「クイーン王将」里見香奈VS「今年度勝率ランキング1位」伊藤沙恵、女流王将戦振り返り

「クイーン王将」里見香奈VS「今年度勝率ランキング1位」伊藤沙恵、女流王将戦振り返り

ライター: 渡辺弥生  更新: 2018年01月10日

この10月に行われた第39期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負は、里見香奈女流王将が2連勝。伊藤沙恵女流二段の挑戦を退けてタイトルを防衛した。里見のストレート防衛という形で終わりはしたものの、その内容を見ると、まったく反対の結果でも不思議ではない激戦だった。少ない持ち時間の中で繰り出される鋭い攻めに粘り強い受け、そして里見の勝利を引き寄せる勝負術。簡単ではあるが、番勝負2局を振り返ってみたい。

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女流王将を保持する第一人者、里見香奈女流五冠。ここまで、女流王将獲得数は5期で、クイーン王将の称号を持つ。

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2010年に当時の清水女流王将よりタイトルを奪取。4年前、香川愛生女流二段(現三段)に敗れ、女流王将のタイトルを失うも、その翌々年に香川に勝ち再び女流王将に復位。以来2連覇中である。5期のうち3期がストレート勝ちという強さだ。

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一方、今期挑戦者となったのは伊藤沙恵女流二段。3年前の10月に女流初段で女流棋士デビューしたばかりだが、早くも四度目のタイトル戦出場となる。伊藤は第39期女流王将戦の挑戦を決めたのち、9月25日には第25期大山名人杯倉敷藤花戦、続いて10月25日に第44期女流名人戦においても挑戦権を獲得。女流名人リーグは全勝、対局数、勝数、勝率、連勝すべてにおいて今年度ランキング1位と、飛ぶ鳥を落とす勢いで勝ちまくっている。

さらに遡って里見と伊藤は今年春に行われた第28期女流王位戦五番勝負に続いて今期二度目の番勝負となった。女流王戦三番勝負が始まる前までの対戦成績は里見の4勝、伊藤の3勝。

意表の居飛車、驚きの受け

さて女流王将戦三番勝負第1局が行われたのは宮崎県都城市の霧島創業記念館「吉助」。美しい庭の広がる和室で、あでやかな羽織袴姿の両対局者が向き合った。先の第28期女流王位戦五番勝負の時、先手番では相振り飛車を採用した伊藤が、3手目に▲2六歩と突き居飛車を明示。居飛車穴熊対ゴキゲン中飛車の戦いになった。

素早い仕掛けから飛車角を捌き、ペースをつかんだ里見。先手の伊藤が苦しいながらも馬を切って飛車を成り込み、勝負をかける。先手は角金交換の駒損の上、手駒不足。ところがここから伊藤が巧妙な手順で優位に立つ。

【第1図は▲2七金まで】

▲2七金△3五飛▲3三竜△9五歩▲4五桂打△6四角▲5三歩△同歩▲3六歩

受けの棋風の伊藤、なんとここで▲2七金。僻地に金を手放すこの手が好手。▲4五桂打から▲3六歩で後手の飛車が捕まった。

▲3六歩に△4五飛と桂を喰いちぎり、里見が端を猛攻して一気に盤上は激しい攻め合いへ。第2図は、伊藤が詰みを防ぐ▲9八歩としたところだ。しかし、ここから里見が以下の手順で鮮やかに寄せ切った。

【第2図は▲9八歩まで】

△8九銀▲8八金△7七角
まで里見女流王将の勝ち。

【投了図は△7七角まで】

後手玉は成香を渡すと▲9二香までの一手詰。ここで△8九銀と打ったのがうまい寄せだった。▲8九同玉は△7七桂▲同金△8八金の金頭桂で詰む。▲8八金の一手に△7七角で先手玉に必至がかかった。先手は成香、銀、角、いずれの駒も取ることができない。さすがの終盤力で里見が先勝、タイトル防衛まであと1勝とした。

里見、脱帽の終盤力

三番勝負第2局が行われたのは東京将棋会館。戦型は意表の相居飛車の力戦となった。

中盤、里見が攻め、伊藤が受ける展開に。角を成り込み、優勢と思われた先手の里見だが、伊藤の粘り強い指し回しにいつの間にやら形勢は逆転。第3図は伊藤が△6六歩▲6八金に△4五角と角を打ったところ。先手玉の急所をにらみつつ飛車取り。厳しい角打ちだ。

【第3図は△4五角まで】

△4五角▲6五飛成△6四金▲8五竜△5七歩成▲同金△6七歩成▲3七桂△3四角▲3五歩△7八と▲同飛△同角成▲同玉△3八飛と進んだ。

△4五角に▲6五飛成と成ったのが、玉頭にと金を作らせるものすごい勝負手だ。しかし伊藤も動じない。あっさりと△7八と▲同飛△同角成と、と金を清算したのが好判断。△3八飛と王手で飛車をおろした局面は後手優勢だ。

本局のハイライトは第4図、里見が▲4一銀と打ったところ。この手は次に▲3二銀成△同玉▲2三竜△同玉▲3四金△3二玉▲2三角からの詰めろになっている。

【第5図は▲4一銀まで】

▲4一銀△6三金▲4五角△7七桂成▲同桂△5四銀▲同角△同金▲3二銀成△同玉▲2三竜
まで里見女流王将の勝ち。

【投了図は▲2三竜まで】

ここで伊藤の指した△6三金が、次に△7七桂成▲同玉△6八飛成▲同玉△6七銀からの詰みを見た、詰めろ逃れの詰めろ。さらに次の里見の▲4五角がまた▲3二銀成△同銀▲2三金△同銀▲同角成△同玉▲6三竜からの詰めろ逃れの詰めろ。40秒の秒読みが続く中、攻防手の飛び交う白熱の終盤戦となった。

△7七桂成▲同桂に△5四銀と打った手が敗着。▲5四同角△同金に▲3二銀成以下、後手玉は即詰み。苦しい将棋を最終盤で見事ひっくり返した里見は2連勝で女流王将のタイトルを防衛した。

ともに「自分の力を出し切れるよう、精一杯指したい」と語り、今後もタイトル戦でぶつかり続ける両対局者。どのような戦いを見せてくれるか、楽しみだ。

渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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