将棋コラム

ドラマの連続を制し、優勝したのは?オール学生選手権、準決勝・決勝の激戦の様子をご紹介

ドラマの連続を制し、優勝したのは?オール学生選手権、準決勝・決勝の激戦の様子をご紹介

ライター: 古川徹雄  更新: 2018年03月01日

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大会2日目(1月7日)は前日(大会1日目レポートコラム)のsola city Hallから場所を同じソラシティ内の会議室roomDに移して行われた。前日ベスト16進出をかけた対局を消化できなかった選手は、他の選手のより約1時間早く集合してもらい対局開始。

ベスト16には学生名人藤岡隼太さん(東大1)高校三冠銭本裕生君(横浜高3)をはじめそうそうたるメンバーが名を連ねた。

羽仁豊さん(ベスト16)

岡山大3年で将棋部主将を務める羽仁豊さんは、昨年度の学生選手権学生名人戦と続けて準優勝。今年こそは学生タイトルを岡山に持って帰りたいところだろう。

今回は青春18きっぷを使って陸路を12時間かけて参戦。「読書が趣味で本を読みながらの移動だったので、つらくはなかったです」と羽仁さん。鍛えが入っている。

1日目を得意の振り飛車で危なげなく勝ち進み、ベスト8進出をかけた2日目の初戦、最強高校生の呼び声高い銭本君と対戦。頼れる相棒、ノーマル三間飛車にすべてを託したが熱戦の末に敗れた。

負けるとすぐに帰ってしまう選手が多い中、羽仁さんは昼食休憩を挟みつつ、最後の最後まで楽しそうに対局を観戦。その溢れ出るほどの将棋愛で誰よりも楽しい2日間を過ごしたに違いない。

岡山出身で在住の羽仁さん。一般の大会でも次々と県代表になるなど、ここ1年で飛躍的に棋力が伸びたそうだ。ソフト「elmo」を導入し形勢判断に磨きをかけたことで序盤から中終盤、全体的な棋力の底上げができたという。ただ、最初からソフトを使いこなせていたわけではなく、1年半かけて徐々に慣れてきたそうだ。他にも短手数の詰め将棋を反復して解いたり、『大山康晴全集』を並べるのなど地道な勉強に抜かりはない。

振り飛車党なだけに、地元出身の大山十五世名人菅井竜也王位があこがれの存在で目標だ。

「部は現在、中四国大会で団体優勝を続けているので、次は全国の団体戦でも上位を目指したいと思っています。関東はやはり全体的にレベルが高くてビックリしますが、上位だと関西でも中四国でも、それほどの差がないことが少し強くなって分かってきたので、臆せず学生タイトルを狙いたいですね。熱心な部の後輩たちの意欲が気持ちを引っ張ってくれています」と羽仁さん。今年の活躍が楽しみだ。

藤岡隼太さん(ベスト8)

東京大学からは今大会に17名の参加があり、ベスト16に実に5人が勝ち残って層の厚さを見せつけた。

第11回朝日杯将棋オープン戦で藤井聡太四段(当時)と対戦し、注目を集めた学生名人の藤岡隼太さん(東大1)も順当に勝ち上がった。

2日目の1回戦、川島滉生君(攻玉社中3)の振り飛車穴熊に苦しめられた藤岡さんだが、終盤のギリギリのところで逆転し、ベスト8に進出。準決勝進出をかけて銭本君と対戦。藤岡さんの雁木に対し銭本君が角換わりのような6二金、5四銀、7三桂の形から△6五歩と先行する展開で激しく攻め立てられ、激戦の末に屈した。

「普段は1分将棋で指すことが多く(大学生大会は1分将棋が多い)、時間の長い将棋が好きなので、今大会は切れ負けと30秒将棋で大変でした。銭本君との将棋では中盤で何も見えなくなってしまって。この大会は子どものころに参加した現在の「将棋日本シリーズ テーブルマークこども大会」のような雰囲気で、なにより参加人数の多さに驚きました。将棋は部活動で指したり、蒲田や御徒町の道場で指しています。この大会で負けた後は競技かるたの練習に没頭し、一日5時間くらいは練習していました。かるたの東京大会(全国から強豪が参加)A級でベスト8に入れたので、練習の成果は出せたのかなと思います。今度、将棋部で部長の大役を引き受けることになったんですが、同時に東京大学百人一首同好会の部長も引き受けることなってしまって忙しくなりそうです。先日は将棋でも有名な白瀧呉服店さんが応援されてる『白瀧杯女流かるた高校選手権大会』のゲストに呼んでいただいて、とても光栄でしたが、あまりに緊張してなにも話せませんでした」と藤岡さん。

地元愛媛の松山将棋センターでは、女流棋士初段山根ことみさんが幼なじみで、将棋もよく指した仲だそうだ。奨励会在籍経験もあり、愛媛からフェリーで通っていたという。実力十分でありながら、プレッシャーの中で結果を出せず苦み、学業に専念するために中学2年のときに5級で退会。退会後は将棋を辞め、進学に向けた勉強に専念していた藤岡さん。そんな高校生時代に競技かるたと出会い青春を燃やしていたという。大学に入り、満を持して将棋を再開すると、あれよあれよという間に学生名人になってしまった。学生名人を獲得した際に「気楽に指せたことがよかった」と藤岡さんは語っているが、心の底から出た本音であろう。

将棋にかるたに青春を謳歌している現在のその姿は、まぶしいくらいに輝いて見えた。

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準々決勝、銭本(左)-藤岡戦 撮影:古川徹雄

小学生同士の決戦を制して勝ち上がってきた白田君はベスト8進出をかけて、宮下真弥君(早稲田実高1年)と対戦。宮下君が得意の袖飛車で局面を優位に進めていたが、白田君が粘り強い指しまわしで最終盤にうっちゃりを決め逆転。準々決勝に駒を進めた。

快進撃を続けてきた白田君だったが、次の対局で阪本駿君(文星芸大付属高3年)に敗れ準決勝進出はならなかった。

「できれば最後まで勝ち進みたかったんですが、ここまで勝ち残れてよかったです」と白田君。この大会で得た自信を糧に研修会でもさらに上を目指して頑張って欲しい。

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準々決勝、白田(左)-阪本戦 撮影:古川徹雄

準決勝(1)

準決勝に進出したのは高校生3名と大学生1名。ベスト8が大学生4名、高校生3名、小学生1名だったことを考えると高校生の健闘ぶりが光る。

準決勝第1局は、高校タイトルを総なめにしている銭本君と、高校選手権団体戦で全国制覇を果たしている阪本君の高校生同士の対戦となった。

準決勝の大一番を前に、なんのためらいもなく一緒に昼食に行くほど、二人は仲がよい。

「銭本君と青森東高3年の木村孝太郎君とは、高校将棋の全国大会等で顔が合えば、ホテルの誰かの部屋に集まって、ずっと話をして盛り上がる仲で、普段も連絡を取り合っています」と阪本君。将棋を通じた友情が互いの棋力を高めあっているようだ。

将棋は先手阪本君の三間飛車に銭本君が低い陣形の左美濃で対抗。先手が▲6八角と引き石田流に組む動きに対し銭本君が即△6五歩と反発。阪本君が局面を収めようと▲7八金と上がり、交換になったばかりの歩を6七に打ち辛抱を重ねて▲4八玉と上がったのが第1図。

【第1図は▲4八玉まで】

手得を重ねて後手十分の形だ。序盤早々ポイントを奪った銭本君は△3三角と上がって次の△4二角から△7五銀を狙う。ごく自然に思われた、この△3三角がどうだったか。△3三角では△7二金、もしくは△5二金と上がって▲7四歩に△6三金の受け(▲7三歩成に△同銀と取れるようにする)を準備してから△3三角と上がって△4二角の筋を狙えば、駒組みの遅れている先手は対処のしようが無かった。

本譜は第1図以下△3三角に▲7四歩△7二金▲7三歩成△同金▲8五桂△7二金▲9五角△7三歩▲7四歩と進み、凝り形だった先手の駒がさばける見込みがつき、先手も十分に戦える形となった。

【第2図△8五桂まで】

進んで第2図。この飛車取りを受けた▲8五桂に対して△3五桂と打った手を銭本君は悔やんだ。△4七桂成から△6九角の王手金取りの筋を狙いつつ、2七の地点も射程に入れてプレッシャーをかける意味の桂打ちだったのだが、▲6八金と離れ駒を活用し、味よく受けられていっぺんに形勢を損ねた。▲3五桂ではいったん△7二飛と飛車を逃げておけば先手の次の手が難しかった。▲6三金のような手では△8二飛と回られて次の△8五香を狙われてヤブヘビとなる。

本譜は▲6八金に△7五角として▲7三桂成から飛車の取り合いとなったが、金銀の数で勝る阪本君が丁寧な指しまわしで圧倒。大敵を沈めて決勝進出を決めた。

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準決勝、銭本(左)-阪本戦 撮影:古川徹雄

●銭本裕生君(第3位)

銭本君は兄弟で強豪として知られ、兄は立命館大学で主将を務める銭本幹生さん。私が将棋世界編集部に在籍していた頃には、各種大会や道場のトーナメントなどの結果を掲載する棋友ニュースのコーナーに、二人の名前が毎回のように優勝者として投稿されていた。

普段はネット将棋で、週末は蒲田将棋センターで指し、腕を磨いているという銭本君。戦型を選んでゆっくり棋譜を盤に並べて検討するのが好きだという。好きな棋士は羽生善治竜王。ソフトもたまに使って検討するそうだが「どのソフトがいいかということも分からないので、兄にインストールしてもらったソフトをそのまま使っています。おそらく『技巧』だと思います」とのこと。

「阪本君には昨年5月に行われた関東アマ名人戦で負けていたので雪辱したかったんですが残念です。オール学生には小学生のころから5、6回は参加していてベスト32が最高だったので、今回は2日目に残れたことがうれしいです。家族も驚いていました」と銭本君。高校タイトルを総なめにした実力者が大学将棋で大暴れする日も近いだろう。

準決勝(2)

準決勝第2局は日高啓道さん(中央大1年)堀田久里生君(鹿島学園高3年)の対戦。先手日高さん得意の角換わり棒銀に堀田君が飛車先を突かずに△4二飛と回る形で対抗。場合によっては△7二金から△6二玉と振り飛車のようにして戦う展開も想定している。

【第3図は△4四同金まで】

第3図は日高さんが▲4三歩△同金右▲4四歩△同金と歩を連打した局面。ここで▲5六金が日高さんの勝負手。▲5六金では▲4六金と銀を取りたいのだが、それは△同角が2四の飛車に当たってまずい。そこで▲5六金とかわして当然の△3七銀不成に▲同角△同角成と駒損を承知の上で、▲3三銀の打ち込みに期待して勝負をかけた。

【第4図△4二同玉まで】

進んで第4図は駒の取り合いから堀田君が△4二同玉と成銀を払った局面。ここで日高さんの指した▲2二飛が敗着となった。本譜は▲2二飛以下△3二歩▲3三歩成△5二玉▲3二飛成△6三玉と逃げられて後手玉は広く、捕まらない。

▲2二飛では▲7二飛と反対側から打つのが有力で難解だったと局後の両者。▲7二飛に△5二銀なら▲4五銀△5五角(後手が△4五金と取ったときに5五の角を3三の地点に利かせる意味)という変化で難解。

▲7二飛に△5二桂も▲3三金△5一玉▲7一飛成△6一飛▲4二金△同玉▲6一竜△3二銀のような変化で難しく、日高さんとしてはとにかく▲7二飛と打つしかなかった。

日高さんの猛攻を冷静にしのいだ堀田君が最後は先手玉を即詰みに討ち取り決勝進出を決めた。

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準決勝、日高(左)-堀田戦 撮影:古川徹雄

日高啓道さん(第3位)

日高さんは麻布高校時代に個人、団体で全国高校選手権を制した実力者。それもそのはず、小学1年生のときに千葉に引っ越して以来、柏将棋センターに通い、石田和雄九段に師事。奨励会を二度受験し、4年生で一次試験を突破したほどの才能の持ち主だ。

二度の奨励会受験失敗を経て、麻布中学に進学しアマチュアで将棋を楽しむ道を選択。将棋部で努力を積んで結果を残してきた。

「トーナメントの二回戦で同じ千葉の礒谷真帆さん(幕張総合高1)と当たったのですが、同じ千葉ですし、顔見知りなので、とてもやりにくかったですね。今大会は予選から逆転の連続で、勝ち上がれたこと自体が幸運でした。麻布高校ではアマ強豪の多々納守さんや、プロ棋士の青嶋未来五段が先輩です。青嶋五段には文化祭にも出演してもらったことがありました。中高と六年間将棋部に所属していたこともありOBとしての思い入れが強くて、麻布の大会結果等は逐一チェックしてしまいます。棋士では谷川浩司九段を尊敬していて、光速の寄せを目標に、常に攻めを意識して指すように心がけています。高校1年のころから一局を通してのミスがなぜか徐々に減り、どんなに強い相手にでも勝負形には持っていけるようになって、大会で結果が出せるようになりました」
と日高さん。

普段の練習は持ち時間の短いネット将棋が中心のため、大学将棋の長い持ち時間と1分将棋にはなかなか馴染めず、調子が狂ってしまうという。大会等で指した将棋はソフト「技巧・魔女(SILENT_MAJORITY)」を使って後日検討し軌道修正しているそうだ。

「今大会は小中学生をはじめ年下の人との対戦が多く、取りこぼしがないように手堅く勝とうと、ずっと震えながら指していました。ベスト16を争った小雀悟君(横浜市立本牧小5)が強くて印象に残ってます。準決勝で対戦した堀田君の苦しい戦いの中でも僅かなチャンスを見逃さず、逆に勝ちになったら逃がさない指し回しはとても勉強になりました。見習いたいですね」

普段は野球やサッカーの観戦が趣味で、ジャイアンツの応援のために昨年だけでも東京ドームに20回は通ったそうだ。

「現在の大きな目標は藤岡さんのようにプロ棋戦に出ること。まずは中央大学将棋部を強くして、個人でも学生タイトルを獲りたいです」
と闘志を燃やす。今年の活躍が期待される。

決勝戦

決勝戦は阪本君堀田君という高校3年生同士のフレッシュな顔合わせとなった。子どものころからよく対戦のある二人。ここまでの対戦成績は堀田君が全勝と阪本君にとっては相性の悪い相手だ。お互いに高校個人のタイトルには手が届いていないため、高校生活のラストに是が非でも欲しいタイトルだろう。

将棋は阪本君が角道を止めない三間飛車から自ら手損して角交換し、石田流に組むと、堀田君が古風な陣立てでこれに対抗。

【第5図は△7四同飛まで】

第5図は△7四同飛と堀田君が歩を交換した局面。次に△6五歩から飛車を取る狙い(▲6五同桂には△7八飛成と金を取れる)や△7六歩もあり対応が悩ましいところだ。ここで阪本君の指した▲6一角が実戦的な面白い手だった。それでも後手が△6五歩なら▲5五歩と突いて飛車角交換を狙い、放っておいても▲7二角成から▲5五金と打って勝負しようということだ。実戦は▲6一角に△2二玉と角の逃げ場を作った手にズバリ▲7二角成と切って△同飛に▲5五金と角取りと催促。これに堀田君が対応を誤り阪本君の勝負手が奏功した。

【第6図は△8二竜まで】

第6図は竜取りの▲5一馬に対し、8四にいた竜を△8二竜と引いて辛抱したところ。堀田君の7四の銀、6五の金がお荷物で、桂損だが、と金が大きく先手優勢の局面。先手玉は左辺への脱出路も確保されているので見た目以上に紛れが少ない。阪本君の脳裏に優勝のプレッシャーがちらつくころだ。阪本君はここで▲1五歩と取ったが△1六歩と垂らされて端に嫌味が残った。第6図では黙って▲5三とと引き、▲4一角や▲5二角を狙って催促するのが分かりやすい勝ち方。▲5三とに△1六歩なら▲1八歩。▲5三とに△2四桂なら▲1五歩と受けておくのが手堅かった。端でアヤはついたがまだ先手が優勢の局面。阪本君は勝ちきれるのか。

【第7図は△3二香まで】

第7図は最終盤。端でポイントをあげて追いすがる堀田君が△3二香と詰めろを受けた局面。一手でも緩むと4一に質駒の角があるため危ない。飛車の横利きを消すために先手は5二に歩を打ってしまったために、後手が角を手にして△7五角と打たれたときの合駒の準備が必要となる。本譜は▲3二同と△同金▲2六香と進んだが、堀田君渾身の△5七桂が詰めろで逆転。時間に追われて打った▲2六香が詰めろになっていなかったのだ。

第7図では▲3三と△同香▲4二銀や単に▲4二銀という順で先手の勝ち筋なのだが、秒読みの中でこの局面を読み切るのは容易ではない。△5七桂以下は緩みなく詰めろの連続で迫り、堀田君が逆転でビッグタイトルを手にした。

感想戦での阪本君は顔が紅潮し目は真っ赤。それでも悔しさを押し殺して、真面目に言葉をひとつひとつひねり出す姿が印象的だった。感想戦が終わり、表彰式を前に席を立つと、阪本君はしばらく戻ってこなかった。

表彰式では日本将棋連盟専務理事・森内俊之九段が賞状を読み上げ、楯、賞品を授与し、各選手の健闘を称えた。優勝者の堀田君にはファーストロジック社の中河原諒さんから副賞の彫埋駒が手渡された。

表彰式終了後に森内専務理事(九段)が、過去に審判長を務めた大会で堀田君が優秀な成績を収めることが何度かあり、よく覚えていることを伝えると、堀田君はうれしそうにのけぞった。

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決勝戦、堀田(左)-阪本戦 撮影:古川徹雄

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ファーストロジック社の中河原諒さんから竹風作の堀埋駒が副賞として贈呈された。撮影:古川徹雄

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講評を述べる日本将棋連盟専務理事・森内俊之九段。撮影:古川徹雄

阪本駿君(準優勝)

阪本君は中学生のときに高校団体戦で全国優勝するすることを夢見て文星芸大付属高を選び進学。見事に全国制覇を成し遂げた意志の人だ。今大会では力強い振り飛車を駆使し、安定した内容で勝ち上がってきた。

「1日目の最終戦で石井康明さん(東大5)に相振り飛車の激戦を勝つことができて弾みがつき、勢いに乗れました」と阪本君。

今大会の準優勝に触れ、「高校で1年先輩の小林智晴さんが全国高校新人大会で準優勝、同じく1年先輩の福田雄太さんが高校竜王戦全国大会で準優勝。私が今回準優勝で完全に『文星準優勝の呪い』を作りあげてしまった感があるので、後輩に全国大会個人戦で優勝してもらって、なんとか呪いを解いて欲しいと願うばかりです。個人戦全国大会準優勝の3人が団体戦優勝メンバーというのが、なんとも不思議な偶然です。個人戦ではこれまで全国大会ベスト8が最高だったので、小学生のころから目標にしていた銭本君や堀田君と準決勝や決勝という舞台で戦えたことはうれしかったですし、自信になりました。準優勝して祝福の言葉をたくさんいただきましたが、やはり悔しい気持ちもあります。これからも挫折することがあると思うんですが、諦めずに自分らしく将棋に打ち込み続けたいと思います。憧れの棋士は戸辺誠七段。普段の勉強は棋譜並べと詰将棋を中心にして、ソフト(技巧・elmo)も使っています。『大山康晴全集』をよく並べていて、その手厚い指し回しや受け方が、ときに感動的でとても勉強になります」

日高さんと同じく野球観戦が好きで、シーズンが始まると気合いが入るという阪本君。音楽を聴いたり、カラオケで歌うことが大好きな普通の高校生だ。

コツコツと目標に向かって努力を積み重ね、着実に目標を達成してきた阪本君。大学将棋での活躍にも注目したい。

堀田久里生君(優勝)

今回、栄冠を勝ち取った堀田君は通信制高校の3年生で元奨励会員。奨励会4級のときに昇級の一番を何度か逃し、それがきっかけでそれまで両立できていた将棋と学業のバランスがとれなくなってしまったという。勉強が将棋の、将棋が勉強の負担となり、中学2年のときに将棋から逃げるように衝動的に奨励会を退会した。

「師匠の村田顕弘(六段)先生には本当によくしてもらっていたので、自分本位で勝手に辞めてしまったことを、いまでも申し訳なく思っています。将棋に負けて、対人関係もうまくいかず、学校の勉強にまで影響が出てしまって自暴自棄になっていました」

退会後は日に日に勉強も手につかなくなり、精神的に負担の少ない通信制のある鹿島学園高等学校を選んで進学。将棋への熱が再燃し、高校生の大会に出るようになったものの、上位入賞はできても優勝はできず、ベスト4が7回と精神面の弱さを痛感したという。

「今大会、実力的に優勝を狙うのはだいぶ厳しいことは自分自身がいちばんよく分かっていました。でも大会に出て将棋を指したい、その一心で参加して本当に運がよかったです。大会を通して逆転の将棋が多く、極度の緊張でへとへとになりました」

現在も進学や就職等の将来への不安が大きく、将棋を指すことの意味を考えて悩み、最近は将棋を指していても色んなことが頭をよぎって集中できないことが多いという。対人関係が苦手で誤解されることも多く、強がってはいるがいつも孤独と戦ってきた。

「僕なんかが優勝してしまって申し訳ない気がしています。人にどう思われているのかがとても気になって......」と後日のインタビューでも自虐的な堀田君。この優勝を機に、悩みや不安を将棋の力で打ち消して、是非、将来の夢や希望に代えてもらいたいと願ってやまない。

参加者それぞれのドラマがあった今大会の熱気を、少しでも感じていただければ幸いです。

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左から森内九段、3位の日高啓道さん、優勝の堀田久里生君、準優勝の阪本駿君、3位の銭本裕生君、ファーストロジック社の中河原諒さんと澤田千紘さん。撮影:古川徹雄

古川徹雄

ライター古川徹雄

観戦記者。通称ふるてつ。元将棋世界編集部。河口俊彦先生(八段・故人)の「対局日誌」に憧れ、作家・大崎善生氏の「聖の青春」に背中を押されて将棋界の門を叩き、田名後(現『将棋世界』編集長)門下となり今日に至る。元博報堂DYホールディングスグループ経営・教育コンサルタント。こぶ平(正蔵)に似ていると言われるが本人は大いに不満。Twitterアカウントはこちら

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