タイトル100期か無冠転落か。羽生竜王VS広瀬八段、竜王戦七番勝負の展望は?(両者インタビューあり)

タイトル100期か無冠転落か。羽生竜王VS広瀬八段、竜王戦七番勝負の展望は?(両者インタビューあり)

ライター: 松本哲平  更新: 2018年10月11日

羽生善治竜王広瀬章人八段が挑戦する第31期竜王戦七番勝負が開幕する。前期の竜王復位で「永世七冠」を達成した羽生は通算タイトル100期が懸かり、竜王初挑戦の広瀬は2010年に獲得した王位以来のタイトルを目指す。羽生は前人未到の大台到達が期待される一方、防衛に失敗すれば無冠に転落。1990年11月の竜王失冠から1991年3月の棋王獲得まで続いた無冠期間以来、実に27年ぶりとなる。

2人の対戦成績は羽生15勝、広瀬8勝と羽生リード。これまで2度の王位戦七番勝負、朝日杯将棋オープン戦決勝と、大舞台での勝負は羽生が制してきた。しかし、直近の2局である8月の王将戦二次予選、9月の棋王戦挑戦者決定トーナメントは広瀬が連勝。今期、広瀬は11連勝と自己最高記録をマークするなど絶好調だ。勢いに乗る実力者の広瀬を、羽生が大記録を懸けて迎え撃つシリーズになる。

羽生善治竜王「記録意識せず、積極的な気持ちで」

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撮影:常盤秀樹

――前期は竜王奪取による永世七冠達成、国民栄誉賞受賞と、竜王戦での活躍で将棋界の内外が沸いた。この一年を振り返ってどうか。

今まで将棋に関心を持っていなかった人にも、興味を持ってもらえることが少しずつ増えた。ありがたいことだと感じている。

――今年度3度目のタイトル通算100期が懸かる番勝負になる。竜王戦では今期は防衛側となり、前期と立場も変わる。

記録が懸かっていることは認識している。ただ、始まってしまえば意識することはない。積極的な気持ちは変わらずに臨みたい。

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撮影:常盤秀樹

――挑戦者の広瀬八段の印象はどうか。前に王位戦七番勝負で2回対戦しているが、どちらのシリーズでも勝っている。

最新の戦型に詳しく、終盤での切れ味に特徴がある。(王位戦は)だいぶ前の話なので、新たな感じの番勝負になると思っている。

――今年度成績は14勝14敗(0.500)。七番勝負に向けての調子はどうか。

コンディションは良くも悪くもないが、もう少し練度を上げて臨みたい。今シリーズは歴史的な由緒ある場所で行われるので、それにふさわしい将棋が指せるように頑張りたい。

広瀬章人八段「大役担うシリーズ、挑戦者らしく堂々と」

――初の1組でランキング戦優勝、決勝トーナメント初出場、挑戦者決定三番勝負では深浦康市九段を破って挑戦権獲得。今期の戦いを振り返ってどうか。

トッププロとの対戦が続いた中で結果を残せたことは満足だし、自分でも驚いている。挑戦者決定三番勝負第2局は何度も形勢が揺れ動く中で勝てたこと、大きなピンチをしのげた点で印象に残っている。

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撮影:常盤秀樹

――羽生竜王の印象は。王位戦七番勝負では防衛と挑戦で計2回戦っているが、いずれも敗れている。

現在の30代近辺の棋士は羽生竜王の将棋を模範としている人が多い。最新形だけでなく昔の将棋にも精通していて、引き出しが多い印象がある。(王位戦の結果は)あまりマイナスにはとらえていない。直近の2局で勝てたことが自信につながっていると思う。

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撮影:常盤秀樹

――今年度成績は20勝5敗(0.800)と好調だ。七番勝負への抱負を。

接戦の将棋が多い中、うまく指せている。自分にとっては久しぶりのタイトル戦でチャンスをものにできるかはもちろんだが、羽生竜王にとっては通算100期か無冠かということで、どちらの結果でも将棋界にとって一つの区切りになることは間違いない。大役を担うシリーズになるが、挑戦者らしく堂々とぶつかっていきたい。

主戦場は相居飛車の最新形、後手番でのブレイクがカギ

戦型については両者とも居飛車が主軸なので、角換わりをはじめとした相居飛車の最新形が中心になるだろう。羽生の「練度を上げて臨みたい」という言葉からは、最新形に対する課題意識がうかがえる。最近の傾向として、予定調和のように玉を固め合う展開は少なく、隙あらば攻めるの精神で早くから動くことが多い。1日目から緊迫した戦いになることが予想される。

今年度のタイトル戦は先手勝率の高さが特に目立つ。名人戦、叡王戦、棋聖戦、王位戦、王座戦(第3局まで終了、進行中)の5つの番勝負を合わせた戦績は、先手から見て20勝5敗1千日手と、実に勝率8割。今回の七番勝負でも先手番がサービスエースを決める流れになりそうだが、それだけに後手番でブレイクできれば有利な状況につながる。主流戦法を受けて立つのか、変化球を投げるのか、それぞれの作戦選択を含めて注目したい。

七番勝負第1局は、10月11・12日に東京都渋谷区「セルリアンタワー能楽堂」で行われる。
(※文中の記録に関する記載は、2018年10月8日時点のもの)

松本哲平

ライター松本哲平

2009年、フリーの記者として活動を始める。日本将棋連盟の中継スタッフとして働き、名人戦・順位戦、叡王戦、朝日杯将棋オープン戦、NHK杯戦、女流名人戦で観戦記を執筆。連盟フットサル部では開始5分で息が上がる。

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