加藤女王が5連覇で初の永世女王獲得か、西山奨励会三段が初タイトル獲得か。第11期マイナビ女子オープン五番勝負の展望は?

加藤女王が5連覇で初の永世女王獲得か、西山奨励会三段が初タイトル獲得か。第11期マイナビ女子オープン五番勝負の展望は?

ライター: 渡辺弥生  更新: 2018年04月09日

3月1日、東京・将棋会館の特別対局室で岩根忍女流三段西山朋佳奨励会三段による第11期マイナビ女子オープン挑戦者決定戦が行われ、同日16時25分、二転三転の激戦の末、西山が勝利、加藤桃子女王への挑戦権を獲得した。奨励会員として修行の日々を送る両者がぶつかる第11期マイナビ女子オープン五番勝負の展望を予想する。

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第11期マイナビ女子オープン挑戦者決定戦終局後の模様。西山奨励会三段が2度目のタイトル戦出場を果たした。撮影:八雲

初の永世女王をかけた戦い

2014年春、里見香奈女王(当時)より3勝1敗で女王のタイトルを奪取して以来4連覇と、このマイナビ女子オープンにおいて際立った強さを見せるタイトルホルダー、加藤桃子女王。タイトル獲得数は女王4期、女流王座4期の計8期を数える。関東奨励会に所属し、現在初段。序盤の深い研究と中終盤の思い切りの良い鋭い踏み込みが持ち味の居飛車党だ。

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第10期マイナビ女子オープン五番勝負第3局(於・愛知県蒲郡市「西浦温泉 旬景浪漫 銀波荘」)感想戦での加藤女王。このシリーズは、上田初美女流三段の挑戦を3連勝で退けた。撮影:常盤秀樹

加藤は今期防衛に成功すれば、女王のタイトルを連続5期獲得により、初の永世女王資格保持者となる。今度の五番勝負は、加藤にとってこれまで以上に大きな意味のあるタイトル戦であるに違いない。

加藤の平成29年度成績は12勝4敗、勝率0.75(男性棋士との対戦を含まない)。4敗のうちの3敗は昨年の10月から12月に行われた里見香奈女流王座との第7期リコー杯女流王座戦五番勝負でついたもので、調子はまずまずと見ていいだろう。

加藤と西山が最初にぶつかったのは第4期リコー杯女流王座戦五番勝負だ(第4期リコー杯女流王座戦五番勝負はタイトルホルダーの里見女流王座が休場のため本戦トーナメントを勝ち上がった加藤と西山による番勝負となった)。当時加藤は奨励会初段、対する西山は奨励会二段で、西山に分のある戦いかと思われたが、勢いある指し回しで加藤が西山を圧倒、3連勝で女流王座の座に再び就いた。

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第4期リコー杯女流王座戦五番勝負第1局(2014年10月29日、於・福島県郡山市「郡山ビューホテル アネックス」)終局後の模様。加藤女王と西山奨励会二段で女流王座のタイトルを争ったが、結果3連勝で加藤が女流王座の復位となった。撮影:常盤秀樹

下図はその五番勝負第3局の終盤戦。先手の西山が▲8七角打と飛車取りに角を打った手に対し、加藤がわずか1分の考慮で△5八と、とと金を寄ったところだ。△5八とに替えて△8八飛成と飛車を逃げるのは▲5三歩成△5八と▲4三と△4八と▲3二と△同玉▲5三桂成で後手の一手負けだ。

【第1図は△5八とまで】

第1図以下の指し手

▲7八角△4八と▲8一飛△3九金▲4九銀△同と▲5三歩成△2九金▲同玉△2六桂。

△3九金に▲4九銀は攻めを遅らせる受けの手筋だが、△4九同と▲5三歩成に△2九金▲同玉△2六桂がうまい寄せ。▲2六同歩と桂を取るのは△2七銀が厳しい。

実戦で西山は△2六桂に▲2八玉と玉を上がって詰めろを受けたが、そこで△6五銀と桂を取った手がまた△3九銀▲1七玉△2五桂▲2六玉△3五金までの詰めろとなり、勝負あった。

この対局に勝った加藤は3連勝で女流王座に復位、女王と併せて女流二冠となった。

剛腕の振り飛車党、西山奨励会三段

一方、挑戦者となった西山の女流棋戦における今年度の成績は7勝1敗、勝率0.875。過去、タイトル戦登場は1回、加藤との第4期リコー杯女流王座戦五番勝負のみで、西山の実力からすると少ない印象だ。

早見え早指しの恐るべき腕力の振り飛車党で、思いもよらぬ豪快な攻めと、終盤の寄せの速さは桁違いだ。今期の本戦トーナメントでも、ひとたびペースをつかめば一気に相手玉を寄せ切るさすがは西山という指し回しで勝ち上がってきた。関東奨励会に所属し、現在三段。これまでの最高成績は10勝8敗。三段リーグで勝ち越した女性奨励会員はこの西山だけである。

下図は西山が加藤女王への挑戦を決めた第11期マイナビ女子オープン挑戦者決定戦の中盤戦。先手の岩根忍女流三段が▲7四歩と桂取りに歩を取り込んだ手に対し、西山が△6五桂と桂を捨てる驚きの勝負手を放ったところだ。

【第2図は△6五桂まで】

第2図以下の指し手

▲6五同歩△7七角成▲同桂△5五角▲7三歩成△同銀▲8三飛成△3七歩▲4九玉△7七角成▲7八歩△9九馬

▲6五同歩△7七角成▲同桂に△5五角が狙いの一着。▲6八金と桂取りを受けるのは△7六歩▲同銀△3六飛が王手銀取りの十字飛車。▲7三歩成△同銀▲8三飛成に△3七歩が厳しい叩きだ。▲3七同桂は△3六銀▲2五桂△2八角成▲同玉△3七銀打で後手の攻めが続く。

△9九馬はそっぽのようだが、次に△8二香の竜取りが痛い。「△9九馬と香車を取って良くなったと思いました」と西山。以下も一手差を見切った西山が激しい寄せ合いを制し、挑戦権を手に入れた。

激戦必至の五番勝負

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第11期マイナビ女子オープン挑戦者決定戦終了後の記者会見での記念撮影。今期五番勝負も熱戦が期待できそうだ。撮影:八雲

加藤と西山が対戦したのは既にご紹介した2014年秋からの第4期リコー杯女流王座戦五番勝負のときで、加藤の3連勝で終わった。局数も少なく、3年半ぶりの対局となれば、この数字は参考にはならないだろう。奨励会は加藤が初段、西山が三段だが、加藤は持ち時間が長い方が力を出すタイプなので、これも関係ない。番勝負を多く経験している加藤がその分有利な気もするが、勝負としてはまったく互角だろう。

戦型は西山の力戦振り飛車に加藤が居飛車の急戦、もしくは左美濃や穴熊の持久戦で対抗する、居飛車対振り飛車の対抗型が有力だ。両者とも妥協しない、踏み込みのよい攻め将棋。見ている者をあっと言わせるような鋭い切り込み、一手を争う終盤の激しい寄せ合いが見られるに違いない。

第11期マイナビ女子オープン五番勝負第1局は4月10日、神奈川県「元湯陣屋」にて開幕する。

渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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