歴代名人の承諾に奔走?竜王戦誕生の裏にあった森九段の苦労とは

歴代名人の承諾に奔走?竜王戦誕生の裏にあった森九段の苦労とは

ライター: 玉響  更新: 2017年08月25日

第4回は、森けい二九段の趣味や引退後の活動予定について語っていただきました。

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森九段の最後の対局は、2017年5月10日の第30期竜王戦ランキング戦6組昇級者決定戦(対 金沢孝史五段戦)だった。特別対局室で隣の対局は、佐藤天彦名人 対 佐々木勇気五段(当時)戦(第58期王位戦挑戦者決定リーグ)が行われていた。写真は、対局開始時の模様。撮影:常盤秀樹

――聞き忘れていましたが、森九段の趣味を教えてください。

「ギャンブルですね。カジノが好きで、海外には合計300回は行きました。昭和53年に中原さんに名人戦で負けたあと、初めてラスベガスに行って。それから年に10回ペースくらいかな。でも観光も好きでね、ヨーロッパのほうはカジノがあまりないけど、シャガールやピカソの絵を鑑賞したりしました。」

――森九段は1985年から理事を務められてました。苦労されたことはありますか。

「昭和60年~昭和62年のときですね。私は渉外担当の理事でした。当時、読売新聞社が大型棋戦を作りたいという話が出ていて、いろいろな折衝の末に誕生したのが竜王戦なんです。苦労したのは、歴代名人の承諾を取ること。会長の大山先生(故・大山康晴十五世名人)は反対されていて、『まず、ときの名人の中原さん(十六世名人)、升田さん(故人・幸三実力制第四代名人)の許可をとってから話を持ってきてください』と言われたんです。中原さんは私に任せるとおっしゃってくださいました。ただ、升田先生は名人より上なんて考えられないと反対されましてね」

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昼休明けの森九段。撮影:常盤秀樹

――それは大変ですね。それからどうなったのですか。

「升田先生は囲碁がお好きで、ある日、碁を教えてもらう名目で訪ねたんです。最初は、こちらが六子置いて打ったんだけど、それをたまたま勝っちゃったんだよね。勝っちゃいけないのに。そうしたら『碁の才能もないのになんの話をしに来たんだ。帰れ』と言われて何も話ができなかった」

――やぶ蛇になってしまったのですね。

「後日、『今度は五子で教えてください』とまた伺ったんです。勝っちゃったらまずいなと思いながらも、私も負けず嫌いだから際どくなって。最後は持碁になった。珍しいですよ。升田先生は機嫌がよくてね、もう一局やって、私が2目くらい負けた。そして『おまえはなかなか碁の才能もあるな。それで今日は何の話で来たんだ』と。そこで話を切り出したわけです。升田先生は、『一所懸命やってるから君を応援する、でも今はダメだ』と言われて結局、承諾は取れなかった」

――手詰まりになってしまったのですね。

「最終的には、賞金額の1位は謳っていいけれど、序列は同格ということで話はまとまった。それが苦肉の策だったんですね。昭和62年のときでした。翌年からは私も将棋に集中して王位戦の挑戦者になりました。本当は竜王も取りたかったんだけどね(笑)。大変でしたが、新棋戦が誕生して将棋界が活性化したのはよかったと思いますね」

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対局は146手で森九段が投了。現役引退となった。写真は終局後の模様。撮影:玉響

――今後のご活動について伺いたいのですが、引退後はご出身である高知県を拠点として、こどもたちに将棋を教えるそうですね。

「そうですね。これは私だけじゃなくて、将棋界全体で考えなきゃいけないと思っているんだけど、まずは、こどものファンを増やすこと。高知だけじゃなくて、日本全国にこどもの教室を作りたい。プロ棋士だけでは手が回らないから、将棋の指導員を増やしていって。いま高知県は200人くらいしか支部会員がいないけど、とりあえず1000人に増やしたいなと。できるか分からないけどね。プロを目指すこどもたちだけでなくて、将棋をやると学校の勉強もよくできるようになるんですよ。だから将棋を学業に生かしてほしい。もちろんプロを目指す人たちも増やしたい。研修会も作りたいし、いろいろな目標があります」

――弟子を取られる予定はありますか。

「もちろんあります。弟子はいま5人いますが、その弟子たちが将棋を伝えていってくれればうれしいし、自分1人ではそんなに教えられないですから」

――最後に将棋ファンの方に向けてメッセージをお願いいたします。

「トーナメントプロは引退しましたけど、将棋指しとしてはまだ引退しているわけではないし、こどもたちに将棋を教えたり、ファンを増やすということに対しては、ますます情熱を持っています。高知が活動の中心にはなりますけど、日本全国で将棋が好きなこどもたちを増やすために、アドバイスをしていきたいですね」

インタビューを終えて、森九段の将棋に対する姿勢は、今なお冷めない情熱を感じることができました。

森けい二九段インタビュー

玉響

ライター玉響

平成元年生まれ。2004年から2016年1月まで奨励会に在籍。同年5月からフリーライターとして活動開始。以来、日本将棋連盟のネット中継業務を担当している。ほかに将棋番組制作、将棋教室の仕事にも携わる。将棋漬けの日々を送っているが、実戦不足なのが悩み。

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