女流王将戦3年間負けなしの里見女流四冠に加藤奨励会初段が挑む。霧島酒造杯女流王将戦がいよいよ開幕!

女流王将戦3年間負けなしの里見女流四冠に加藤奨励会初段が挑む。霧島酒造杯女流王将戦がいよいよ開幕!

ライター: 渡辺弥生  更新: 2018年10月13日

加藤、昨年の雪辱を果たす

第40期霧島酒造杯女流王将戦、挑戦者決定戦まで勝ち上がったのは、昨年に続いて伊藤沙恵女流二段加藤桃子奨励会初段の二人。前期、逆転負けを喫し涙をのんだ加藤が、今年は最後まで攻め続けて快勝、挑戦権を手に入れた。女流王将、里見香奈との三番勝負に臨む。

女流王将戦は今期から番勝負の持ち時間が大幅に増えて、今までの持ち時間25分、秒読み40秒から、持ち時間3時間、秒読み60秒となった。いっそう両対局者の持ち味が出た、精度の高い戦いが見られるだろう。三番勝負の展望を予想する。

初代女流王座、加藤奨励会初段

挑戦者となった加藤は、関東奨励会に所属。現在初段、22歳だ。現行制度で初段へ昇段した女性の奨励会員は、里見香奈、西山朋佳に次いで3人目となる。

2011年の10月から12月にかけて行われた第1期リコー杯女流王座戦で清水女流六段と五番勝負を戦い、3勝2敗で女流王座を獲得、初代女流王座の座に就いた。このとき加藤はわずか16歳。以来、獲得したタイトルは女王4期、女流王座4期の合計8期。加藤が出場できる女流棋戦は、マイナビ女子オープン、女流王座戦と、女流棋戦のタイトルホルダーの枠がある女流王将戦の3棋戦のみ。このことからも、加藤の強さがわかる。

女流王将戦には加藤が女王、女流王座の女流二冠だった2015年の第37期から参加している。今期が4期連続、4度目の出場だ。

加藤の今期の女流棋戦における成績は8勝4敗。4月から6月にかけて行われた第11期マイナビ女子オープン五番勝負では、西山朋佳奨励会三段(現女王)に敗れ、女王の座を失った。しかし加藤が負けたのはこの西山と、リコー杯女流王座戦の本戦で当たった伊藤のみで、ほかはいつも通り危なげのない勝ちっぷりを見せており、決して不調というわけではないだろう。5月13日に放送された第68回NHK杯戦の本戦では、及川拓馬六段に勝利する活躍を見せている。テレビでご覧になられた方もいるのではなかろうか。

居飛車党で、踏み込みのよい、痛快な攻め将棋。序中盤の研究にも定評がある。

里見と加藤が最後にぶつかったタイトル戦は、2017年に行われた第7期リコー杯女流王座戦五番勝負だ。結果は3勝2敗で里見の防衛となったが、内容は加藤も決して負けてはいない。開幕2連勝し、女流王座奪還まであと一歩のところまで迫った。

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第7期リコー杯女流王座戦五番勝負第1局での加藤女王(当時)。こちらも第6期で加藤から女流王座を奪還。翌年の第7期で加藤の挑戦を受けてたった。撮影:常盤秀樹

図はその第2局の中盤戦。後手の里見が△8四歩と打ち、玉頭のキズを消したところだ。駒得をして不満のない先手だが、ここで加藤は思い切りよく踏みこんだ。

【図1は、△8四歩まで】

次の一手は▲7五角。この角切りが良い手だ。以下、△7五同歩▲6四飛△6三金左▲6八飛△6五角▲同飛△同桂▲同馬と進み、先手優勢。途中、▲6四飛に△9六歩を攻めるのは、▲8三馬△同金に▲6一銀が厳しい。最後は穴熊の堅陣を残したまま、加藤が後手玉を寄せ切った。

3年間負けなしの女流王将、里見

加藤を迎えうつのは、女流王座、女流名人、女流王将、倉敷藤花の四冠を保持する女流棋界の第一人者、里見香奈女流王将。第16期大山名人杯倉敷藤花戦で初タイトルを獲得してから、ちょうど10年が経つ。その間にとったタイトルの数は31期、タイトル戦への登場回数は36回にのぼる。26歳にしてクイーン名人、クイーン王将、クイーン倉敷藤花の資格保持者だ。

女流王将は第32期から第35期までの4期と、第37期から第39期までの3期、合わせて7期を獲得している。現在3連覇中だ。とくにこの3年間は、女流王将戦の番勝負はすべてストレート勝ちという強さ。どの棋戦でも抜群の力を見せている里見だが、この女流王将戦ではまさに敵なしだ。

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第38期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負第2局対局開始の時の里見女流王将。前年に香川愛生女流王将から女流王将を奪還し、第38期で立場を入れ替え、香川女流三段の挑戦をうけたが、2連勝で迎えうち、防衛を果たした。撮影:常盤秀樹

今期の里見の成績は2勝3敗。5月から6月にかけて行われた第29期女流王位戦五番勝負で渡部愛女流二段(現女流王位)に敗れ、女流王位のタイトルを失った。調子が上がらない印象を受ける里見だが、男性棋戦における成績は4勝7敗と、善戦している。内容も里見らしい、鋭い攻めが光る。さすがは里見と言うべきだろう。

攻めと受けのバランスのとれた振り飛車党。鋭い攻めと、抜群の終盤力は皆さまご存知の通り。

里見と加藤の女流王将戦での対戦は1回、第37期の準決勝でぶつかった。中盤に加藤の仕掛けに対し巧みに反撃を決めた里見がペースをつかみ、終盤戦へ。図は後手の加藤が△2六歩と取り込んだところ。▲2六同銀は△2五香がある。ここで里見は踏み込んだ。

【図2は、△2六歩まで】

△2六歩以下、▲2四歩△2七歩成▲同金△3一香▲2三歩成△同玉▲3二角成△同香▲1一龍と進み、先手勝勢に。

△2六歩に▲2四歩と攻め合ったのが好手だ。△2四同銀は、▲3二角成△同玉▲4一角△2二玉▲2三金△2一玉▲3二角成まで。秒読みの中、この切り込みは里見ならではだ。

女流棋界最高峰の戦い

里見と加藤はマイナビ女子オープンとリコー杯女流王座戦の五番勝負で4度の番勝負を戦っており、里見の3勝、加藤の1勝となっている。対戦成績も里見の12勝、加藤の6勝と、里見が押している。

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第7期リコー杯女流王座戦五番勝負第1局終局後の模様。撮影:常盤秀樹

一方、持ち時間が3時間になったことは、長い持ち時間の方が力を出せる加藤にとって、好条件だ。加えて、女流王将戦はこれまでの4度のタイトル戦と違い、三番勝負だ。一局目を制した方が、そのまま流れをつかんで2連勝してもなんら不思議はない。里見の方が分が良いとは言え、この番勝負に限っては、互角の勝負と言えるのではないだろうか。

戦型は里見の振り飛車に加藤が居飛車の急戦や持久戦で対抗する、居飛車振り飛車の対抗型が有力だ。とくに里見得意の中飛車に、加藤が左美濃や穴熊に囲う戦いが見られそうだ。中盤の仕掛けから終盤の攻め合いが見どころである。ぜひご注目いただきたい。

三番勝負は10月13日、宮崎県都城市「霧島創業記念館 吉助」にて開幕する。

渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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