将棋コラム

中学生棋士・藤井聡太四段。デビューから負けなし29連勝の大記録はどのように達成されたか(後編)

中学生棋士・藤井聡太四段。デビューから負けなし29連勝の大記録はどのように達成されたか(後編)

更新: 2017年07月24日

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次々と記録を塗り替える14歳

6月に入ってからの藤井四段の対局日程は多忙を極めた。2日に澤田真吾六段に勝ち20連勝を達成したあと、7日に上州YAMADAチャレンジ杯3局、10日に叡王戦段位別予選四段戦2局、15日に順位戦、17日に朝日杯将棋オープン戦一次予選と続く。棋士は週に一度対局があれば多い方だ。29年度に入ってから、藤井は連勝ランキングのみならず対局数ランキングにおいても断トツの1位である。

そのすべてに勝ち、いともあっさりと歴代記録を塗り替えていった藤井は、6月21日、ついに歴代1位タイの記録となる28連勝を懸けて再び澤田と相まみえることとなる。

歴代単独1位、驚異の29連勝

第67期王将戦一次予選。澤田が同じ相手に2連敗するのは考えにくい。藤井を止めるのは澤田ではないか...。リーグ入りを論ずるのもまだ先のこの一戦に、皆の注目が集まった。

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第30期竜王戦決勝トーナメント終局後、増田康宏四段を下し29連勝を達成の新記録を達成した藤井聡太四段。用意された「29」のボードを手にして撮影に応じる藤井四段。撮影:常盤秀樹

将棋は再び角換わり腰掛銀の最新形に。後手番ながら積極的に仕掛けた澤田に対し、藤井は自陣角を打って対抗する。

【第3図は ▲6三歩まで】

図は△7六歩の取り込みに藤井が▲6三歩と叩いたところだ。この手が好手だった。▲6三歩以下△7二金▲7三歩△7一金に▲6五銀右△同銀▲同銀と桂を取り、藤井がペースをつかむ。後手は△8六歩と攻めたいが、▲7二銀△8四飛▲9六桂△8五飛▲7六銀と飛車を押さえ込まれてうまくいかない。

藤井28連勝の報は翌日各紙のトップ記事となり、完敗に終わった澤田はその中で藤井の指し回しを「スキがない」と称えた。

熱気は次の増田康宏四段との竜王戦に引き継がれた。第30期竜王戦決勝トーナメントはプロ棋界にただ二人の10代棋士による一戦で開幕した。

藤井の速攻をうまくいなし、増田が優勢に進めていたはずの終盤戦。まるで子供が遊びで打ったかのような図の▲1五角を境に盤上の景色が一変する。

【第4図は ▲1五角まで】

▲1五角以下△5九金▲同銀△3二銀に▲5三桂打△4三金上▲2一歩成。この▲2一歩成が厳しい。△2一同銀は▲3三角成△同金▲4一金△5二玉▲4二金打まで即詰み。なんと藤井は角桂のみで後手玉を寄せてしまった。終盤戦に入ってからの強さは際立っている。

苦しい将棋を逆転で勝利した藤井は公式戦29連勝。6月26日、歴代単独1位の新記録を樹立した。

若手天才棋士・佐々木勇気

さて、ここで対戦が決まる前から藤井の将棋を見るために東京・将棋会館を訪れていた一人の若者がいる。藤井の次の対局相手、佐々木勇気五段(現六段)である。

佐々木もまた奨励会時代からその名を耳にしていた実力者。有名になったのは1級から二段にかけて18連勝したときだ。たまたま佐々木の連勝を止めた相手と話す機会のあった私は、佐々木が「悔しがって泣いていた」と聞き、それほど強いのにまだ負けて泣くほどの若さだということに何とも言えぬまぶしさを覚えた。佐々木は当時の最年少記録である13歳8カ月で三段に昇段。その後13歳2カ月で三段リーグ入りし、この記録を塗り替えたのはほかならぬ藤井だ。

7月2日、竜王戦決勝トーナメント。4組優勝の佐々木と6組優勝の藤井の一戦は相掛かりの出だしから前例のない空中戦へと進む。

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第30期竜王戦決勝トーナメント(佐々木勇気五段(現六段) 対 藤井聡太四段戦)終局後の模様。撮影:常盤秀樹

用意した作戦が的中し、佐々木が優位に立った中盤戦。じっと手を渡す図の△9七歩が話題を呼んだ一着。

【第5図は △9七歩まで】

▲9三歩成△同香▲9四歩△同香▲9五歩△同香▲同飛は△8八飛成▲同銀△8六角が王手飛車。▲9三歩成△同香▲9七香も△同香成▲同桂△9六歩で、△7六桂の王手角取りを狙われる。佐々木は81分の大長考の末、▲5八玉と寄る。この手渡しに対する手渡しが好手。藤井はどうしても差を詰めることができない。

第6図で本局はハイライトを迎える。佐々木の▲8三歩成に藤井は△5四香と先手の玉頭目がけて香車を打ちつける。

【第6図は ▲5四香まで】

▲7二とは△5七香成▲同玉△7九馬▲同金△6五桂▲6六玉に△9二飛成が、△9六竜以下の詰めろになる。実戦は、△5四香以下▲6六角△7九馬に▲9八飛成と進み、藤井の攻めをしのいだ佐々木が勝利をもぎ取った。

昨年12月にデビューして以来、勝って勝って勝ちまくった藤井がついに駒を投じた。「完敗だった」と語る藤井の表情はしかし、いつもと変わらなかった。何をか憂えんや。ひとが一生かかっても成し遂げられぬような大記録を達成した天才・藤井の棋士人生は、今始まったばかりなのである。

渡辺弥生女流初段

ライター渡辺弥生女流初段

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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