四段昇段のかかった対局で落ち着いて指せた、その理由は?【船江六段インタビュー vol.3】

四段昇段のかかった対局で落ち着いて指せた、その理由は?【船江六段インタビュー vol.3】

ライター: 池田将之  更新: 2017年08月01日

プロ棋士を目指す三段リーグの厳しさやプレッシャーは、体験したものでないと分らないと言われています。しかし、昇段のかかった対局で船江恒平六段は、落ち着いて指せるだけの自信があったようです。その自信となった根拠とは一体どういったものだったかを語っていただきました。

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第23期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局(2010年8月30日)で記録係を務める船江三段(当時)。撮影:若葉(「竜王戦中継plus」より)

――奨励会時代の最後の1年は、どのような変化が自身の中であったのでしょうか?

「変な言い方ですが、真面目でした(苦笑)。仲間内で麻雀に行くこともありましたけど、参加せずに『詰将棋パラダイス』を解いていました。お酒も全く飲みませんでしたね」

――将棋の勉強面ではどのようなことを変えられましたか?

「記録係をすごくやりましたね。特に、久保(利明王将)先生の対局ばかりを取っていました。当時は二冠(棋王・王将)を保持されていて、竜王戦でも挑戦者決定戦まで勝ち進まれていました」

――久保王将の対局を通して、どのようなことを学ばれましたか?

「自分に思いつかない手が将棋にはたくさんあることを痛感しました。盤側に座り、対局者と一緒に読むことで、棋譜並べだけでは実際に分かっていないことが多かったんだなと思いました。ちょうど竜王戦の挑決の記録をしたときに久保先生から『頑張って』と言ってもらえたのはうれしかったです。」

――最後の三段リーグは最終日を他力で迎えられました。1局目に勝ち、上位者が敗れたことで、自力で午後からの最終戦を迎えました。

「朝から『昇段できる』という謎の自信がありました。1局目が終わって自力になったのは知っていました。竹内(貴浩、指指導棋士四段)君と長岡(裕也五段)さん、稲葉(陽八段)君と昼ご飯を食べていてそういう話になりました。そのとき稲葉君に『俺は絶対に上がるから、待っててくれ』と言ったそうです。でも彼は2日前に東京で対局だったそうでして『言われなくても既に大分待ってるわ』という心境だったと思います(笑)」

――宣言通り、勝って昇段を決めました。

「途中までやや苦しかったのですが、割と冷静に指せたというか、やはり謎の自信を持っていました。最後の期は持ち時間を終盤に残すように心がけていて、最終日も2局とも時間に余裕を持って指すことができました」

――謎の自信の根拠とは?

「これだけ勉強したんだ、という思いはありました。その少し前に村田(顕弘五段)君の四段昇段の記が『将棋世界』に掲載されていたのですが『三段リーグで自分が一番勉強していると思ったので、それだけ自信があった』みたいな言葉があったのをよく覚えています。最後は自分もそれくらいの自信がありました。なので昇段の一戦も冷静に、淡々と指せたんだと思います」

――昇段を実感されたのはいつでしたか?

「最終戦の相手だった菊地(裕太・元奨励会三段)さんから『おめでとう』と言ってもらえたのもうれしかったのですが、師匠に電話したときが一番ですね。ちょうど加古川将棋センターの営業日だったんです。お互い言葉にならない感じで...。将棋をやっていて一番うれしかった日ですね。

師匠にはかなり心配してもらって、将棋もすごくたくさん教えてもらいました。最終日の少し前に師匠とVSで横歩取りの将棋になったのですが、ちょうど1局目でその形が出たという幸運もありました。菅井(竜也七段)君には最終日の前日に大阪に来てもらって教えてもらいました。祖父もすごく喜んでくれましたね。昇段を決めた日の夜は待っていてくれた稲葉君たちと祝杯を挙げました」

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四段に昇段を決め、インタビューに答える船江三段(当時)

やはり、四段昇段を決めたあとの祝杯は格別だったようです。また、船江六段を囲む仲間の友情も昇段に大きく作用したのかもしれません。

さて、次回はいよいよ最終回です。

取材協力船江恒平六段

1998年に6級で井上九段に入門。2010年に四段。2016年に六段。2011年の第1期加古川青流戦、2016年の第1回上州YAMADAチャレンジ杯で優勝。

船江恒平六段インタビュー

池田将之

ライター池田将之

2010年からフリーライターとして活動開始。2015年まで将棋連盟モバイル中継記者。現在は新聞社に観戦記、将棋世界で「関西本部棋士室24時」などの記事を執筆している。

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