になるため、駒を渡しても詰めろで迫れば良く分かりやすい形です。拠点を生かした打ち込みから後手玉に迫って寄せきりました。フルセットの激闘を制した斎藤七段が、初タイトルを獲得しました。

【第31期竜王戦七番勝負第2局】

第2図は第31期竜王戦七番勝負第2局(▲広瀬章人八段△羽生善治竜王)の終盤戦。形勢は後手優勢ですが、先手も上部脱出を含みにしています。守備の要の金は7六の金ですが、どう寄せていくのが良いでしょうか。

図から△7七歩▲8七玉△8四香▲8六桂△7八歩成▲同玉△8六香▲同金△6六馬で寄り筋に。

△7七歩は上部脱出のお手伝いをしているようですが、▲8七玉に△8四香が狙い。やはり歩合ができない時の香打ちは迫力があります。桂合をさせてから△7八歩成が「玉は下段に落とせ」の寄せ。次に△6八馬など開き王手があるので▲7八同玉と取るよりありません。それから△8六香▲同金の局面は、守備の要だった7六の金を8六に移動させた格好で、△6六馬と上から押さえつける寄せが実現しました。羽生竜王が2連勝で、通算100期に向けて前進しています。

【第49期新人王戦決勝三番勝負第2局】

第3図は第49期新人王戦決勝三番勝負第2局(▲藤井聡太七段△出口若武三段)。先手は2~3筋を突破して攻め込んでおり優勢ですが、後手も田楽刺しで反撃してきました。ここであっさりと▲3七同飛が「一段金に飛車捨てあり」です。以下△3七同銀不成▲3三桂成△同桂▲同銀成△5四金に▲4三歩とゆっくりした攻めが間に合いました。

3九の金が先手陣を安定させており、後手の馬を封じ込めているとともに、飛車を渡しても打ち込むスキがありません。渡した飛車は終局まで攻めに使われることはありませんでした。藤井七段が貫録を見せて2連勝で優勝。早くも新人王戦の参加は最後でしたが、有終の美を飾りました。

(第4図)

【第40期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負第2局】

第4図は第40期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負第2局(▲里見香奈女流王将△加藤桃子初段)。

後手は駒の枚数こそ多いのですが、7筋で遊んでいる2枚の銀が気掛かりです。ここで△8八飛のような攻め合いだと▲4四歩△同歩▲同馬が厳しい攻め。図で△4一飛が「自陣飛車に好手あり」の受け。これで馬の行き場所がなく、最後の一歩を▲7二歩と使うようではつらいところ。実戦は馬取りに構わず▲4四歩と攻めて難しい戦いが続きましたが、最後は里見女流王将が競り勝ち、2連勝で防衛を決めています。

【第8期リコー杯女流王座戦五番勝負第1局】

第5図は第8期リコー杯女流王座戦五番勝負第1局(▲清水市代女流六段△里見香奈女流王座)。形勢は後手勝勢ですが、どう決めるか。△8三玉は「玉の早逃げ八手の得」で玉を安全にして勝つ方針。実戦の△3九とは「と金の遅早」で1手勝ちを狙いました。以下▲9一銀成△4九と▲8六香△7四玉▲7五歩△6四玉▲3三飛成△5九とで先手玉に詰めろが掛かりました。

と金を使った攻めなら駒を渡さずにすみます。後手玉は不安定ですが、駒さえ渡さなければ大丈夫です。長手数の勝負を制した里見女流王座が好スタートを切っています。

注目対局プレイバック

渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

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高崎一生

監修高崎一生七段

棋士・七段
1987年生まれ、宮崎県日南市出身。2005年10月に四段。(故)米長邦雄永世棋聖門下。 攻める棋風を持ち味としている振り飛車党。
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