将棋の世界と事業の世界に共通する、勝負する中で大切なこととは?

将棋の世界と事業の世界に共通する、勝負する中で大切なこととは?

ライター: AbemaTV将棋チャンネル編集局  更新: 2017年08月08日

14歳の天才プロ棋士・藤井聡太四段について

藤田:AbemaTVでも大変注目されている藤井聡太四段。彼についてはどのような印象をお持ちですか?

羽生:彼は中学生でプロ棋士になりまして、史上最年少記録を更新しました。将棋のプロになる制度って、実は少しずつルールが変わっていまして、厳しくなったり易しくなったりと、時期によって差があります。それで現在はどうかというと、おそらくここ40年50年の中で一番プロになるのが難しい制度です。そういう状況の中で最年少記録を更新したということは、もう非常に驚異的だと思います。

藤田:サッカーの世界でも「最年少15歳でJ1デビュー」というニュースがあります。そういう選手って将来的にも大物になるような印象がありますが、将棋の世界もそういうものなんでしょうか。

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羽生:中学生で棋士になった人は、大体活躍していると思います。将棋の世界では早く始めたほうが有利というか、将来的にもいろいろと良い面がありまして。ただ、14歳で棋士になろうとしたら、少なくとも6歳か7歳ぐらいでルールを覚えないと、プロのレベルになるまでの時間が足りません。それに、四段からプロになるわけですが、三段から四段に上がるところが非常に大変で、三段が40人ほどいる中で、プロになれるのは半年で2人だけなんです。

藤田:40人の中から2人だけ、ですか。

羽生:ええ。その40人はほとんど実力も同じです。藤井さんの場合は、その1回のチャンスをバシッと決めたという意味でも、本当にすごいと思います。

藤田:羽生さんは、藤井さんがプロになる前からご存じだったんですか?

羽生:それこそ彼が9歳、10歳の頃から知っていました。将棋の世界には、プロアマ問わずに参加ができる「詰将棋解答選手権」というのが1年に1度あります。彼は10歳くらいのときに出場していまして、もう驚異的なスピードで問題を解いていたそうです。その大会は、問題が解けた人から部屋を出ていくのですが、同じ部屋で参加していたプロ棋士がまだ1問も解いていない中、彼はすべての問題を解いてさっさと部屋を出ていった、というエピソードを聞いたことがあります。

藤田:学校のテストを全問解いて、あとは机の上で寝ちゃうみたいな。

羽生:ええ(笑)。しかも、アマチュアだけじゃなくて、プロも普通に参加している中ですからね。それはある意味、特別な能力といいますか、才能みたいなものがないと、それほどの短時間では解けないと思います。それが実戦の将棋にもきちんと反映されて四段なので、本当に驚異的だと思います。

藤田:これから藤井聡太四段と戦う機会も増えていくと思いますが、作戦みたいなものってあるんですか?

羽生:本当のことを言うと、まだ彼の棋風というのがほとんど出ていないので、あんまりよく分からないのが現状なんです。ただ、最近の若い人たちに共通することで、10代でもかなり完成されている感じはあります。「粗削りだけど強い」という感じではなく、バランスよく強いような気はしています。(※本対談は、AbemaTV主催で行われた羽生三冠と藤井四段の初対戦前に収録)

藤田:若さゆえの勢いではないと。

羽生:ではないと思います。練習している時間や、年齢は若いですが、かなり長い時間将棋をやっていますし、最新の形にも精通していると思います。

真剣勝負だからこそ、大人気なく倒しに行きたい

藤田:羽生さんはどちらのタイプが戦いやすいですか。14歳にして完成されている人と、勢いのある粗削りな人と。

羽生:うーん、どうでしょうか。ただ、逆の立場になって初めて分かったことですが、年齢差がすごくあるというのは、やっぱりやりにくいところはありますね。というのも、棋士もやはり人間なので、自分の子供や孫の世代と真剣勝負をするときに、そこでシャカリキになって負かしにいくのが、少し大人気ないんじゃないかと、そういうことが少し頭をよぎってしまうというか。でも、それでは駄目なわけで。やっぱり同じ条件で戦っているわけだから。

藤田:ああ、それはすごくよく分かります。本当にそうだと思います。ベテランで駄目になる人って、大体は「ベテランぶった人」だったりしますから。

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羽生:将棋でも事業の世界でも、そこは同じですよね。要するに、同じ土俵で同じ条件で戦っているわけだから。

藤田:まったく同感です。大人気なく倒しにいかなきゃいけない。

羽生:それは棋士として、結構大事な要素かもしれません。だから自分が10代で大先輩の人と対戦した時も、相手はすごくやりづらかっただろうなと。そういうのは最近になって感じることがあります。

藤田:ベテランの人がベテランらしく振る舞うほど、周りは若い人を応援したくなるんですよね。そういう空気をつくらないという意味でも、大人気なくがむしゃらに勝ちにいきたいですね。

羽生:将棋の世界では、本当に画期的な作戦やアイデアって、10代後半や20代前半ぐらいの人たちから出ることが多いんです。だから、私自身もそういう若い人と対戦するのはすごく楽しみでして。実際に棋譜を調べるときも、まだ段位は低いけど、すごく内容のいいものを指している人はいて、そういうのはよく見たりしています。

藤田:事業の世界も似たところがあって、僕も若い人が言うことには、できるだけ耳を傾けるようにしています。もちろん、それが単に思いつきの発言か、確信があっての発言かを見極める必要はあります。でも、そういうのをバカにしたりすると、人としても、企業としても伸びなくなる気がする。ただ、どうしようもないものが多いことも事実ですが。

羽生:でも、ときどき、そういった玉石混交の中に......。

藤田:ええ、ありますよね。そういうアイデアを我々が事業化するときは、もうかなり大人気なくやります。僕らの頃ってインターネット黎明期だったので、堀江貴文さんや三木谷浩史さんのような若い経営者がいっぱい出てきた時代でした。でも、最近はそういう人たちがなかなか出てこない。それは、うちみたいな会社が大人気なくやるからと言われるんですが、僕はそれをやらないといけないし、それを乗り越えられないようでは、起業家としても大成しない気がします。

羽生:藤田さんは起業家に必要な要素って、何だと思われますか? 例えば、未来を見通す先見性だとか。

藤田:僕の考えでは、先見性というのはそこまで重要じゃない気がします。例えば、スマートフォンというものがたまたま普及したからこそ、AbemaTVのようなテレビとネットの融合が進んだわけで。でも、過去に誰かがこういうデバイスを作らなければ、いまのような世界にはなっていません。先見性のある人が「ほら、テレビとネットが融合したでしょ?」と言っても、ならなかった未来もかなりの確率であり得るわけです。「未来はこうなる」っていう人ほど、ちょっと怪しいタイプが多い気がする(笑)。それよりも、言い訳をせずに必ず形にしていくタイプの方が、いつの時代でも本当に必要とされると思います。

羽生:とにかくやり続けて、実直に前に向かうというか。

藤田:そうですね。先見性というより、やっぱり忍耐力みたいな、やり切るための覚悟みたいなもののほうが、すごく大事だと思います。

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羽生三冠×藤田社長 特別対談 ~勝負の世界で生きる40代~

AbemaTV将棋チャンネル編集局

ライターAbemaTV将棋チャンネル編集局

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