佐藤康光九段、最年少で紫綬褒章を受章「羽生さんに勝つために独創的な棋風に」

佐藤康光九段、最年少で紫綬褒章を受章「羽生さんに勝つために独創的な棋風に」

ライター: 山口恭徳  更新: 2017年05月02日

将棋界で最初の褒章受賞者は木村義雄十四世名人(55)で、昭和35年(1960年)の「秋の褒章」で紫綬褒章を受章しました。同時に受章した喜劇俳優が"エノケン"こと榎本健一氏(55でした。天皇陛下から受賞者は皇居に招待されますが、木村は紋付き袴で出席しました。その時のことを木村はこう振り返っています。

「紋付きで行ったのは僕一人で、だから目立っちゃってね。そこへエノケンが来て、『木村さん、紋付きか。僕も紋付きを着りゃあ良かったなあ』と悔やんでいた」

米長邦雄永世棋聖(60)が紫綬褒章を受章した平成15年(2003年)の「秋の褒章」から、これまでの「50歳以上」という年齢制限は撤廃されました。そのため、抜群の成績を挙げていた柔道の田村亮子選手(28)、水泳の北島康介選手(21)も同時に受章したのです。皇居では、米長、田村、北島と横一列に並んで記念撮影をしました。

今回紫綬褒章を受章する佐藤康光九段(47)は、将棋界の褒章受章者としてはただ一人の四十代で、最年少になります。佐藤九段の共同記者会見の模様を紹介します。初めに佐藤九段は、次のようにあいさつをしてから質疑応答が始まりました。

「将棋界で偉大な先輩に比べると、私の受章は非常に驚きでしたが、とても光栄に思っています」

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受章の記者会見で各社の質問に答える佐藤康光九段。撮影:常盤秀樹

 ――初タイトルを獲得した時の気持ちはいかがでしたか。

1993年の第6期竜王戦で、まだ24歳でした。最終第6局では羽生さん(善治・当時竜王)に新戦術が実って、とてもうれしかったことを覚えています。 勝ちが見えた時は、中原誠十六世名人のエピソードを思い出して、同じように何度も手洗いに立ちました。

 ――ライバルの羽生善治三冠への思いを話してください。

羽生さんは自分を押し上げていただいた存在です。一番対局数の多い相手で、一年間で23局も対戦したことがあります。158局戦い、105敗しています。いいと思っている局面から気がつくと負けになっています。そういうところを難しいですが、見習いたいです。最も印象に残っている一番は、2005年の第76期棋聖戦第5局で、自分なりに新しい感覚で指して、羽生さんを相手に防衛できたので印象に残っています。

 ――今回の受章は励みになりますか。

実は通算で1000勝まで、あと1勝なので、それを達成してからこの会見に臨みたいという気持ちを持っていました。ただ、少しでもそういうことが出てしまうと勝てないものだ、と思いました。2連敗してしまったのです。やはり無心で戦っていけばいいのかなと。

 ――会長職と棋士との"二足のわらじ"は大変だと思いますが。

私は役員自体も初めてで、両立の難しさを感じます。将棋の研究はほとんどできていません。いままでは少し"貯金"があったので、気持ちを前面に打ち出して連勝することもできましたが、それは長続きしません。プレーヤーとしては、まだまだできると思っていますので、少しでも研究する時間をとれるようにしたいです。

 ――若い頃の"緻密流"から現在の独創的な棋風に変わった時期はいつ頃でしょうか。

20代の後半だと思います。羽生さんとタイトル戦を戦っていくなかで、全く歯が立たないという時期がありました。このままではトップに立てないと思い、考え方を柔軟にして棋風の転換を図ったのです。当初は羽生さんとの対局で独創的な指し方をしていました。今は全体の8割ぐらいでしょうか。

 ――藤井四段がデビュー以来負けなしで連勝したり、非公式戦(AbemaTV)の七番勝負で羽生三冠に勝ったりして大きな話題になっていますが。

この七番勝負で羽生さんに勝つ直前にも割と強い棋士が藤井四段に負けているんですけど、それが取り上げられなかったのはちょっと不満なんです。その棋士は私なんですけど(笑

 ――いままで将棋界に何か残してきたという自負はありますか。

独創的ということで升田幸三賞を2回受賞しているのですが、私の場合は素朴な疑問から始まっています。こうしたらどうなるんだろうかという、それが原点で、今の私を支えています。独創的な指し方を思いついたことで、少しは貢献できたのかもしれません。

 ――今後の抱負をお願いします。

将棋ファンを増やし、楽しんでいただけるように、将棋連盟の組織作りを一つ一つ整えていきたい。優秀な人材がそろっていますので、ファンに注目されるように前進していきたいです。

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記者会見後、場所を移し、プレス用写真の撮影が行われた。撮影:常盤秀樹

【日本将棋連盟 褒章受章者名簿】 (受章順・肩書は受章当時)

氏 名(受章当時) 生年月日 受章時年齢 受章年月日・種類
1 木村 義雄 十四世名人 明治38年 2月21日生 55歳 昭和35年11月03日 紫綬褒章 *棋界初
2 升田 幸三 九段 大正 7年 3月21日生 55歳 昭和48年11月03日 紫綬褒章
3 塚田 正夫 九段 大正 3年 8月 2日生 61歳 昭和50年11月03日 紫綬褒章
4 大山 康晴 十五世名人 大正12年 3月13日生 56歳 昭和54年04月29日 紫綬褒章
5 丸田 祐三 九段 大正 8年 3月30日生 62歳 昭和56年11月03日 藍綬褒章
6 原田 泰夫 八段 大正12年 3月 1日生 59歳 昭和57年11月03日 藍綬褒章
7 廣津 久雄 九段 大正12年 2月26日生 63歳 昭和61年04月29日 藍綬褒章
8 二上 達也 九段 昭和 7年 1月 2日生 60歳 平成 4年4月29日 紫綬褒章
9 加藤一二三 九段 昭和15年 1月 1日生 60歳 平成12年04月29日 紫綬褒章
10 米長 邦雄 永世棋聖 昭和18年 6月10日生 60歳 平成15年11月03日 紫綬褒章
11 中原  誠 永世十段 昭和22年 9月 2日生 60歳 平成20年04月29日 紫綬褒章
12 谷川 浩司 九段 昭和37年 4月 6日生 52歳 平成26年11月03日 紫綬褒章
13 佐藤 康光 九段 昭和44年10月1日生 47歳 平成29年04月29日 紫綬褒章

山口恭徳

ライター山口恭徳

将棋史研究家。新聞将棋の歴史を大学の卒論にして以来38年間、細々と研究を続けてきました。
花冷の花びらに日の差しにけり 恭徳

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