どちらが勝っても68年ぶりの偉業。金井恒太六段VS高見泰地六段、叡王戦七番勝負の展望は?

どちらが勝っても68年ぶりの偉業。金井恒太六段VS高見泰地六段、叡王戦七番勝負の展望は?

ライター: 相崎修司  更新: 2018年04月13日

将棋界八つ目のタイトル戦「叡王戦」の七番勝負が間もなく始まろうとしている。第1期、第2期は一般棋戦だったが、今期の第3期からタイトル戦に昇格した。昇格後初めての七番勝負を戦うのは金井恒太六段高見泰地六段、両者ともに初のタイトル戦登場となる。

当然、七番勝負を制した者が新タイトルの「叡王」を獲得するわけだが、対局者のどちらが勝っても「初タイトル獲得」というタイトル戦が行われるのは、1950年の第1期九段戦、大山康晴十五世名人―板谷四郎九段戦(2-0で大山奪取)以来、実に68年ぶりのこととなる。それ以降に新設されたタイトル戦は、いずれも既存のタイトル経験者が決定戦に登場していた。

金井と高見は大山十五世名人以来となる偉業を目指すわけだが、同時にそれぞれの一門の悲願がかかっている。いうまでもなく「タイトル奪取」だ。

金井の大師匠(師匠の師匠)は関根茂九段、高見の大師匠は前述の板谷九段だ。板谷九段がタイトル戦で大山十五世名人に敗れたのは上記の通りだし、また関根九段も1964年の第4期棋聖戦で大山十五世名人に挑戦したが2勝3敗で惜敗している。そして両一門とも、それ以降にタイトル戦に出場した棋士を輩出していない。本局の両者は大師匠から続く夢の実現を目指す。

このフレッシュな七番勝負はどのような展開になるだろうか。本戦トーナメントで金井は佐藤天彦叡王(名人)、佐藤康光九段、行方尚史八段を、高見は豊島将之八段、渡辺明棋王、丸山忠久九段を破って勝ち上がった。ともに負かした相手に不足なしで、勢いは五分といってよいだろう。

では、他棋戦も含めた昨年度の成績をみてみよう。高見は36勝14敗の勝率0.720という好成績で、叡王戦の他にも上州YAMADA杯で準優勝など、各棋戦で満遍なく勝っているといってよい。

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撮影:牛蒡

対して金井は15勝15敗。勝率5割もさることながら、他棋戦では1回戦負けが多かったのも気になるところだ。しかし、竜王戦では昇級し、順位戦では降級点を消去した。見方によっては実に効率よく勝っているともいえる。このような巡り合わせのよさが存外侮れないのだ。「ここ一番で勝つのは、星を持っている証拠」と、名文で知られた河口俊彦八段ならば評しただろう。

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撮影:牛蒡

そして両者ともに「ここ一番で勝つこと」を証明できるのはタイトル獲得以外にはない。双方の棋士人生をかけたシリーズになることは間違いなしだろう。

盤上の行方を両者の直接対決から推測しようにも、本局の両者はなんとこれまで公式戦での対戦がない。所属が関東と関西に分かれているならまだしも、プロデビューは4年ほど金井が速いとはいえ、ともに関東所属でここまで当たらないというのも珍しい。棋風は両者ともに居飛車党の本格派で、中終盤のねじり合いになることが予想される。

叡王戦七番勝負で特筆すべきは、その変則的な持ち時間だ。今期は第1局で先手を得た金井が、第1、2局を5時間に指定した。長考派の金井が出だしでリードを奪おうと考えたか。

第3、4局は高見が3時間に指定した。そして持ち時間1時間となった第5、6局は同一日に2局連続で行われる。持ち時間1時間で同一日に2局というのは、叡王戦予選でも例のある時間形式だが、2局続けて同じ相手と指すというのは例がないことである。

これほどまでに未知の要素が強いタイトル戦は、今後もそうそうないだろう。注目の第1局は4月14日に愛知県の名古屋城で行われる。

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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