前夜祭や現地イベントなどが大盛り上がり!里見女流王座VS清水女流六段、女流王座戦第1局を山口絵美菜女流1級がご紹介。

前夜祭や現地イベントなどが大盛り上がり!里見女流王座VS清水女流六段、女流王座戦第1局を山口絵美菜女流1級がご紹介。

ライター: 山口絵美菜  更新: 2018年11月08日

里見香奈女流王座に清水市代女流六段が挑戦する第8期リコー杯女流王座戦五番勝負。三連覇をかけた里見女流王座と、錚々たる面々を撃破し、女流タイトル戦登場の史上最年長記録を塗り替えた清水女流六段の対決は、東西合戦の地・岐阜で開幕を迎えました。今回はその模様をたっぷりとお届けします!

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第1局の舞台「十八楼」

10月22日(月)、移動日。里見女流王座は大阪から東に向かい、挑戦者・清水女流六段は東京から西へ。西からは立会人の谷川浩司九段、解説の長沼洋七段、新聞解説の山崎隆之八段、聞き手に長谷川優貴女流二段と私、山口絵美菜、東からは佐藤康光会長が新幹線に乗り込みます。金色に輝く信長像が出迎える岐阜駅で落ち合った関係者一行。シャトルバスに乗り込むと、運転手さんが「右手に見える金華山は東京タワーと同じくらいの高さなんですよ。岐阜城の天守閣まで登ると、東京タワーより高いです」「金華山には7つの登り方があって、30分くらいで登れます。ロープウェイでも行けますよ」とアナウンス。右手に金華山、左手に長良川を眺めながら岐阜市内を進み、やってきた第1局の舞台は「十八楼」。第75期名人戦七番勝負(佐藤天彦名人 対 稲葉陽八段)第4局も行われた、川原町の趣ある通りに佇む創業150余年の老舗旅館です。

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第75期名人戦七番勝負第4局が十八楼で行われ、その時の封じ手や色紙などが館内に飾ってある。

到着してすぐ観光へ。目の前を悠々と流れる長良川で、鵜飼の船「信長丸」に乗り込みました。両対局者の記念撮影のためにカメラマンが準備をしていると、その間、清水女流六段がご自身のスマートフォンを取り出して里見女流王座とツーショット撮影をするという場面も。和気藹々とした雰囲気に包まれていました。その後は十八楼に戻り検分へ。対局室で盤の前に座ると両対局者の表情は一変し、凛とした勝負の空気に様変わり。空気がピンと張り詰める中、照明の調整が行われました。

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信長丸で記念撮影。

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検分の時の模様。

その後の前夜祭では再び和やかな雰囲気に。両対局者の周りにはファンの方が押し寄せ、人垣ができるほどの大賑わい。岐阜名産の鮎や将棋の駒を模したクッキーなどさまざまなご馳走が振舞われ、大盛況のうちに幕を閉じました。長良川温泉で英気を養い、勝負の日を迎えます。

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前夜祭にて、両対局者へ花束が贈呈された。

10月23日(火)、岐阜は晴れ。緊張感が漂う対局室に、先に清水女流六段が姿を見せました。岐阜市の名産・柿を意識した、秋らしい着物に深い緑の袴姿です。入室前に戸口で正座し、対局室に向けて一礼すると、すっと盤の前へ。程なくして入室した里見女流王座は上下紺色の袴姿で、白いグラデーションと赤の差し色がアクセントという出で立ち。岐阜県知事の振り駒の結果、清水女流六段が先手になると、序盤は、ぱたぱたとハイペースで進んでいきました。

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先に着座した清水女流六段の脇通る里見女流王座。

同じく十八楼の二階では、現地イベントが開始。大盤解説、指導対局、サイン会と豪華なプログラムです。大盤解説には長沼七段と私、山口が登壇し、序盤を解説しました。清水女流六段が居飛車に構え、早々端を突きこすと、里見女流王座が中央から果敢に動いていくという展開になり「しっかり準備してないと指せない形ですよね〜」と長沼七段。早い段階で定跡を外れ、構想力が問われる将棋になりました。続いて長沼七段から佐藤会長(九段)にバトンタッチ。常務理事を務め、多忙を極める中でタイトル戦挑戦を果たした清水女流六段の話題になると「どうやって勉強してるのか教えて欲しいですよ」とコメント。続いて佐藤九段と長沼七段の兄弟弟子コンビでの解説に交代。岐阜出身の長沼七段に「岐阜アピールをしてみてくださいよ」と佐藤九段が投げかけ、岐阜弁や岐阜銘菓、長良川など岐阜トークに花が咲きました。そうこうするうちに局面は中盤へ。足早に繰り出した右銀を一歩も引かず、清水女流六段が▲5五銀と中央に進出すると里見女流王座は△2二飛と向かい飛車に振り直して戦線変更。昼食休憩に合わせて会場では次の一手が出題されました。三択のうち長沼七段が候補にあげた▲5八金上が正解だったのですが、その一手に投票したのはわずか2人。里見女流王座も意表を突かれたのか、30分を超える長考に沈みました。

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指導対局をする山口女流1級。

午後は谷川九段のサイン会も開催。希望者多数の大賑わいで、いつまでも列が途切れませんでした。大盤解説には長沼七段と長谷川女流が登壇。長谷川女流二段が対局室の様子を写すモニターを見て里見女流王座が午後になって髪を結んでいることを話題にすると「さすがですね〜女性はそういうことにすぐ気がつきますね」と微笑む長沼七段。ゆったりとしたやりとりが続きます。続いて谷川九段と山崎八段が登場。「いや〜僕と谷川先生はよく当たりますよね!この間も負かされましたよ〜」という山崎八段に「また当たりますよ」と谷川九段。「え!そうなんですか?」と驚く山崎八段に会場は大爆笑。ゴールデンコンビの楽しい解説でした。

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サイン会での谷川九段。

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大盤解説会での長沼七段と長谷川女流二段。

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谷川九段と山崎八段の大盤解説は、絶妙な掛け合い。

盤上では本格的な戦いが開始。厚みを築く清水女流六段に、里見女流王座が2筋からの捌きを狙います。飛車が玉側に追いやられた先手に対し、飛車も角も味よく成り込んだ後手。駒の働きの違いが大きいと、検討陣の見解は後手もちになりました。「早い終局もあるかもね」という声も聞こえる中、解説は長沼七段と長谷川女流二段へバトンタッチ。▲6四馬の局面で「△7四金と打てば手厚いですね」と検討していましたが、本譜は△6三歩。▲2八馬と竜に当てつつ引きつけると、様子は一変。竜を逃げ、馬が追い、また竜が逃げ...「千日手になるんじゃないか?」と検討陣が危ぶむ中、清水女流六段が▲4八銀と引いて打開すると「おおっ!」と声が上がりました。後手良しだった形勢は一転して、形勢は混沌、そして先手が盛り返し、流れを引き寄せていきます。ここで大盤解説は長谷川女流二段と私の「ダブル女流」の組合わせへ。「どっちも聞き手ですね」と切り出した長谷川女流二段に「この局面はどう指すんですか?」と先手を打たれ、私も「どう指すのがいいでしょう?」と返すという珍しいやりとりをする中で、なんと指し手を確認するために使っていたタブレットが充電切れでシャットダウンするというハプニングが発生。対局室のモニターを見ながら指し手の大まかな位置を見て指し手を推測したり、客席から指し手を教えていただいたりしながら進行していきました。

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昼休後は、髪を結わいて対局に臨んだ里見女流王座。

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緊張感漂う対局中のふとした瞬間、外の景色に目をやる清水女流六段。この写真は、まさにこれから終盤戦に入ろうかといった15時頃の対局中に撮影したもの。

勝負はいよいよ終盤戦。清水女流六段が盛り返したかに見えましたが、一手の緩みをついて一気に里見女流王座が巻き返し、一転して優位に立ちました。中段まで逃げ出した里見玉にあと一歩が届きません。途中怪しい局面もありましたが、最後は里見女流王座が即詰みに打ち取り、初戦を飾りました。終局後、大盤解説会場に両対局者が足を運ぶと、会場は拍手に包まれ、本局の感想と次局への抱負、そしてお越しの皆様への感謝を述べると、現地イベントは盛会のうちに幕を下ろしました。

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終局後に両対局者は、大盤解説会に登壇した。

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緒戦を制した里見女流王座。

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一瞬勝ちが見えたかにも思えたが、惜しくも敗れた清水女流六段。

里見女流王座が防衛にあと一勝と迫るのか?清水女流六段が一勝を返して星を五分に戻すのか?注目の第2局は11月8日、高知県高知市の「ザ クラウンパレス新阪急高知」にて行われます!

写真は全て撮影:常盤秀樹

山口絵美菜

ライター山口絵美菜

1994年5月生まれ、宮崎県出身の女流棋士。2017年に京都大学文学部を卒業し、在学中に研究した『将棋の「読み」と熟達度』を足掛かりに、将棋の上達法を模索している。
将棋を覚えるのが遅かったため「体で覚えた将棋」ではなく「頭で覚えた将棋」が強くなるには?が永遠のテーマ。好きな勉強法は棋譜並べ。

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