高見泰地叡王、タイトル獲得後の悩みとこれからの目標【高見叡王インタビューvol.4】

高見泰地叡王、タイトル獲得後の悩みとこれからの目標【高見叡王インタビューvol.4】

ライター: マツオカミキ  更新: 2018年08月27日

いま大注目の若手棋士、高見泰地叡王の連載インタビュー。最終回となる第4回は、目指す棋士像や憧れの人についてお聞きしました。高見叡王が「あの方はプロフェッショナル、憧れます」と語る、努力を見せずに結果を残し続ける棋士とは? タイトル獲得後の悩み、そしてこれからの目標も語っていただきました。

プロ入り目前で逆転負け。師匠が見抜いたその原因とは

――タイトルを取った後、師匠である石田和雄九段とは何かお話されましたか?

師匠からは「タイトルを取って重圧に押しつぶされてしまう人と、それを乗り越えて成長する人がいる。ぜひ、後者になってほしい」と言われました。その時は「はい、頑張ります」と軽く答えてしまったんですが、時間が経つにつれて、その言葉の難しさを感じています。

――どういう場面で難しさを感じますか?

注目していただいていることにより、周りからの視線を意識してしまう時ですね。今までも気を抜いたことはないですが、それでも、以前にも増して気持ちを張り詰めることが多くなりました。しかし、トップの先生方は当たり前のようにこの世界で戦っているわけで、自分も見習って頑張りたいと思います。

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――これまでの師匠・石田九段からの教えのなかで、特に印象に残っていることはありますか?

特に記憶に色濃く残っているのは、「あまり気負いすぎない方がいい」と教えていただいたことです。

――どのような時にもらったアドバイスなんでしょう。

奨励会三段リーグの二期目、最終局で上がれなかった時です。相手は斎藤慎太郎七段(当時・三段)で、自分は勝てば昇段の可能性がありました。しかし、終盤で逆転負け。後から振り返れば、勝ちたい気持ちが先行し、本来の冷静さを欠いていたと思います。

――勝利への気持ちが強すぎて、実力が出せなかった高見叡王に向けたアドバイスだったんですね。

はい。そのアドバイスのおかげで、翌期は「自分は今期四段に上がるから大丈夫」と俯瞰した気持ちで、冷静に臨めました。結果、四段に上がり、プロ入りを果たしたんです。師匠に弟子入りしてから今までずっと、精神的にも大きく支えていただいています。

「努力を見せないプロフェッショナル」高見叡王が憧れる棋士

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――目指している棋士像は、どんなものですか?

普段はクールだけれども盤上では一切妥協せずに勝利をもぎ取っていく、阿久津主税八段のような棋士のあり方に憧れます。今の自分とはかけ離れているんですが(笑)。

――普段はクールだけど、実は将棋に熱い感じ。

そうです。阿久津八段は全然将棋の練習をしている素振りを見せないし、「練習している」と口に出さないんですね。ただ、僕が思うに、阿久津八段にとっては棋譜並べや詰将棋は練習のうちに入らないのだと思います。当たり前にやるべきことだから。そういう努力を外に見せない姿が、かっこいいですね。

――努力を努力と思わず、その努力を外に見せることなく。

はい。普段練習している姿を見せるのはプロではないという思想が阿久津八段にはあって。それこそが僕が理想とするプロフェッショナルだな、と思います。

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また、森内俊之九段にも憧れています。偉大な永世名人でありながら、後輩にそっと手を差し伸べてくれる太陽のようなお人柄なんです。数年前に、森内九段から「一緒に研究会をやりましょう」とお声がけいただいて。

――一緒に研究会をされているんですね!

はい。僕と佐々木大地四段を誘ってくださいました。おそらく地元が近いからだと思いますが、わざわざ誘ってくださったことに感動しましたね。そのおかげもあって、僕もタイトルを獲得し、佐々木四段も昇段しました。また、森内九段の著書「覆す力」は何度も読んでいます。大変な場面を乗り越える時に、どういうモチベーションで取り組むのかなど、見習いたい姿勢ばかりです。

一流の方がどのように考えているかを本で読むのも好きなので、他にも羽生善治竜王の「決断力」も読みました。もう冒頭を暗唱できるほど、何度も繰り返して読んでいます。あと、将棋以外にも元プロ野球選手の井端弘和さんの「土壇場力」や落合博満さんの「采配」などもお気に入りです。

――棋士以外の方の考え方も参考にされるのですね。棋士以外で、憧れている人はいますか?

元プロ野球選手の三浦大輔さん。現役時代をずっと横浜DeNAベイスターズで過ごした選手です。

――高見叡王は、横浜DeNAベイスターズのファンだと公言されていますもんね。

そうなんです。三浦大輔さんの、あのブレなさは、本当に憧れます。チームが勝てなかった時期も、ずっとブレずに横浜DeNAベイスターズに貢献し続けていました。自分を貫き通したところが、本当にかっこいいです。将棋も自分を見失ったら終わりなので、自分もそうありたい。いつかお会いしてみたいな、というのも密かな夢です!

飾らず、背伸びせず。高見叡王の25歳の抱負

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――これからの1年間、どんなものにしたいですか?

無駄に背伸びしすぎないようにしたいと思います。タイトルを取ったからといって飾ることなく、自然体でありたいです。もちろん、将棋もまだまだ強くなりたいですね。 

――背伸びしそうになってしまうこともありますか?

例えば、生放送の解説での発言ひとつとっても、少し考えてしまうんですよね。これまでは割と言いたい放題楽しくやっていたんですけど(笑)、タイトル獲得後は言葉の伝わり方まで意識してしまって‥‥。でも、スタッフの方から「いつもの高見さんでいいんですよ」と言ってもらえて、変に意識する必要はないと思えるようになりました。

――まさに、石田九段の言う「タイトルを取って重圧に押しつぶされてしまう人」と「乗り越えて成長する人」のうち、後者になろうと努力しているんですね。

そうですね。タイトル獲得による変化は人生のひとつの転機であり、確実に良い方向に向かっていると思っています。勝ったこと以上に、あれだけ自分を追い込んで、それを乗り越えられたことが、これからの人生にも大きな影響を与えるはず。だから、1年後には「去年のタイトル獲得後から、良い方向に成長したな」と自分が思えるように、まい進していきたいです。

おわりに

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この取材の当日が25歳のお誕生日だった高見叡王。取材陣がサプライズでケーキをお渡しすると、「ありがとうございます!」と満面の笑みで喜んでくれました。さらに「少しお待ちくださいね!」と一瞬退席し、サッとお茶を出してくださる気遣いまで‥‥。高見叡王が多くの人に好かれる理由が、よくわかる一幕でした。

同世代棋士の活躍による悔しさや、5年間の遅れによる焦りをバネに、大学卒業からたった1年で怒涛の進化を遂げてきた高見叡王。「同世代には絶対に負けたくない」と語る様子は、朗らかな雰囲気の中に持つ、将棋に対する熱い情熱を感じました。初タイトル獲得を経験した高見叡王の、今後の活躍もますます楽しみです。

4回連載のインタビュー、最後までお読みいただきありがとうございました!

高見泰地叡王インタビュー

マツオカミキ

ライターマツオカミキ

2014年からライターとして活動する平成元年生まれ。28歳にして初めて将棋に触れました。将棋を学びながら、初心者目線で楽しさをお伝えします!普段は観光地や企業、お店を取材して記事を執筆中。

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