"最後の新人王戦"藤井七段VS"史上2人目の三段優勝なるか"出口三段。両者はじめての番勝負を制するのは?

ライター: 渡辺弥生  更新: 2018年10月10日

決勝三番勝負は、藤井聡太七段vs出口若武三段

第49期新人王戦、決勝三番勝負に名乗りを上げたのは、藤井聡太七段出口若武三段の二人。2連覇中のディフェンディング・チャンピオン、増田康宏六段は、準々決勝で梶浦宏孝四段に敗れた。その梶浦を下し、勝ち上がってきたのが三段の出口だ。一方、5月に七段へ昇段した藤井は、今期が新人王を獲る最後のチャンス。出口はもちろん、藤井にとっても初めての番勝負として注目を集めている。その展望を簡単に予想してみたい。

痛快な攻め将棋のオールラウンドプレーヤー

出口は関西奨励会に所属。井上慶太九段門下で、現在23歳だ。初戦から順に冨田誠也三段、澤田真吾六段、井出隼平四段、甲斐日向三段、梶浦宏孝四段を連破。準決勝で当たった梶浦は、新人王戦同様この10月に決勝三番勝負が行われる第8期加古川青流戦で決勝進出を決めたばかりだった。飛車を切り、角を切り、小駒で敵玉に食い付いた出口が、最後まで緩まず攻め切って快勝。まず決勝進出を決めた。

現在新人王戦には奨励会三段リーグ戦の上位者が参加している。出口は2013年4月の第53回三段リーグに初参加。以来、三度、12勝6敗の成績をとっており、昇段まであと一歩のところまで来ている。新人王戦も4期連続、4度目の出場になる。プロ公式戦の成績は13勝8敗と、勝率6割を超える。

棋風は居飛車、振り飛車どちらも指しこなすオールラウンドプレーヤー。薄い玉形のまま思い切りよく踏み込んでいく、切れ味鋭い攻め将棋だ。

3回戦の井出との一戦をご紹介しよう。井出は第6期加古川青流戦で優勝した経験のある実力者。「角道を止める四間飛車」の使い手として知られている。

【図1は△7八銀まで】

図は終盤戦、後手の出口がタダのところに△7八銀と打ったところだ。この手が好手。▲7八同飛と取るのは、△6九銀▲6八飛△5八銀成▲同飛△4七金▲4九玉△5七桂成▲同金△同飛成で、先手玉は受けなしだ。

実戦、井出は△7八銀に▲5四角成△同歩▲4八歩と辛抱したが、そこで△8七銀打で先手の飛車が捕まった。ペースを握った出口は、最後は竜を切って一気に先手玉を寄せ切った。

これまでに新人王戦で決勝へ進出した三段は、第23期の石飛英二三段、第39期の星野良生三段(現四段)、第44期の都成竜馬三段(現五段)、第46期の大橋貴洸三段(現四段)の4人。このうち、都成が藤森哲也四段(現五段)を破って優勝している。

2018shinjin01.JPG
第44期新人王戦決勝三番勝負第3局終局後の模様。都成三段(当時)は、藤森四段(当時)を破り、優勝を決めた。三段の優勝は、この時が初めてだった。撮影:常盤秀樹

決勝まで勝ち上がっていることはもちろん、決勝へ進出した三段の4人のうち、3人がその後四段へ昇段していることからも、出口がプロの四段に引けを取らない力を持っているのは、間違いないだろう。また、新人王戦で三段が優勝した場合には、進行中の三段リーグにおいて次点がつくという制度があり、出口にとって今回の番勝負は四段へ一歩近づくチャンスでもある。

飛ぶ鳥を落とす勢いの16歳

5人目の中学生棋士として14歳でデビューし、29連勝を記録して「藤井フィーバー」を巻き起こした藤井も、この10月でプロになってちょうど2年になる。現在、高校1年生。

今年に入ってからも、藤井の活躍は目覚ましい。2月1日、第76期順位戦でC級1組へ昇級し、五段へ昇段。わずか2週間余りの2月17日には第11回朝日杯将棋オープン戦で優勝し、史上最年少六段に。5月18日には第31期竜王戦ランキング戦で4組へ昇級、史上最年少七段になった。新人王戦の出場資格は「六段以下」であるため、藤井は今期が最後の新人王戦ということになる。

2018shinjin02.JPG
第76期順位戦C級2組9回戦(梶浦四段 対 藤井聡四段[当時])、藤井聡四段が着座している横を通る梶浦四段。藤井聡四段がこの対局に勝つと、五段昇段を決める一戦とあり、多くのマスコミが対局開始前から詰め掛けた。撮影:常盤秀樹

藤井はこの第31期竜王戦決勝トーナメント入りのほか、第66期王座戦挑戦者決定トーナメントでベスト4まで勝ち上がるなど、各棋戦で活躍している。今期の成績は20勝5敗。勝率8割は全棋士中3位。今期も飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

今期新人王戦は初戦から順に古森悠太四段、八代弥六段、近藤誠也五段、青嶋未来五段を連覇。中盤でリードを奪う危なげのない勝ち方で、16歳とは思えない安定感がある。

準決勝の青嶋との一戦をご紹介しよう。青嶋もまた初参加の第74期順位戦でC級2組を一期抜けし、2016年度の成績優秀者へ贈られる第44期将棋大賞のうち、勝率1位賞と連勝賞を受賞した強敵だ。

【図2は▲8九同飛まで】

先手の青嶋が得意の右玉に構え、積極的に仕掛けたところを巧みに反撃した藤井が優勢に。図はその終盤戦。先手の青嶋が▲8九同飛と、と金を払ったところだ。

なんとここで藤井は△5六飛!藤井らしい、強烈な飛車切りが出た。▲5六同歩の一手に、△6五桂が鋭い捨て駒。以下、▲6五同歩△6六桂▲5七玉△7八桂成▲3四桂△7五角と進み、藤井が先手玉を即詰みに討ち取った。

中盤でどちらが流れを引き寄せるか

藤井と出口は、藤井が一期抜けした第59回奨励会三段リーグ戦で一度対戦しており、藤井が勝っている。藤井の今の活躍ぶりを考えると、やや藤井が有利と言えるだろう。藤井がいつも注目を受け続けていて、こうした大舞台に場慣れしていることが大きい。

とは言え、出口の攻めが筋に入ったときの破壊力は相当なもの。出口としては、いかに場の雰囲気に飲み込まれず、普段通りの力を出せるかどうかがカギになりそうだ。

藤井が居飛車を選ぶのは間違いない。出口は居飛車と振り飛車どちらも指すので、戦型は出口次第ということになる。出口が居飛車なら相掛かりや横歩取り、振り飛車なら三間飛車や中飛車が有力だ。藤井はいつも通り、出口の得意を受けて立つ姿勢で臨むだろう。まず中盤でどちらが流れを引き寄せるか、注目である。

決勝三番勝負は、10月10日、「関西将棋会館」にて開幕する。

渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

このライターの記事一覧

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています