優勝賞金4320万円、アマチュアでも参加できる「竜王戦」の仕組みとは?

優勝賞金4320万円、アマチュアでも参加できる「竜王戦」の仕組みとは?

ライター: 相崎修司  更新: 2017年09月07日

藤井聡太四段の活躍と、それに伴う一連のフィーバーの原点はどこにあるのか。今回はデビュー戦の舞台となった「竜王戦」について紹介する。

読売新聞社が主催する竜王戦は、その原点を1948年に始まった「全日本選手権戦」に置くことができる。10名の選抜棋士で行われたトーナメントを制したのは木村義雄十四世名人で、栄えある第1回の優勝者となった。

全日本選手権戦は第3回から「九段戦」としてタイトル戦に昇格した。タイトル戦としての第1期九段戦は1950年に行われた。名人戦に次ぐ2番目の歴史あるタイトル戦となる。第1期は大山康晴十五世名人と板谷四郎九段(藤井四段の師匠の師匠の師匠)との間で争われ、大山が2勝0敗で勝利した。

その後、1962年に「十段戦」と改称し、さらに1987年、十段戦を発展解消した結果、誕生したのが竜王戦である。

「将棋界最高の棋戦」として銘打たれ、誕生した竜王戦。特色はいくつもあるが、まずは何といっても賞金額の高さだろう。1988年の第1期竜王戦で優勝した島朗九段が受け取った優勝賞金額は、当時としては破格の2600万円。さらに第2期には3000万円に増額された。

現在の優勝賞金額は4320万円。デビューしたばかりの棋士でも勝ち上がれば優勝に手が届くことから、「竜王戦ドリーム」とも言われる。

また、発足当時に注目を集めたのはアマチュア棋士の参加枠を作ったことだ。現在では多くの棋戦でアマチュア参加枠が設けられているが、そのきっかけとなったのが竜王戦だろう。九段戦時代にも数年間アマチュアが参加していたことはあったが、実に30数年ぶりの復活で、全国のアマ強豪にも励みとなった。竜王戦と並行する形で創設されたアマチュア竜王戦、現在はその全国大会でベスト4に入ればプロの竜王戦に参加することができる。ここで勝ち上がればアマチュアでも竜王になれるが、過去のアマチュア最多勝は3連勝で(達成者は数名いる)、6組で4勝以上したアマチュアはいない。

ryuoh_01.jpg
2017年8月14日、第30期竜王戦挑戦者決定三番勝負第1局、昼休再開後の松尾八段。顔を手で覆い隠して考え込むシーンが多く見られた。 撮影:常盤秀樹

次は竜王戦のシステムを見ていこう。竜王戦は1組から6組までの6クラスに分けられている。デビューしたばかりの新四段は6組に参加し、勝ち上がることで上のクラスに昇級していくのだ。現在の各クラス定員は1組~3組が各16名、4組・5組が各32名、6組が残る現役棋士全員と参加資格を与えられた女流棋士4名、奨励会員1名、アマチュア選手5名によって構成される。

それぞれのクラスで勝ち上がった棋士が、挑戦権を争う決勝トーナメントに進出する。また、決勝トーナメントに進出できなくとも、各ランキング戦で上位に入ればランキング戦昇級となり、次期は1つ上のランキング戦に参加できる。逆にランキング戦で負けが込めば降級となり、次期は1つ下のランキングに落とされるのだ(昇降級枠は各ランキングにつきそれぞれ原則4名)。

決勝トーナメントの進出枠は1組から5名、2組から2名、3~6組からは各1名となっている。合計11名による変則トーナメントを戦い、頂点を目指す。勝ち残った2名の棋士により、挑戦者決定戦三番勝負が行われ、2勝したものが時の竜王と七番勝負を戦う。

今期(第30期)の挑戦者決定戦に進出したのは松尾歩八段(1組優勝)羽生善治三冠(1組2位)。8月14日から行われる挑戦者決定戦三番勝負に勝利した者が渡辺明竜王と七番勝負を戦うことになる。松尾挑戦なら初の同門(所司和晴七段門下)対決、羽生挑戦なら永世七冠がかかるシリーズとなり、注目を集めるだろう。

ryuoh_02.jpg
2017年8月25日、第30期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局での羽生三冠。第23期以来久々の竜王挑戦となるか。 撮影:常盤秀樹

今期は1組の上位がそのまま勝ち残ったことで、ランキング戦上位者がその実力を示したが、前述の「竜王戦ドリーム」のように、過去のシリーズでは下位のランキング戦から挑戦を果たし、奪取した例もある。

その典型的な例が第11期の藤井猛九段と第17期の渡辺竜王だろう。ともに4組から勝ち上がり、竜王奪取に至った。藤井は四間飛車の革命的定跡「藤井システム」を引っ提げ、挑戦者決定戦で羽生四冠(当時)を、七番勝負で谷川浩司竜王(当時)を破り、一躍スターとなった。それまで、居飛車穴熊に苦しめられていた振り飛車党の救世主ともいえる存在であり、多くのアマチュアファンはシステムとともに藤井新竜王へ絶大な支持をした。

また渡辺は2004年に森内俊之竜王(当時)に挑戦した。下馬評では森内有利と見られていたが、当時の最先端である横歩取り△8五飛戦法を駆使してタイトルを奪取。20歳でのタイトル獲得は18歳の屋敷伸之棋聖(当時)、19歳の羽生竜王(当時)に続く、史上3番目となる年少タイトルホルダーだ。その後も竜王戦で連覇を続け、2008年の第21期では勝者が永世竜王となる「永世シリーズ」(いずれの勝者にも永世称号がかかったタイトル戦は史上空前)で、羽生を3連敗後4連勝の離れ業で破り、初代の永世竜王となった。

ryuoh_03.jpg
同じく第2局対局開始の模様。 撮影:常盤秀樹

これまで、5組、6組から挑戦を果たした棋士はいない。藤井四段が来期、挑戦を果たすと初の「5組からの挑戦」となる。

七番勝負は2日制、持ち時間は各8時間だ。過去には何度か、海外でも対局が行われた。ヨーロッパで初めて行われた公式戦が第3期のフランクフルト対局である。直近の海外対局は第27期、ハワイで行われた。

今期七番勝負は10月20日に、渋谷区の「セルリアンタワー能楽堂」で第1局がスタートする。将棋界最高の戦いに、要注目である。

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています