現女流王座・里見香奈VS前期女流王座・加藤桃子。第7期リコー杯女流王座戦の展望は?

現女流王座・里見香奈VS前期女流王座・加藤桃子。第7期リコー杯女流王座戦の展望は?

ライター: 渡辺弥生  更新: 2017年10月26日

女流棋界のトップに立つ二人の番勝負

第7期リコー杯女流王座戦五番勝負で、五冠を保持する女流棋界の王者、里見香奈女流王座への挑戦権を獲得したのは前期女流王座の加藤桃子女王。昨秋、里見にタイトルを奪われた加藤が、見事トーナメント戦を勝ち抜き、再びタイトル戦の場へと戻ってきた。今、女流棋界のトップに立つ若い二人。どのような戦いぶりを見せてくれるだろうか。

とにかく強い、五冠の里見女流王座

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第3期リコー杯女流王座戦五番勝負第2局(於:東京・港区「明治記念館」)での里見女王・女流名人(肩書は当時)。加藤女流王座に挑戦した里見は、3勝1敗で女流王座を奪取した。撮影:常盤秀樹

女王を除くすべてのタイトルを保持し、女流棋界のトップに君臨する里見女流五冠。25歳にして早くもタイトル獲得数は通算27期を数える。昨年度は岩根忍女流三段、香川愛生女流三段、室谷由紀女流二段、上田初美女流三段、伊藤沙恵女流二段、そしてこの加藤と、勢いある若手と5度のタイトル戦を戦い、そのすべてにおいて勝利を収めた。

指し手の安定感、終盤の読みの正確さ、底力、どれをとっても里見は群を抜いている。上田との第43期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負では開幕2連敗と追い込まれたが、そこから3連勝し、防衛。勝負どころでの強さはさすがとしか言いようがない。

棋士の四段を志して奨励会に入会してからはや6年がたつ。現行規定で女性初の初段、二段、三段と昇段を重ね、あと一歩。厳しい戦いが続いているが、こちらもなんとかものにしてほしいところである。

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第6期リコー杯女流王座戦五番勝負第3局は、静岡市「浮月楼」で行なわれた。里見女流四冠はこの対局に勝って、3連勝で加藤女流王座から再びタイトルを奪還した。撮影:常盤秀樹

里見と加藤はこれまでに3度の番勝負を戦っており、里見2勝、加藤1勝。図は昨年度の第6期リコー杯女流王座戦五番勝負第2局の中盤戦。先手が挑戦者の里見、後手が当時女王、女流王座の二冠の加藤だ。まだまだねじり合いが続くかに思われたこの局面から、里見は一気に優位を築いた。

以下、▲5四歩△同銀▲同飛△同歩▲7一角成△8四飛▲5三歩△同銀▲4一銀△3一金▲5二銀成△6二歩▲4三金△6九飛▲4二成銀△同銀▲同金△同金に▲7五角。

▲5四歩△同銀にズバッと▲同飛と切り、▲4一銀、▲4三金と穴熊に絡みつく。最後は見事に▲7五角の飛車金両取りが決まって先手優勢だ。このあとも一手違いの寄せ合いを制して里見が番勝負を2連勝。調子を落としていた加藤は持ち味の勢いある攻めを見せることができず、女流王座を失うことになった。

里見はタイトル戦のほかマイナビ女子オープンの本戦でも順調に勝ち上がっており、勝ち方も相変わらずの切れ味だ。調子もまずまずと見ていいだろう。今年度成績は伊藤との女流王位戦五番勝負とマイナビ女子オープンを合わせて4勝2敗。

「加藤さんはいつも礼儀正しく、将棋は踏み込みのよい攻め将棋という印象です。一生懸命がんばります」と女流王座戦挑戦者決定戦の控室で加藤の勝ちを見届けた里見。

波に乗る好調の挑戦者

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第7期リコー杯女流王座戦挑戦者決定戦の感想戦での加藤女王。香川愛生女流三段を下し、里見女流王座の挑戦権を獲得した。撮影:常盤秀樹

さて、挑戦者となった一方の加藤桃子女王は今年度に入って10勝1敗。ずっと好調を維持している。綿密な序盤研究に中終盤の踏み込みのよい攻めは、見ていても爽快だ。別人のような手厚い受けと粘りも加藤の武器。タイトル獲得数は女王と女流王座を合わせて計8期。加藤が参加している棋戦はこのほかに女流王将戦のみであり、その中でこれだけ勝っていることからも加藤が周りから頭一つ抜きんでた存在であることは間違いない。加藤も奨励会に所属し、現在初段の位置にいる。

女流棋戦でも安定した勝ち方をしている加藤だが、今期印象に残っているのはなんといっても加藤が女流タイトルホルダーとして出場した第11回朝日杯将棋オープン戦一次予選の将棋だ。

図は1回戦の藤倉勇樹五段戦の終盤戦。先手の藤倉五段が▲4六歩と突いて△3五銀からの詰めろを受けたところだ。一時は優勢と思われた後手の加藤だが、混戦模様となり、私は中継画面から目が離せなくなった。▲6三歩成とと金を作られ、後がない加藤、ここで一気に決めに出た。

△4八角成▲同金△同銀成▲5二と△3五銀▲2七玉△2八金打まで加藤女王の勝ち。

双方一分将棋で秒読みが続く中、△4八角成と角から突っ込んでいったのが良い手。たちまち先手玉は受けがなくなった。同日に行われた2回戦で、加藤はなんと中川大輔八段に苦しい将棋を逆転勝ちして2連勝した。

女流王座戦では第1期からずっと番勝負を戦ってきた加藤。後日このように意気込みを語ってくれた。

「女流王座戦五番勝負は今月末に開幕となります。メンタル面や技術面をうまく調整して、一生懸命指したいと思います。全力でぶつかりたいです」

1年ぶり、4度目のタイトル戦

里見と加藤はこれまでに13度の対戦があり、里見9勝、加藤4勝。現在里見の4連勝中だ。このうちなんと11局がタイトル戦の番勝負だ。2013年の第3期リコー杯女流王座戦五番勝負を里見が、翌2014年の第7期マイナビ女子オープン五番勝負を加藤が、そして昨年度の第6期リコー杯女流王座戦五番勝負を里見が、それぞれ制している。

中盤戦で仕掛けた側が優位を築き、そのまま押し切る将棋が多い。これまでの将棋の内容を見る限り、女流王座である里見にやや分がありそうだ。奨励会三段と初段という差はあるが、加藤は持ち時間が長い方が明らかに力を出すタイプなので、この差はあってないようなものだろう。加藤としてはいかに中盤戦において先攻し、流れをつかむことができるか否かがポイントとなりそうだ。

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挑戦者決定戦後に行われた記者会見で。撮影:常盤秀樹

居飛車振り飛車両方を指す両者だが、基本的に里見が振り飛車党、加藤が居飛車党なので、戦型は里見の振り飛車に加藤が急戦や穴熊という対抗型が有力だ。将棋に対する熱意と勢いもトップの二人。見る者を爽快にする鋭い切り込み、一手差を見切った寄せ合いを見ることができるはずだ。

渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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