"3連覇なるか"里見香奈女流王座vs"71度目のタイトル戦"清水市代女流六段。10年ぶりの大舞台での対局、リコー杯女流王座戦の展望は?

ライター: 渡辺弥生  更新: 2018年10月23日

"レジェンド"清水女流六段、ふたたびタイトル戦の舞台へ

9月10日、東京・将棋会館の「特別対局室」で第8期リコー杯女流王座戦の挑戦者決定戦が行われた。勝ち上がってきたのは、清水市代女流六段と伊藤沙恵女流二段。伊藤は昨年度、6つある女流タイトル戦のうち、4度も挑戦者となった、もっとも勢いのある24歳の若手女流棋士だ。

143手にも及ぶ熱戦を制したのは、清水だった。49歳8カ月、女流タイトル挑戦の最年長記録だ。現役の奨励会員を含む強い若手が数多くいる中で、見事な挑戦権獲得である。

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第8期リコー杯女流王座戦挑戦者決定戦での清水女流六段。撮影:常盤秀樹

71度目のタイトル戦

清水の女流タイトル獲得数は43期で、もちろん現在歴代1位。クイーン名人、クイーン王将、クイーン王位、クイーン倉敷藤花の資格を持つ。棋戦優勝回数も11回を数える。

最年長女流タイトル獲得記録を持つのも清水だ。2009年の10月から11月にかけて行われた第20期女流王位戦で、当時の石橋幸緒女流王位からタイトルを奪取したときが40歳10か月。今度女流王座獲得となれば、大幅にこの記録を塗り替えることになる。(注:清水のタイトル保持は、第31期霧島酒造杯女流王将戦で上田初美女流二段(現女流四段)の挑戦を退け、防衛。翌年(2010年)の10月28日に里見女流名人・倉敷藤花(当時)に奪取されるまで保持した)

清水の今年度の成績は11勝2敗。勝率0.846は全女流棋士中1位だ。

昨年の12月から今年の3月にかけて行われた第29期女流王位戦の挑戦者決定リーグでは、<白組>リーグを全勝優勝し、渡部愛女流初段(現女流王位)と挑戦者決定戦を戦った。このときは挑戦を逃したものの、清水の復活を強く印象付けたリーグ戦だった。清水が第一人者として数々の女流タイトルを保持していたころに将棋を覚えた私にとっても、非常に励みになる。

図1は伊藤との挑戦者決定戦の終盤戦。122手目、後手の清水が△6四金と打ったところ。▲3九角に△7四金が、気付きにくい好手だ。

△7四金に▲同金は、△7七角成▲同桂△8八金▲同飛△同桂成▲同玉△8九飛▲同玉△8七飛成▲8八歩△7八銀まで(参考図1)。

実戦、伊藤は△7四金に▲5四金と打ったが、△7七角成▲同桂△8六歩▲同歩に△8四金と金を取った手が詰めろで、勝負あった。以下も1分将棋の中、正確に先手玉を寄せ切った清水が、挑戦権を手に入れた。

【図1は△6四金まで】

【参考図1】

現在、女性初の日本将棋連盟常務理事としても、忙しい日々を送る清水。71度目の大舞台に臨む。

女流棋界のスター、里見女流四冠

女流王座、女流名人、女流王将、倉敷藤花の4つのタイトルを持つ女流棋界の第一人者、里見香奈女流四冠。26歳にしてクイーン名人、クイーン王将、クイーン倉敷藤花の資格を持つ。タイトル戦登場回数は36回、うち獲得数はなんと32回だ。

今年の1月から2月に行われた第44期岡田美術館杯女流名人戦で、伊藤沙恵女流二段と五番勝負を戦い、3連勝で防衛。続いて5月に始まった第29期王位戦五番勝負では、1勝3敗で渡部愛女流二段(現女流王位)に敗れ、失冠。今年度に入ってからの成績は4勝3敗。これだけを見ると調子が良いとは言えない里見だが、男性棋戦における成績を見ると印象が変わる。

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第7期リコー杯女流王座戦五番勝負第1局(於・ザ クラウンパレス新阪急高知)での里見女流王座。対局中(14時30分頃)に撮影した一枚。撮影:常盤秀樹

2011年5月、19歳で奨励会に入会した里見は、女性として初めて二段、三段と昇段を重ねたものの、この2月に年齢制限で退会が決まった。この間、奨励会員ということで、男性棋戦への出場は控えていた里見が、この4月から女流棋士の枠で出られるようになった。

4月からの成績は5勝6敗。勝率0.455、なんと5割近く勝っている。8月24日には第90期ヒューリック杯棋聖戦一次予選で藤井聡太七段と対戦し、大いに注目を集めた。藤井得意の終盤で逆転を許してしまったものの、序中盤は里見が押していた将棋だった。調子はまずまずと見ていいのではないだろうか。

その棋聖戦一次予選の1回戦、村田智弘六段との一戦をご紹介しよう。図2は先手の里見が▲5三桂成と6五の桂馬を成り捨てたところ。△5三同歩に▲6五歩が狙いの一手だ。以下、△5五銀右▲同飛△同銀▲同馬と進み、先手優勢に。最後は教科書通りの寄せで、里見が快勝した。

【図2は▲5三桂成まで】

里見3連覇か、清水9年ぶりのタイトル返り咲きか

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里見と清水が初めてタイトル戦の舞台で対戦したのはちょうど10年前、2008年の第16期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負のときである。里見にとっては初のタイトル戦、清水は当時女流王将と倉敷藤花の二冠であった。結果は里見の初挑戦での初戴冠となった。

この倉敷藤花戦での番勝負を含め、以来二人は8度のタイトル戦を戦ってきた。戦型は清水の居飛車に里見の振り飛車という対抗型がほとんどで、ごくまれに里見が居飛車を採用することがある。対戦成績は里見の24勝、清水の13勝。番勝負に限って言えば、すべて里見の奪取、または防衛という結果に終わっている。このデータだけを見ると、里見が有利ということになる。しかし二人が最後に対戦した第42期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負では、第5局まで両者が競り合い、中でも第4局は得意の右玉に構えた清水の完勝という内容だった。

里見とふたたび戦う喜びを語っていた清水。勝ち上がってきた勢いと底力で、番勝負を盛り上げてくれるはずである。

五番勝負は、第1局が10月23日に岐阜県「十八楼」にて開幕する。

渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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