将棋コラム

羽生三冠の語る「将棋は他力」 その意味とは?【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

羽生三冠の語る「将棋は他力」 その意味とは?【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

更新: 2017年08月05日

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子供たちは将棋から何を学ぶのか

羽生三冠は、終盤戦の逆転劇のあまりの鮮やかさから「羽生マジック」という言葉で称されることがあります。控え室で観戦している大勢のプロ棋士が「ここは絶対こう行くぞ」と検討している中、「えっ、こんな手があったのか」と驚く様な手を羽生三冠は平然と指すのです。しかし、そんな羽生三冠が「将棋は他力」と語っています。

その言葉にはどんな意味が込められているのでしょうか。

奇抜な一手よりも、一連の指し手のつながり

カードマジックでも、種明かしをされたら拍子抜けするぐらい単純だったりするものです。観客を仰天させるためには、テクニック以上に観客の注意をいかにうまく反らせるかが大切だと言われます。それと似ていて、羽生三冠の将棋も、たった一手の「誰にも真似できない奇抜な一手」というよりも、それまでの手が見事に連携していることから生じるマジック効果の様な所があるのです。

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(第84期棋聖戦 第4局より)

羽生三冠の将棋は、こういうアイデアもあるよ、じゃあ今度はこうしてみたよという具合に、本当にひとつひとつが繋がっています。一手の驚かすような手で勝つというような類いのものではないのです。指した瞬間には何気ない手のように見えていても、指し手が進んでいよいよとなった局面になったときに、駒が輝いているのです。

「あの局面で羽生三冠の銀が上がったのは、こういう意味だったのか」とか、「あのときここに歩を突いていたから最後になって逃げられた。ここで勝っていたのか」などと気づくような、小さなマジックの種がそこかしこに仕掛けられているのです。それがあとで効いてくるわけです。

羽生三冠だけでなくプロ棋士の将棋を見ると、派手な手は意外に多くありません。むしろ地味な手の積み重ねという印象を受けます。お互いが読み筋をつぶし合いながら、一つひとつ積み木を積み上げていくようにも感じます。

一方が「次はこう行きたいな」と指そうとすると、もう一方が「そうはさせないぞ」と相手の狙いをつぶしにいったり、「どうぞ。でも、こちらはもっと良い手を指しますよ」と主張をぶつけあったりします。「私の方はいい形にしましたよ」「そう来ましたか。では私もこの形にしておきましょう」と、こんな具合に、お互いが自分と相手の陣形のバランスをはかりながら指しあっていきます。両者の陣形がちょうど天秤に乗っているように、注意深く一手一手を重ねていくのです。

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相手に動いてもらう、「他力」に感じる覚悟と自信

羽生三冠は「将棋は他力」と語っています。将棋は自分一人でやるものではなくて、相手がいてくれるから対局が成立します。自分が指した瞬間に相手に手番が渡って、そうなると自分は何もできません。だから、いかに相手に指し手もらうかが大事だと言うことを意味していると、私は考えています。

自分自身の指し手だけでなく相手の指し手も含めて、将棋は二人で手を携えてプロセスを作って行くものです。だから羽生三冠は相手の手に合わせて柔軟に自分の手を修正していくのです。しかも柔道の達人のように、相手の力を効果的に使って。

人間誰でも、自分の思い通りに生きたいと言うのが本音でしょう。相手には自分が期待したように喋って欲しいし、思いどおりに動いて欲しいと内心では思っています。けれども、そうはいかないのが現実です。

そこで、「将棋の場合はどうするのですか?」と羽生三冠にお聞きしてみたら、「動いてもらうのが一番楽なんです」という答えが返ってきました。まさに「他力」です。しかし、それは「他力本願」とは異なります。

自分の意地を通すのではなく、相手に合わせて動いてみせるという覚悟の言葉です。

そうきっぱりと言い切れる裏には、それだけの覚悟と自信を生み出すための努力が重たく横たわっているはずです。羽生三冠が研究用に使っていた銀将...その裏がすり減った駒が、歴然としたその証です。

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(第58期王位戦 第1局より)

覚悟と自信を支える、普段の努力の積み重ね

読みの無駄を恐れずにとことん読むことだったり、日頃の勉強であったり、生き方であったり、そうした努力の積み重ねがなければ、とても口にすることはできない言葉です。対局の前までに何をやってきたか、どう生きてきたか、そこが問題なのです。

将棋に限らず、人生にも全く同じことが言えると思います。さて、私たちは日々、そんな覚悟で生きているでしょうか。

子供たちは将棋から何を学ぶのか

安次嶺隆幸

ライター安次嶺隆幸

私立暁星小学校教諭。公益社団法人日本将棋連盟学校教育アドバイザー。 2015年からJT将棋日本シリーズでの特別講演を全国で行う。中学1年生のとき、第1回中学生名人戦出場。その後、剣持松二九段の門下生として弟子入り。高校、大学と奨励会を3度受験。アマ五段位。 主な著書に「子どもが激変する 将棋メソッド」(明治図書)「将棋をやってる子供はなぜ「伸びしろ」が大きいのか? 」(講談社)「将棋に学ぶ」(東洋館出版)など。

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