「もっと実力を、さらに結果を」豊島棋聖に初タイトル獲得となった第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負を振り返っていただきました!【将棋世界2018年10月号のご紹介】

「もっと実力を、さらに結果を」豊島棋聖に初タイトル獲得となった第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負を振り返っていただきました!【将棋世界2018年10月号のご紹介】

ライター: 将棋情報局(マイナビ出版)  更新: 2018年08月31日

第89期ヒューリック杯棋聖戦(主催/産経新聞社、特別協賛/ヒューリック株式会社)五番勝負で羽生善治棋聖を3―2で破り、念願の初タイトルを獲得した豊島新棋聖が、羽生との激闘を振り返る。

※この記事は将棋世界 2018年10月号に掲載の「第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負総括インタビュー 豊島将之棋聖【もっと実力を、さらに結果を】」(構成:相崎修司)の一部を編集したものです。全文は将棋世界 2018年10月号でお読みください。

「もっと実力を、さらに結果を」

―棋聖位獲得おめでとうございます。棋聖戦第5局が終わってから半月ほどたちましたが、実感などはありますか。

「多くのお祝いをいただいたりすることで、タイトルを取ったんだという気持ちは多少なりともありますが、王位戦七番番勝負など対局が多いので、目の前の一戦に集中することを心がけているという意味では、あまり変わっていないような気もします。ただ、就位式への準備など、やらないといけないことは増えたなあと感じますね」

―棋聖戦五番勝負の総括を中心にお聞きしたいのですが、豊島さんにとって初めてのタイトル獲得ということで、その前に今年1月から挑戦された久保王将との王将戦七番勝負や、名人挑戦まであと一歩届かなかった前期A級順位戦について伺います。王将戦は第1局が快勝だったことから、タイトル奪取を予想する声が多かったように思いましたが。

「王将戦に関しては、挑戦が決まったときからかなり厳しい戦いになるという予感がありました。過去3回のタイトル戦では、初戦で敗れてそのまま敗退という結果でした。1局目を勝ったことで過去とは違う展開になったとは感じましたが、タイトルホルダーとは経験の差があるので、連勝スタートくらいでないと難しいという気持ちでしたね」

―第1局のあと3連敗を喫し、第5局で1勝を返しましたが、第6局に敗れて王将奪取はなりませんでした。一方、同時期にA級順位戦プレーオフの敗退もありました。体力的にも精神的も厳しかったのではないですか。

「確かに今年の3月はこれまで経験したことがない日程でしたね。王将戦もA級プレーオフも敗戦という結果は体力面も含めてきつかったですが、他の対局もあったので、気持ちを切り替えるしかなかったです」

―なぜ、気持ちを切り替えることができたのでしょうか。

「3月2日にA級最終局で敗れ、プレーオフが決まったときは、王将戦も1勝3敗のカド番で厳しい状況でしたから、ある程度の覚悟はできていました。それでも結果が出なかったのはつらかったですが、指している将棋を多くの人に見てもらえて、全く無駄ではないと感じられたのがよかったのでしょう。また敗退後に、それまでいただいた応援の手紙に対する返事を書いているうちに、気持ちの整理がつきました」

―新年度に入り、棋聖戦の挑戦権を獲得しました。挑戦が決まってから第1局までは1ヵ月ほどの期間がありました。

「この期間は、時間を見つけて羽生棋聖の棋譜を並べることはしていましたが、それほど特別な準備はしていません。羽生棋聖は作戦の幅が広い方なので、特別な対策をしても効果が出ないのではないかと思っていました。あと、他の対局が続いたこともあり、そこまで時間が取れなかったこともあります。第1局の直前に行われた王位戦挑戦者決定戦や竜王戦1組決勝で、どういう将棋を指すかということも考えていたと思います」

【第1局】決断の▲4五桂

―開幕局(6月6日・兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」)は豊島さんの先手番になりました。

【第1図は▲5八玉まで】

「この将棋は第1図がポイントです。この▲5八玉くらいまでは研究していましたが、以下の△3五歩▲同歩に△4四銀という順は考えていませんでした。対して実戦は▲4五桂と跳ねましたが、ほかには▲6九飛と回って△6四歩を打たせる順、こちらから▲6四歩と打つ順、▲2七(1八)角と打って△3六歩を消す順などを考えていました」

―▲4五桂を決断した理由を教えてください。

「あとで桂を入手して、▲3四桂を打てる展開になりそうだなと思ったので、強く指しても戦えると思いました。この桂跳ねは怖い手ですが、後手陣も傷んでいるので勝負できるのではないかという判断です。実戦も以下の手順で▲3四桂を実現でき、勝つことができました」

【第2局】急転直下の敗戦

―続いての第2局(6月16日・東京都港区「グランドニッコー東京台場」)ですが、本局は豊島さんにとって特に不本意な結果だったのではないかと思います。

【第2図は▲8八玉まで】

「この将棋は途中まではうまく指せていたと思いますが、終盤がかなりひどかったですね。第2図の類型(△3一玉・△3四歩型と△4二玉・△3五歩型の違い)は、今年5月の竜王戦▲佐々木勇―△斎藤慎戦でありましたが、△3五歩を突かずに指してみたいという気持ちがありました。図で指した△5四銀はその場の思いつきで、力戦ならではの手探りという順でしたが、以下の進行は成功といえるので、よかったと思います」

―△5四銀の具体的な狙いとは?

「攻めに厚みを持たせることですね。▲4七金なら△6五歩から1歩交換して、△8六歩▲同歩△8五歩の継ぎ歩から△9三桂を見ています。普通、桂を使うなら△7四歩~△7三桂ですが、▲7五歩から桂頭を狙われるのが気になります。△5四銀に▲4四飛は、△3五角や△4五桂で戦えると判断していました」

―△5四銀以下、実戦は▲7一角△7二飛▲6一銀△7一飛▲5二銀成△4三銀▲6二金△5二銀▲7一金(第3図)と進みます。

【第3図は▲7一金まで】

「先手が積極的に攻めたといえますが、▲7一金の局面は先手の金が遊んでいますから、後手に不満はありません。ただ、このあと何回か疑問手を指してしまって、△2七角(第4図)を打つのではやり直しになったかと思っていました」―第4図からは▲3九飛△7二角成▲5七金と進みますが、ここが問題の局面とされました。

【第4図は△2七角まで】

「▲5七金に当初は△4二銀打のつもりでした。以下▲4一飛成△同玉▲4九飛△2八飛を読み、次の△4八銀が厳しいと思っていました。ですが▲4九飛に代えて▲6九飛が見え、今度は△2八飛も▲5八歩で止められます。こうなると桂損が大きく、▲6九飛に△3一玉と手を戻しても▲1五歩が痛いですね。左桂がなくなっているのが大きいのです。同じ桂損でも、右桂がない形ならまだ戦えるのですが」

―▲5七金に対する本譜の△4八銀(第5図)がかなり危険な手でしたね。

【第5図は△4八銀まで】

「そうですね。以下▲7九飛△5七銀成▲3三桂という順を本線に考えていたのがまずかったです。△3三同金は▲5三飛成で成銀を抜かれるので、▲3三桂に△4二金打で勝負と思っていました」

―第5図から▲5二角△4二金打▲4三桂が厳しい寄せでした。「全く浮かばなかった順で急転直下。角を打たれてどうしようもありません。△4八銀を打つときはいろいろな手を考えていたつもりですが、5分しか使っていないんですね。△4二銀打の変化も▲6九飛の順で苦しそうです。△2七角に代わる順をひねり出す必要がありました」

第2局で流れを悪くしかねない敗戦を喫した豊島棋聖は、第3局から第5局をどう戦ったのか。そしてタイトルホルダーとして、これから目指すところは? 本記事の全文は将棋世界 2018年10月号でお読みいただけます。

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