将棋教室に保護者から届いた手紙。将棋を始めた子供にあらわれた変化とは?【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

将棋教室に保護者から届いた手紙。将棋を始めた子供にあらわれた変化とは?【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

ライター: 安次嶺隆幸  更新: 2017年07月07日

将棋は自分の手番で指し手を真剣に考えますが、相手の手番では相手が真剣に考えますから、「待つ」という時間が長いゲームでもあります。この、「待つ行為」が子供たちの集中力や忍耐力を養っていくのです。

将棋を始めて変化する子供たち

私は大学時代に自宅で子供達に将棋を教えていました。その時の子供との関わりだけでなく、その保護者の方の想い、考えからたくさんのことを当時教えられたように思います。将棋のプロを目指していた高校時代、そして大学一年での挫折、そしてその後教師の道を歩み出した動機も、この自宅将棋教室の子供達との出会い、成長、そしてその保護者の方の励ましによるものだと思います。

あるとき、自宅将棋教室の生徒の保護者の方から、「子供が将棋と接するようになってから、集中力、思考力が身に付き、学校での成績も向上した」という、感謝の手紙をいただきました。その子は確かに、教室に通いはじめた頃は落ち着きがなく、自信もないようでした。しかし、将棋を始めて、将棋にのめりこんでいくにつれて、次第に考える癖を身につけて、落ち着いて行動することができるようになってきました。あの当時のその子の顔が今でも思い出されます。

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相手の指し手を「待つ」行為と集中力

ではなぜ、その子はそのように落ち着き、集中力が身についたのでしょうか。将棋との関わりは、単なる偶然であったのでしょうか。

将棋は、「相手と一手一手交互に」指しながら対局が進行していきます。つまり、自分が着手した後は、相手の指し手を「待つ」ことになります。この相手の手番を「待つ」という行為こそ、現代の子供にとって、とても大切なことなのです。自分の手番のときはもとより、相手の手番のとき、相手が考えている時間にいかに自分が振る舞うかによって、将棋の勝敗が変わってくるのです。

今の遊びのほとんどは速さを競うものが多いですが、将棋では速さは重要な要素ではありません。むしろ、じっくりと考えて、最善と思われる手を選ぶことが勝ちにつながります。しっかり考えて一手を指し、相手の指し手を「待ち」、また最善の手を考えることを繰り返すのです。

現代の子供にとって、この「待つ行為」こそ、集中力の土台になるのではないかと思います。 子供同士の将棋を見ていると、自分の指し手をすぐに決めて、早指しでパパパッと指していく子を多く見かけます。自分の指し手や直感を信じて指すことも、実はとても大切で、上達においてもマイナスではありません。

しかし、少しすると「直感だけ」では勝てなくなり、次に「考えること」をするようになります。そして、自分の手番だけでなく、相手が考えている時間もただ待つだけでなく、「この手が来たらこう指そう」とか、「この場合はどうしようかな・・・」と、集中して考えるようになります。

このように、考える習慣が自然に身に付くこと、それを実体験できるのが将棋なのです。一局だけでなく、それを何局も繰り返し、毎日のように将棋に向き合うのですから、集中力を養うのにこれほど効果的なことはないように思います。

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教わる立場と教える立場から

子供達に将棋を教えるようになってから、もう35年以上になります。 今まで教わる側であり、学ぶ立場であった自分が、子供達相手に自宅で将棋を教えるようになり、また今では教師の立場で子供と向き合っています。将棋を通じて、伝えたいことはたくさんあります。

試行錯誤しながら、ふと足を止めて考えてみると、将棋には何か現在の教育に関する忘れられていたものが隠れているような気がするのです。 将棋での体験である「待つ」という行為を通じて身に付けた集中力や忍耐力を、勉強や実生活の中で発揮していけるようになってほしいと願っています。

子供たちは将棋から何を学ぶのか

安次嶺隆幸

ライター安次嶺隆幸

東京福祉大学教育学部教育学科専任講師(元私立暁星小学校教諭)。公益社団法人日本将棋連盟学校教育アドバイザー。 2015年からJT将棋日本シリーズでの特別講演を全国で行う。中学1年生のとき、第1回中学生名人戦出場。その後、剣持松二九段の門下生として弟子入り。高校、大学と奨励会を3度受験。アマ五段位。 主な著書に「子どもが激変する 将棋メソッド」(明治図書)「将棋をやってる子供はなぜ「伸びしろ」が大きいのか? 」(講談社)「将棋に学ぶ」(東洋館出版)など。

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