挑戦し続ける子供は、失敗を怖がらない。客観的視点がチャレンジ精神を育てる。【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

挑戦し続ける子供は、失敗を怖がらない。客観的視点がチャレンジ精神を育てる。【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

ライター: 安次嶺隆幸  更新: 2017年05月30日

客観的に物事を見ることの大切さはよく耳にしますが、あなたは自分自身を客観的に見る機会はどのぐらい持てているでしょうか?自分自身のビデオや録音を見たり聞いたりすると、思っていたはずの自分とのギャップを目の当たりにして、恥ずかしさを感じることでしょう。

しかし、客観的に、冷静に自分を見つめることが、自分をより高みへと導く道でもあるのです。

客観的に自分自身を見つめ直せる「感想戦」

将棋では勝負の後の「感想戦」という、対局者・観戦者とともに指したばかりの一局を振り返る機会があります。そこで自分でも自分の弱さや失敗をさらけ出して「この手はどうでしたか?」と客観的な意見を聞ける絶好の機会でもあります。

「ここでこう指せば勝てたじゃないですか」とか、「この手が疑問手だった」とか言われたりします。そのたびに、「なるほど。ここでこんなにこだわったのがいけなかったのだ」とか「この時の心理状態がその後の展開に影響した」などと客観的に自分自身を見つめ直すことができるのです。プロ棋士に至っては、対局の指し手のすべてが記録された「棋譜」が残ります。指し手だけでなく、一手にかけた時間も記録されますから、対局中の心理状態が永遠と残ってしまうのです。

プロ棋士の方々は、そういった実体験の積み重ねを通して客観的に双方の手を見る第三者の目を獲得してるのでしょう。自分の側から眺めつつ同時にもう一つの眼でも盤面を見ているのです。自分としては「こう指そう」と思ったとしても、「いやいや、ちょっと待て。それはおかしいぞ。」と第三者の眼で見ているもうひとりの自分がいる。「その手を指すのは早すぎる。ここは一手待った方がいい。」と違う見方をする自分もいる。プロ棋士が格段に強いのも、なんだかうなずける気がします。

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(第57期王位戦 第1局より )

客観的に自分を見るのは、とても恥ずかしい・・・

しかし我々の日常生活の中では、自分を客観的に見る機会はほとんどないように思います。私の場合は教師として、子どもたちを前にしてどのように指導するかは日々研究しています。参観日などで保護者の方たちのチェックを受ける機会もあります。が、それでも、自分で客観的に自分の姿を眺める機会はそうあるものではありません。

そんな中、数年前に将棋の講演会に呼んでいただき、その様子をビデオに撮ってもらったのですが、それを見た時の恥ずかしさといったら・・・。職業柄、人前で話をするのはある程度慣れているはずなのですが、ダメ出しの連続でした。

しかし、客観的な眼で、自分を巻き戻して観察することで、反省点がいくつも発見できました。「ああ、自分はこんな話し方をしていたのか。」 「この話もこれでは意図が通じない。」 もしまた講演に呼んでいただけることがあったら、「今度はこの話を導入で使おう。」とか、「こういう風に展開したほうがわかりやすいな。」などと考えることができました。

客観的に自分を見るのは、とても恥ずかしいことです。しかし、敢えて自分を客観的に見ることで、反省点や改善案など、より成長した次の自分の姿が見えてくるのです。

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失敗を怖がらず、挑戦できる意欲を

客観的に自分を見つめるということは、自分の弱さをしっかりと見つめ、自分の弱さを認めるということです。現代は弱さを見せてはいけないという風潮になっていて、大人になればなるほど、自分の失敗や弱さを認めにくくなってしまいます。

しかし、失敗を恐れてはいけない、弱さは隠してはいけない。そのことを私は将棋から教えられました。

子どもたちにも、失敗を怖がらずに自分も挑戦してみようという意欲を強く持ってほしいと願っています。そして、子どもが思い切り挑戦できるように、温かく優しい目で見守ってあげていくのが、大人たちに求められていることなのではないでしょうか。

子供たちは将棋から何を学ぶのか

安次嶺隆幸

ライター安次嶺隆幸

東京福祉大学教育学部教育学科専任講師(元私立暁星小学校教諭)。公益社団法人日本将棋連盟学校教育アドバイザー。 2015年からJT将棋日本シリーズでの特別講演を全国で行う。中学1年生のとき、第1回中学生名人戦出場。その後、剣持松二九段の門下生として弟子入り。高校、大学と奨励会を3度受験。アマ五段位。 主な著書に「子どもが激変する 将棋メソッド」(明治図書)「将棋をやってる子供はなぜ「伸びしろ」が大きいのか? 」(講談社)「将棋に学ぶ」(東洋館出版)など。

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