将棋連盟書道部に潜入インタビュー!プロ棋士はどうやって揮毫を選んでいるのか聞いてみた

将棋連盟書道部に潜入インタビュー!プロ棋士はどうやって揮毫を選んでいるのか聞いてみた

ライター: マツオカミキ  更新: 2018年02月28日

羽生善治竜王『玲瓏』藤井聡太六段『大志』など、棋士がサインとともに書く言葉って、かっこいいと思いませんか? 座右の銘や好きな言葉を書くらしく、この言葉のことを「揮毫(きごう)」と呼ぶんだそうです。「揮毫って、どうやって決めているんだろう?」「なぜあんなに達筆なんだろう?」ということで、今回は棋士の方々が揮毫の練習をする将棋連盟書道部に潜入して聞いてみようと思います!

棋士が所属する将棋連盟書道部とは?

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月に1回程度活動しているという、将棋連盟書道部。15名程度が所属しており、1回の参加人数はだいたい4~5人だそうです。

今回参加している棋士は、部長の門倉啓太五段をはじめ、片上大輔六段佐々木勇気六段伊藤真吾五段上村亘四段斎藤明日斗四段の6名。講師は菅菰会副理事長の佐々木恵陽先生です。

なんでその揮毫に決めたの? 棋士に聞いてみた!

部長の門倉五段によると「毎回参加してくれる棋士もいますが、プロになったばかりの新四段が揮毫を練習しにくることも多いです」とのこと。潜入させていただいた日も、昨年プロ棋士となった斎藤四段が練習にきている一方で、長年書道部に参加し続ける棋士の方々も練習していました。せっかくなので、棋士の方々に「なぜその言葉に決めたの?」とお聞きしてみました!

プロになったばかり! 初の揮毫を練習中の斎藤明日斗四段

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斎藤四段が練習していたのは『飛躍』の文字。「プロになって、さらに飛躍したいという想いを込めました」と、その言葉に決めた理由を教えてくださいました。「サイン会でファンの方にお渡しするときに、より綺麗な字で書けるようになりたいです」と斎藤四段がお話されると、まわりの先輩方から「最初、字のバランスがすごく悪かったもんね(笑)」とツッコミが入る場面も。

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佐々木六段や門倉五段が斎藤四段にアドバイスをするなど、書道部はかなり和気あいあいとした雰囲気でした。

書道部のエース、伊藤真吾五段

『龍頷』という言葉を練習していた伊藤五段、ここ1年ぐらいはこの字を勉強しているそう。「龍のあごにある美しい珠を、危険をおかして取りに行くという意味の言葉です。チャレンジする気持ちを忘れずにいたいので」と教えてくださいました。

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「揮毫する言葉は、20パターンぐらいあります」と話す伊藤五段が書いた揮毫が、机の上に並べられていました。門倉五段が「書道部のエースなんですよ」と言っていたとおり、達筆です‥‥!

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書道部歴15年以上! 片上大輔六段

書道部創設時から15年以上所属しているという片上六段。今回練習されていたのは『知常』です。「まだ書き慣れていない言葉を書道部で練習しています。最近だと、その場でパッと書くのは『玄遠』が多いですね。奥が深いという意味です」とのこと。数カ月ごとに新しい言葉のお手本をもらってバリエーションを増やし、書き慣れてきたものの中から選んで揮毫するんだとか。「書道が得意ではないからこそ、練習して上達したいと思って参加しています」とおっしゃっていました。

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書道の伸び率ナンバーワン! 上村亘四段

部長の門倉五段が「書道部の伸び率ナンバーワン」だと言う上村四段は、「最初はすごく下手だったんですけど、書道部や先生のおかげで、サインをするときも自信を持って書けるようになりました」とお話されていました。

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今回練習していた『精進』を選んだ理由を聞くと「将棋を頑張らなきゃな、という想いを込めて」とのこと。他にも「将棋に打ち込む上で、集中力が大事なので」という理由で『静心』を書くことも多いそうです。

秘密の揮毫を練習中! 佐々木勇気六段

今日は発売予定の書籍に書く言葉を練習していた佐々木六段。何の言葉を書いているのかは、発売後のお楽しみです。その揮毫に決めた理由を聞くと「私、話すのが苦手なので‥‥」と言いつつ、「(本の内容が)自分の中で特別な思い入れのある戦法なので、その気持ちを込めて」と言葉少なに教えてくれました。

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「部員が自信をつけていくのを見るのがやりがい」部長の門倉啓太五段

『景雲飛』という言葉を練習している門倉五段、「将棋の駒の字が入っていて、良い意味の言葉を探しました」とのこと。「渡す人によって揮毫を変えるようにしています。お子さんであれば難しい言葉は書かずに、自分のレパートリーの中から意味のわかりやすいものを選びます」とおっしゃっていました。

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「上村四段も言っていましたが、苦手だった人や新人が書道部で練習して自信をつけていく様子を見るのは、嬉しいですね」と、部長として成長を見守る喜びについても語ってくださいました。

棋士が揮毫を決めてから練習するまでの流れを体験してみた

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講師の佐々木恵陽先生と部長の門倉五段にご指導いただきながら、棋士が揮毫を決めて練習するまでの過程を体験させていただきました! まずは故事成語や四字熟語の本の中から気に入った言葉を探します。私が選んだのは『清心』で、「胸中のけがれを取り除く」という意味。けがれなき清らかな心でありたいという気持ちを込めて‥‥。

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決まった揮毫を佐々木先生に伝え、お手本を書いていただきます。力を入れるポイントなど、書き方についてアドバイスをいただきました。

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あとはひたすら、お手本を見ながら練習します。定期的に先生がまわってきてくださり、改善点を教えてくださいました。

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ファンの方にお渡しする用に、揮毫を色紙に清書します。「せっかくなので、色紙に書いてみては?」と門倉五段が言ってくださったので、(特に誰かに渡す予定はありませんが)私も書かせていただきました。「初めてにしては上手!」と皆様とても優しく、気を遣っておだててくださいました‥‥! 

おわりに

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棋士の皆さまが「揮毫はファンの方の手に渡るものだから、なるべく気持ちを込めて綺麗に書きたい」とお話されていたのが印象的でした。選ぶ言葉にも、それぞれのスタンスや持ち味が出ていますよね。棋士の揮毫にも注目してみると、もっともっと将棋がおもしろくなるかもしれません。

今回のコラムでは揮毫の決め方や練習方法を見させていただきましたが、次回のコラムでは安食総子女流初段に「なぜ棋士は揮毫をするの?」「どうして何パターンも揮毫を持っているの?」など、揮毫についてもっと詳しくお聞きしてみたいと思います。お楽しみに!

<お知らせ>

棋士の方の書が展示される展覧会が、2018年3月1日より上野の東京都美術館で開催されます。3月4日には棋士の作品が抽選でもらえるイベントも開催されるそうですよ!

【第54回 菅菰書展】
日程:2018年3月1日(木)~7日(水)
会場:東京都美術館二階第二展示室

マツオカミキ

ライターマツオカミキ

2014年からライターとして活動する平成元年生まれ。28歳にして初めて将棋に触れました。将棋を学びながら、初心者目線で楽しさをお伝えします!普段は観光地や企業、お店を取材して記事を執筆中。

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