中原誠十六世名人などプロの実戦から学ぶ矢倉の崩し方【第66回 矢倉の崩し方】

中原誠十六世名人などプロの実戦から学ぶ矢倉の崩し方【第66回 矢倉の崩し方】

ライター: 一瀬浩司  更新: 2018年11月12日

今回のコラムも、矢倉における4六銀、3七桂型から攻めていく指し方を解説していきます。それでは第1図です。

【第1図は▲3三歩まで】

前回のコラムでは、ここから△3一金や△2三金とかわす手と、角や金で3三の歩を取ってきた場合について解説しました。いずれの変化も先手よしになりましたね。今回は、△3三同桂と取ってくる場合について見ていきましょう。

ここで、先手の手段は二通りあります。▲2四角と歩を取る手と、▲1三桂成と薄くなった端に突っ込んでいく手です。それでは、まずはせっかく角筋が止まったことですし、▲2四角と取っていく手を見ていきましょう。今度こそ、▲1三桂成△同香▲1四歩とする手が厳しいですし、単に▲1四歩と突いていく手も相当なきつさです。△1四同歩に、▲1二歩と一発叩くのが好手です。△2三金なら、▲1三銀△3二玉▲1一歩成(▲6八角もある)ですし、△1四同香も▲1四香(第2図)と走れば、次に▲1二香成が厳しく残っています。

【第2図は▲1四香まで】

第2図から△1四同香は▲1三角成△2一玉▲1二銀までですし、△2三金も▲1二香成△同玉▲3二銀で後手陣は崩壊します。

よって、▲2四角にはなにか受けなければなりませんが、△2五桂は▲同歩と取っておいて、さらに△2四角としても▲同歩で2六の歩があっという間に2四まで伸びていき、調子がよいですね。△2三金も▲4六角や▲6八角と引き揚げておいて後手陣が乱れて先手十分ですね。

では、プロの実戦例を見ていきましょう。第3図は平成18年11月14日、第55期王座戦二次予選、▲中田宏樹八段ー△川上猛六段戦(肩書は当時)です。

【第3図は▲2四角まで】

コラムのように、中田八段が▲3三歩△同桂▲2四角としたところですが、川上七段の攻め駒も先手陣に向いており、いかにもここからさらに激しくなりそうな局面ですね。

ここから川上七段はいったん△2五桂と取り、▲同歩に△7七桂成▲同金寄△6五桂と手にした桂をもう一回6五へ打ちつけました。中田八段も負けてはいません。▲4六角と飛車取りに引き、△6四角に▲2四桂(第4図)と金取りに打って、矢倉らしい激しい攻め合いが繰り広げられました。

【第4図は▲2四桂まで】

コラムでは、わかりやすいように先手の攻撃陣だけを盤面に配置して、一方的に攻める展開を解説していますが、実戦では好きなようには相手もさせてくれないので、このように手にした駒で反撃されることもよくあります。

それでは、もう一例。第5図は昭和55年5月8日、第21期王位戦挑戦者決定リーグ紅組、▲有吉道夫九段ー△中原誠名人戦(肩書は当時)です。

【第5図は▲2四角まで】

これも▲3三歩△同桂に▲2四角と出たところです。中原十六世名人は、手厚く△2三銀と打ちました。今度は▲4六角と引いても飛車取りにならないので、有吉九段は▲6八角と深く引き、△2四歩に▲7五歩と今度は後手の攻撃陣を狙っていきました。△2五歩▲7四歩となれば、桂の取り合いとなるところですが、中原十六世名人は△8六歩▲同歩△8七歩▲同金と先手陣を乱してから△2五歩と桂を取りました。そして▲7四歩に△6五桂(第6図)が手筋の好手です。

【第6図は△6五桂まで】

▲6五同歩と取らせることによって、5四の銀がいつでも6五に進出できるようになりましたね。一手早く先手に桂を取られてしまいますが、結局▲7三歩成と成ってくるので、それなら桂を先に捨てて攻めやすい形にしておこう、という考え方です。第6図からは▲6五同歩△7五桂▲7三歩成△8一飛▲7六金右と進み、ねじり合いが続いていきました。

矢倉の崩し方

一瀬浩司

ライター一瀬浩司

元奨励会三段の将棋ライター。ライター業のほか、毎月1回の加瀬教室や個人指導など、指導将棋も行なっている。主なアマチュア戦の棋歴としては、第34期朝日アマチュア将棋名人戦全国大会優勝、第63回都名人戦優勝などがある。

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阿部光瑠

監修阿部光瑠六段

棋士・六段
1994年生まれ、青森県弘前市出身。2011年4月に四段。2013年に第2回電王戦でコンピュータソフト・習甦(しゅうそ)と対局し、快勝。 2014年の第45期新人王戦で優勝。居飛車、振り飛車ともに指すオールラウンドプレイヤー。
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