苦労したのは正座と日本語。「Shogi is my life」と語るカロリーナ女流2級の夢とは?【カロリーナ女流2級紹介後編】

苦労したのは正座と日本語。「Shogi is my life」と語るカロリーナ女流2級の夢とは?【カロリーナ女流2級紹介後編】

ライター: 直江雨続  更新: 2017年03月02日

2017年2月20日、カロリーナ・ステチェンスカ女流3級が女流2級に昇級を決め、歴史上初の外国人女流棋士が誕生しました。 前編では日本の漫画で将棋と出合ったカロリーナが日本での生活をスタートさせるところまでをご紹介しました。

後編では、カロリーナが女流棋士となるまでの道のりを振り返ってみます。

2013年10月、日本での生活が始まる

2013年10月にカロリーナは研修会員として、そして山梨学院大学の聴講生として4度目の来日を果たします。甲府では学生寮に住み、大学生活と、毎月2回の研修会での対局を両立させながら、慣れない日本での暮らしを始めることになりました。

日本での生活で一番の苦労はやはり言葉の壁でした。友達を作りたくてもお話ができない、メニューを読めないので、レストランにも入れなかったとカロリーナは語ります。言葉の壁は将棋の勉強においてもカロリーナを苦しめます。棋書はほとんどが日本語で書かれたものです。海外向けに英語で書かれた棋書は数が少なく、最新の定跡を網羅しているものはありません。

カロリーナは日本語と将棋の勉強に打ち込みます。日本語が上達するにつれて、漢字も覚え、日本語で書かれた棋書も読めるようになり、また日本での友人も増えていきます。それまでの得意戦法は三間飛車でしたが、日本語の棋書を読めるようになったことから、中飛車も勉強し、指せる戦法の幅も広がりました。さらに、来日したカロリーナが苦労したもののひとつが、「正座」です。もともと正座の習慣がないカロリーナは、来日してからというもの正座での対局に慣れるため、詰将棋を正座しながら解くなどして特訓を重ねてきました。

2014年1月6日、カロリーナは「とちぎ将棋まつり」にゲストとして出演。上村亘四段を相手に初めての公開での席上対局に挑みました。

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この席上対局では終局まで正座を通しました

多くの将棋ファンの前での公開対局をやり遂げたことはカロリーナにとって大きな自信になったことでしょう。そんな日本での修業の成果は目に見える形で現れました。2014年7月にハンガリーのブダペストで開催されたヨーロッパ将棋選手権でカロリーナはヨーロッパチャンピオンとワールドオープンチャンピオンの両部門で優勝する快挙を達成します。そして研修会でも2015年の6月28日にC1に昇級し、ついに女流3級の資格を得ることになります。

2015年10月1日、カロリーナ女流3級が誕生。そして

研修会でC1に昇級したカロリーナは、2015年10月1日に女流3級としてデビュー。これで女流棋戦に出場できるようになります。 女流3級となったカロリーナは公式戦のほかにもさまざまなイベントに出演。 2015年11月2日に開催された「将棋対局~女流棋士の知と美~」に出演。

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華やかな袴姿での席上対局。着物で正座して対局するのが初めてというカロリーナは、座るところ、立ち上がるところ、その所作などすべてが初体験。入念なリハーサルを繰り返してイベントに挑みました。

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塚田恵梨花女流2級との席上対局

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イベント終了後にはサイン会

女流棋士を目指すカロリーナにとって、書道もまた避けては通れない試練のひとつでした。塚田女流2級とのコラボ色紙の揮毫は『希望』。カロリーナはこの日のために自分が担当する「望」の字を何度も練習したそうです。学業の方では、2016年3月には山梨学院大学 経営情報学部を卒業し山梨学院大学大学院に進学。 甲府に住みながら将棋界で活躍していることが認められ、カロリーナは2016年3月に甲府大使に任命されます。

・甲府市 甲府大使カロリーナのページ

大学院の授業や課題もある中、対局や普及、さらに女流2級を目指しての将棋の勉強にも打ち込む日々。カロリーナの日本での多忙な生活が続いていきます。 そうして過ごしてきた女流3級1年目、カロリーナは2度あった昇級のチャンスをいずれも逃してしまいます。

1年目の成績は4勝7敗。 女流3級は言わば仮免許のようなもので、その後2年間の期間内で規定の成績を上げれば女流2級に昇級し、晴れて正式な女流棋士となりますが、昇級できなければまた研修会に戻るという制度です。 カロリーナが女流2級になるための残り期間は1年間となりました。そんな時、カロリーナが脚光を浴びるチャンスが巡ってきます。 2016年12月11日、第2期叡王戦決勝三番勝負の第2局において、海外向けに棋譜の解説を行うニコニコ生放送英語版が放送され、解説の堀口弘治七段とともにカロリーナが聞き手として出演。全編英語での生放送で世界に向けて将棋の魅力を紹介するカロリーナの姿は多くの将棋ファンの心をつかみました。

・叡王戦中継ブログ
・ニコニコ生放送「Eiou-sen Second Stage Finals: Amahiko Sato (9th Dan) vs Shouta-Chida (5th Dan)」

興味のある方はぜひ一度タイムシフトでご覧いただければと思います。

初めての試みである英語での将棋解説の生放送を終えたカロリーナは、クリスマス休暇を取り、ポーランドに戻っていました。 久しぶりの故郷でカロリーナは自分の将来について考えたといいます。 『これからどうする?』何度も自問自答。でもやはり答えは一つでした。

日本で女流棋士になる。

そして2017年、日本に戻ったカロリーナは大学の春休みを利用して都内のシェアハウスに滞在し、将棋サロン荻窪で不退転の決意の下、ひたすら練習将棋の日々を送っていました。狙うは女流名人戦の予選リーグ決勝進出による女流2級への昇級です。2017年2月20日、カロリーナは劇的な大逆転で貞升南女流初段に勝利し、予選決勝に進出。それにより女流2級への昇級規定を満たし、同日付で女流2級に昇級を果たしました。ついに歴史上初めて外国から来日した女流棋士が誕生したのです。

カロリーナの描く夢は?

女流棋士となったカロリーナはその日のインタビューの中でいくつか夢を語りました。

「外国の友達に将棋を教えたい、棋書を翻訳したい、世界に将棋を広めたい」

かつて自分が切り開いた道を整備し、自分の背中を追って世界中の子供たちが将棋のプロを目指せる環境を作ることがカロリーナの次なる夢となりました。 世界中に将棋を広めたい。それは日本で将棋の普及活動をしている多くの人たちの共通の夢です。 海外から日本に来てプロの女流棋士になったカロリーナの存在はそんな人たちにとって希望そのものなのです。

女流2級昇級を決めた夜、インタビューで「あなたにとって将棋とは?」と聞かれたカロリーナはこう答えました。

『Shogi is my life』

外国人女流棋士として、カロリーナ女流2級にしかできないこと、カロリーナ女流2級だからできることはきっとたくさんあります。ごく近い未来、きっと世界中で将棋ブームが巻き起こることでしょう。そこでのカロリーナの活躍に大いに期待したいと思います。

カロリーナ女流2級紹介

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

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