「夢か現実か、把握するのに時間がかかった」叡王になった瞬間の思いを語る【高見叡王インタビューvol.1】

「夢か現実か、把握するのに時間がかかった」叡王になった瞬間の思いを語る【高見叡王インタビューvol.1】

ライター: マツオカミキ  更新: 2018年08月06日

高見泰地叡王インタビュー

今年から加わった新タイトル「叡王」を獲得した、いま大注目の若手棋士、高見泰地叡王。もっと高見叡王のことを知りたい! ということで、叡王戦を終えた感想や、これまでの経歴、目標、プライベートなどをお聞きする4回連載インタビューをお送りします。

初回は、叡王戦での孤独や、タイトル獲得の瞬間の気持ち、叡王戦後のオフの時間の話などをお聞きしました。

上昇のきっかけとなった駒、そこから繋がる縁

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――本日は、普段使っている駒をお持ちいただいたんですよね。

はい、研究の時に使っている駒を持ってきました。去年の秋に静岡県富士宮の駒販売会で購入したもので、自分の上昇のきっかけになった駒です。叡王戦の本選が始まる前から使い始めて、そこからずっと調子が良かったんですよ。

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富士宮の駒販売会は初めて見に行ったんですが、富月さんという有名な駒師の方が僕に合う駒を一緒に探してくださり、この駒に出会うことができました。使い心地も良く、お気に入りです。

――自分に合う駒は、どうやって選ぶんでしょう?

好きな字体の駒を探しますね。見ていて心地良い字だと、研究も進みます。それと、研究用の駒は「掘り埋め」という平らな駒の方が、削れてしまうのを気にせずに指せるので使いやすいと先輩に教えてもらいました。

――駒を使い始めてから調子が上がって叡王になったとなれば、駒師の方も喜ばれているのでは?

タイトルを取ってからは、まだお会いできてないんですけど、喜んでくださっていると知り合いから聞いてます。そうやってご縁が繋がっていくのは、とても嬉しいですね。

「目の前で、夢のようだった」師匠・石田九段から託された夢

――タイトルを取った瞬間は、何を感じましたか?

終局した瞬間は、喜びというより「ほっとする」という感じだったんです。勝てると信じて挑んで、それが現実になった時、すぐには自分で処理ができないというか。これまで何度もタイトル戦で対局する夢を見たことがあって、夢の中で負けそうになった時には飛び起きることも(笑)。だから叡王が決まった瞬間も、現実なのか、夢なのか、自分の中で把握するのに時間がかかりました。

――「ほっとした」あとに、喜びが込み上げてきたのはいつ頃でしたか?

周りの人が「良かったね」と言ってくれた時ですね。それと、当日師匠が富岡製糸場まで来てくれたんですよ。来るとは聞いておらず、終局後に記者やカメラマンと共に師匠が入ってきた時は、嬉しい反面、驚きも覚えました。師匠が来たこの一番で決められたことが、最も感慨深かったかもしれません。

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うちの師匠はタイトル戦に惜しくも挑戦することができなかったので、以前から「その夢を弟子に託す」と言っていました。「自分が元気なうちに、タイトル戦に出ている姿が見たい」とずっと言われていて。ようやく叡王になった姿を見せることができたので、師匠の寿命もさらに伸ばせたかなと思っています(笑)。実際に、師匠も「目の前で、夢のようだった」と言ってくれて、嬉しかったです。

タイトル戦の孤独を経験し、精神的にも成長

――タイトル戦について、普段の公式戦との違いは感じましたか?

タイトル戦は、孤独を感じることが多かったです。普段の公式戦は大広間で複数の対局が行われていたり、お昼は相手と一緒の部屋で食べたりしますが、タイトル戦は対局中も自分と相手と記録係のみ、食事も別部屋で、ほとんど人と話すことがありません。元から "ぼっち" には慣れてるんですけど、それでも孤独を感じましたね‥‥(笑)。前夜祭も「お二人は明日対局がありますのでこの辺で」となってしまうので、「まだ退場したくないのに!」と思っていました(笑)。もちろん、集中できる環境を整えるための気遣いはありがたいんですけどね。

――叡王戦の間に、意識していたことはありますか?

これまでは、疲れた時に「明日できることは明日でいいや」と後回しにしていましたが、番勝負中は「今日できることは今日やろう」と意識を改めました。そうすることで、「自分は大丈夫だろうか?」と不安になってしまう時にも、「大丈夫だ」と思えるようになりました。叡王戦を経験したことで、メンタル面はだいぶ変わったと思います。

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それと、意識的に目標を言葉にするようにしていました。「絶対、叡王を取れると思ってる」とか。

――同年代の棋士に対して、宣言していた?

そうです。もちろん、絶対勝つつもりで挑んでいましたが、あえて強めに宣言することで自分を追い込んでいました。

叡王戦の前には、佐々木大地四段や三枚堂達也六段、八代弥六段などにも、2カ月ぐらい練習に付き合ってもらって。佐々木四段は番勝負中に名古屋までわざわざ見に来てくれたり。孤独を感じる場面が多かったけど、振り返ってみると、いろんな人が見てくれていたんだなと感じます。

――練習を一緒にした棋士や、仲の良い棋士の方々からもお祝いされましたか?

はい、お祝いしてもらいました。でも、「おめでとう」とは言ってこないですよ。やっぱり、悔しい部分もあるはずですから。

「お前が取れるなら、俺も取れるな」と言ってきたり(笑)。そうやってお互い、これから20年30年と、一緒にやっていくんだなと安心した部分もあります。

待っていてくれる仲間と過ごすオフの時間

――叡王戦が終わってから、取材や祝賀会などで忙しそうですね。

そうですね、ありがたいことに。叡王戦が終わったのが5/26の第4局でしたが、長引くことを想定して6/10までスケジュールをあけていたので、「やっと休める!」と思いました。‥‥でも、スケジュールが次々と入ってきて、手帳を見て愕然としましたね(笑)。結局、6月は1日しか休みがありませんでした。

――こういうインタビューなどが入りますもんね(笑)。お休みが取れたら、何がしたいですか?

とにかく落ち着きたいのと、旅に出たり、買い物したりとか。のんびり将棋の生放送を見たり、映画を観たり‥‥。あ、そういえば、この前映画は観に行きました。名探偵コナンを、八代六段と一緒に。実は、棋士仲間で結成している「コナン研」というものがありまして。

――コナン研‥‥?

1年に1回、コナンの映画を見に行く同い年の棋士の集まりです。棋士って、なんでも「研」をつけて研究会にするんですよね(笑)。それで、今年も春ごろに「コナン研の日が近づいてまいりました!」と号令がかかって。

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――ビッグイベントなんですね(笑)。

過去には映画を観てから渋谷でお茶して、みなとみらいで中華を食べることもありました。一見リア充のように見えて、その時は男2人だったんですけど‥‥(笑)。

毎年映画が公開される頃に行くというのが数年続いているんですが、今年は叡王戦があったので、気を遣って終わるまで待っていてくれたみたいです。「先に観てきていいよ」と言ったんですけど、「いやいや、さすがに」とか言って(笑)。

――お忙しい中でも、そういう心休まるオフの日があるのは素敵ですね!

 

第二回は、将棋を始めたきっかけや、同世代の棋士に対しての想いなどを伺います。

高見泰地叡王インタビュー

マツオカミキ

ライターマツオカミキ

2014年からライターとして活動する平成元年生まれ。28歳にして初めて将棋に触れました。将棋を学びながら、初心者目線で楽しさをお伝えします!普段は観光地や企業、お店を取材して記事を執筆中。

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