奇襲戦法で相手を泥沼に嵌める。窪田七段直伝の鬼殺しを通じて奇襲戦法への理解を深めましょう!

奇襲戦法で相手を泥沼に嵌める。窪田七段直伝の鬼殺しを通じて奇襲戦法への理解を深めましょう!

ライター: 窪田義行七段  更新: 2018年11月13日

こんにちは、棋士の窪田です。第2回では、鬼殺しの切り札▲6五桂を「振り飛車らしいカウンターの捌き」として、決行した時の威力をご堪能頂きました。しかし、後手にも△6二銀以外に抵抗の余地はありそうですから、第3回でそれらへの対応策を詳説しつつ、更に鬼殺しを通じて奇襲戦法への理解を深めて頂きます。

奇襲戦法の定義を今一度確認しておきます。

【奇襲戦法の三大定義】

(1)「相手の準備が整う前に、意表を衝いて仕掛ける」

(2)「玉の囲いや攻防の駆け引きを省いて、シンプルに攻める」

(3)「相手陣や相手の心理を利用して、正攻法では得られない大戦果を挙げる」

後手玉の位置に応じて最適な攻め筋を選ぶ

それでは、第2回の第2図(再掲)からの指し手を研究してみます。

【第2回第2図(再掲)は▲6五桂まで】

△6二玉▲7四歩△同歩(第1図)

【図1は△7四同歩まで】

前回では、後手の6二銀は居飛車として自然でしたが、2二を先手に占拠されてしまう場合、壁銀としての不利が生じました。そこで、今度は2筋から遠ざかりつつ、玉自らが5三を受けます。それでも、▲2二角成△同銀▲7七角△8九飛成▲2二角成と進めると、今度は『角(馬)には角で対抗する』△3三角(参考図1)が気になります。

【参考図1は△3三角まで】

▲2一馬は△9九角成と香を取られ、居玉の場合と違って▲3二銀が余り効いておらず、▲8八飛のぶつけも数が足りません。奇襲戦法の定義(1)はともかくとして、もたつくと自陣に手が戻ったり、遠巻きの攻めが必要となって、定義(2)から遠ざかり、定義(3)を実現するまでに手数が掛かりそうです。

▲同馬△同桂と交換に応じた後に3三桂を攻めるにせよ、6二玉型では効果が薄いでしょう。そこで、6五桂の協力で▲7四歩と玉のコビンをこじ開けに掛かります。後手は、なんとかして6五の桂を取り切るたいので、△同歩と応じますが、逆に巨大な危険に近付いてしまったようです。

8六飛型には王手飛車

第1図からの指し手

▲2二角成△同銀▲9五角(第2図)

【第2図は▲9五角まで】

先手の▲7四歩自体は、『開戦は歩の突き捨てから』といった格言にもあるとおり、振り飛車には馴染み深い筋です。この場合、後手の飛が△8六飛と飛び出し、王手飛車を狙う▲9五角を成立させるための突き捨てです。早逃げを図る後手の心理を衝いて王手飛車を実現し、見事に定義(3)を達成しました。以下、説明の要はないでしょう。

お互いの玉の見た目に惑わされずに、安全度を見極める

第2回第2図(再掲)からの指し手

△4二玉▲2二角成△同銀▲7七角△8九飛成▲2二角成△3三角(第3図)

【第3図は△3三角まで】

先程の6二玉は8六飛型との相性が最悪なので、5三を守りつつ早逃げするなら△4二玉の方が優ります。先手は、第2回同様に2二銀を取りつつ馬を作りますが、先程の変化にも現れた△3三角の合わせへの対応が問題です。

▲同馬△同桂と先手が交換に応じ、慌てて▲8八飛とぶつけると、△7七角(参考2図)の王手飛車で失敗します。

【参考図2は△7七角まで】

居玉での奇襲ですので、有利でも一発を食らう余地はあります。お互いの玉が、見た目より安全か危険かを見極める必要があるでしょう。後手玉の位置を見極めた、馬の処置はどうでしょうか。

桂のコンビに手筋の歩を組み合わせて攻略

第3図からの指し手

▲2一馬△9九角成▲4五桂△5二金右▲8八歩(第4図)

【第4図は▲8八歩まで】

先手は、▲3三同馬△同桂と交換に応じ、▲6六角と角(馬)のラインを引き直す筋も有力です。▲5三桂成△同玉▲3三角成の攻めと、▲8八飛の捌きを狙った八方睨みの角です。後手は再び角には角の△4四角で対抗しても、得した銀を▲5五銀(参考図3)と投入し、先手を取りつつ△6四歩を防ぐ味が堪りません。以下、後手△3五角は6六角が5七を守って先手になりません。

【参考図3は▲5五銀まで】

とは言え、先手が定義(2)に従って速戦即決するには、▲2一馬と玉に近い桂を奪いつつ、馬を敵陣に残留させるべきです。△3一金には▲5三桂成△同玉▲3一馬(参考図4)があるので、△9九角成から△7七香を狙います。ここで▲4五桂と2枚目の桂を放ち、△5二金右に▲8八歩が、振り飛車での中・終盤戦に散見される手筋です。

【参考図4は▲3一馬まで】

先手は一歩で後手の龍の縦効きと馬の斜め効きを遮断し、△8八馬(龍)▲同飛△同龍(馬)と取られても飛が捌けるので、「大駒を手にして、美濃囲いを活かした反撃ができる」という展開ですが、本譜では居玉ながら7九銀が歩に利いています。以下、▲1一馬が▲3三馬以下の詰めろなので△4四歩と催促しても、▲3三銀△5一玉により重要な金を直撃する▲5三桂右不成が厳しく、定義(2)と(3)に相応しい成果を挙げる事ができました。

相手をシンプルな仕掛けで泥沼に嵌めるのも奇襲戦法の魅力

さて、次回は、後手が反省して少し捻った対応について記載します。それを撃破した後で、更に遡った局面での対応を紹介して行きます。後手は、居飛車を諦めて相振り飛車で妥協する手段もありますが、きちんとした対応策を採らずに居飛車で意地を張る相手を、シンプルな仕掛けに嵌めていくのも奇襲戦法の魅力です。

今回のまとめ

「相手玉の位置で攻め筋を選ぶ」

「8六飛型に王手飛車の筋あり」

「お互いの玉の安全度を見極める」

「飛の捌きより龍と馬を封じるべき場合もある」

「シンプルな仕掛けで相手を泥沼に」

奇襲戦法

窪田義行七段

ライター窪田義行七段

1972年東京都の生まれ。1984年に第9回小学生名人戦で優勝し、同年、奨励会6級で故・花村元司九段に入門。2010年の第36期棋王戦、2006年の第56回NHK杯将棋トーナメントでともにベスト4。主として四間飛車及び角交換向かい飛車を愛用する、振り飛車党の一人。

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