久保王将、菅井七段から学ぶさばきの心得。将棋の考え方にまつわる格言とは【将棋の格言 第29回】

久保王将、菅井七段から学ぶさばきの心得。将棋の考え方にまつわる格言とは【将棋の格言 第29回】

ライター: 渡部壮大  更新: 2018年10月29日

今回は序盤から終盤まで、将棋の考え方にまつわる格言を見ていきます。※肩書・段位は対局当時のもの

将棋の形勢は主に①駒の損得②玉の堅さ(安定度)③手番の3つで判断されることが多いです。ただし、遊んでいる駒が多いと、特に①の駒の損得を単純には計れないこともあります。そういった駒を作らないようにとの格言が「遊び駒は活用せよ」です。それでは遊び駒とは具体的にどのような駒を指すか見ていきましょう。

【第1図は▲8五同桂まで】

第1図は角交換型の振り飛車穴熊対居飛車の中盤戦で、現在8五で飛車交換が行われたところです。まず、駒の損得についてはありません。玉の堅さにおいては先手がまさっています。穴熊ですし、後手は5二の金が離れ駒になっており、いずれ△4二金右の一手が必要になります。ただし、手番は後手が握っており、良い勝負でしょう。

遊び駒とは、攻防に役立たない駒のことです。基本的に玉の近くにある駒は守りには働くため、遊び駒になることはありません。玉から離れて戦いに使えていない駒や、さばき損ねた駒が遊び駒に当たります。第1図の場合、後手は8一の桂が取り残されており、取られるだけの駒になっています。先手の8五桂は一応使えており、手順に取られにくいところに来ているのでさばけていると言えるでしょう。一方、先手の6六銀は玉から離れており、いまいち働きが悪く、遊び駒に近い状態です。後手の5六銀は攻め駒になっていますし、後手の6六銀の働きを押さえているので、銀の働きは後手がまさっています。この局面においては8一桂と、6六銀が遊び駒です。取り残された9一香と9九香もそうですが、玉の反対側の香は対抗形では取り残されやすいので仕方のないところです。

【第2図は△7三銀まで】

第2図はいわゆる角換わりの棒銀です。棒銀において大切なことは銀が取り残されないようにすることです。ここでは▲1五歩△同歩▲同銀△同香▲同香が部分的な定跡となっています。銀香交換の駒損ですが、棒銀をさばいて1九香の働きを良くし、1筋を攻め込んでいることが主張です。ここで▲1五歩△同歩▲同香と駒損をきらって攻めると△1三歩(第3図)で、駒がさばけません。

【第2図は△1三歩まで】

第3図は2六の銀が取り残されて遊ぶ心配が出てきてしまいます。この攻めも遊び駒を作らないよう、さばくことを心掛けた筋です。

【第4図は68手目△7四飛まで】

第4図は第59期王位戦七番勝負第3局(▲菅井竜也王位△豊島将之棋聖)。先手の穴熊は遠いのですが、7五角、7六飛、7八金、8九桂と左辺の駒が気掛かりです。しかし、力強い手順で一気にさばきました。図から▲7七桂△7五飛▲同飛△7七桂成▲7二飛成△7八成桂▲4二銀。▲7七桂が遊び駒の活用で、△同桂成なら▲6六角~▲7四飛があります。本譜は手順に7八の金を取られましたがこの金は遊び駒。遊んでいた金と桂を取らせている間に飛車をさばき、後手陣に食いつくことに成功しました。

【第5図は57手目△1六歩まで】

第5図は第67期王将戦七番勝負第6局(▲豊島将之八段△久保利明王将)。ここでは後手の手番ですが、今一つ働きの悪い駒はどれでしょうか。実戦は図から△4二金▲4九歩△5二金寄と進みました。元々3二の金は2筋の飛車先や、角の打ち込みに備えたものでした。しかしこの局面はどちらの心配も少ないので、玉に近付けた方が働きが良いのです。これで玉の堅さも近くなりました。

中盤戦で玉から離れている金を近付けるのは、振り飛車を指す上で覚えておきたい呼吸です。

遊び駒を作らないことを心掛ければ、駒の働きが良くなり、さばきも上手になることでしょう。

将棋の格言

渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

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高崎一生

監修高崎一生七段

棋士・七段
1987年生まれ、宮崎県日南市出身。2005年10月に四段。(故)米長邦雄永世棋聖門下。 攻める棋風を持ち味としている振り飛車党。

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