大駒は離して打て!若き羽生竜王の実戦から学ぶ大駒に関する将棋の格言とは?【将棋の格言】

大駒は離して打て!若き羽生竜王の実戦から学ぶ大駒に関する将棋の格言とは?【将棋の格言】

ライター: 渡部壮大  更新: 2018年06月26日

今回は大駒の格言を見ていきます。

【第1図】

第1図はシンプルな局面です。ここで▲6二飛と近付けて打つのは△7二金と飛車当たりの先手で受けられていけません。また、状況次第では△7一玉と持ち駒を節約して受けられる手も考えられます。ここでは▲5二飛~▲1二飛のように離して打つのが正解。以下△7二金(△7一玉は▲7二銀△8二玉▲6三銀成で詰み)に▲6三銀、または▲6一銀と絡む手が厳しくなります。 以前「大駒は近付けて受けよ」の格言を見ましたが、攻める時には「大駒は離して打て」の格言があります。大駒は強い駒ですが、反面接近戦に弱く、先手を取られやすいために当たりを避けて打ち込んだ方が良いという意味です。 自陣から敵陣を狙って打つ角を遠見の角と言います。それを「遠見の角に好手あり」と表現しますが、自陣角は難易度の高い手であり、失敗すると角を手放しただけになってしまうため、安易に真似はしない方が良いかもしれません。右玉などの桂頭を狙う際に使われやすい手です。

【第2図は△4四同銀まで】

第2図は幕末の棋聖と呼ばれた天野宗歩の御城将棋(1856年)から。先手が宗歩、後手が後の十一世名人となる伊藤宗印です。「遠見の角」と言えばこの局面が思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。 第2図から▲1八角が有名な一手。以下△4二金▲5七銀右△3二玉▲5六銀△6二金▲5八飛から中央で戦いに持ち込み、手にしました。本局は宗歩が1八の角をうまくさばいて寄せの要にしたので、最後まで並べていただければと思います。 馬は非常に強い駒です。角の時は頭が弱いため、自玉の近くにあると責められて負担になることがありますが、馬となると違います。守備力が高く、「馬の守りは金銀3枚」とも言います。実際に金銀3枚分の守備力があるかと言われると微妙なところですが、自玉の近くに引きつけるとかなり堅くなります。

【第3図】

第3図はお互い美濃囲いです。後手陣の銀美濃もかなり堅い囲いですが、先手陣の馬を引きつけた形は非常に安定しています。 このように馬を引きつけることを「馬は自陣に引け」や、「竜は敵陣に、馬は自陣に」と言います。「遠見の角」でも出たように、馬なら自陣からでも敵陣ににらみを利かせるので攻めにも使いやすいのです。続いてプロの実戦から自陣に引きつけた馬を見てみましょう。

【第4図は△6二歩まで】

第4図は受けの達人大山康晴十五世名人の実戦から。ここでは▲5二歩成と踏み込んでも先手が優勢ですが、▲2七角成が負けない一手。馬冠が手厚く、先手が不敗の態勢です。以下△3六歩▲同馬△4四銀左と紛れを求めてきましたが、▲5二歩成△同金▲5四歩と攻めて先手勝勢です。勝ちを急がない大山名人らしい指し回しでした。

【第5図は△5五桂まで】

第5図は若いころの羽生善治竜王の実戦から。先手の居玉は馬が守備の要。△5五桂とその馬を責められたところ。ここで馬を逃げずに▲2三角とつないだのが驚きの受け。敵の攻めの拠点を残さず、かつ自陣の馬も残そうという受けです。歩切れの後手は小技が利かないのが泣きどころ。以下は先手に攻めのターンが回ったところで素早く寄せきりました。

【第6図は△3四馬まで】

最後に珍形を。第6図は第71期順位戦C級1組の▲浦野真彦八段△大平武洋五段戦(段位は対局当時)です。先手の金4枚が並んだ穴熊もめったに見られない堅さですが、馬2枚を引きつけた後手陣もケタ違いの堅さです。いったいどちらが堅いのでしょうか。以下は100手以上激戦が続きましたが、最後は先手が制しました。 いかがだったでしょうか。馬を引きつける受けを覚えればかなり負けにくくなるでしょう。

将棋の格言

渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

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高崎一生

監修高崎一生七段

棋士・七段
1987年生まれ、宮崎県日南市出身。2005年10月に四段。(故)米長邦雄永世棋聖門下。 攻める棋風を持ち味としている振り飛車党。

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