学生棋士の山口絵美菜女流が語る、研修会に入るまで。枕元に詰将棋、食卓には将棋盤、そして1日16時間の勉強・・・

学生棋士の山口絵美菜女流が語る、研修会に入るまで。枕元に詰将棋、食卓には将棋盤、そして1日16時間の勉強・・・

ライター: 山口絵美菜  更新: 2017年02月14日

前回は女流棋士のお仕事・聞き手についてご紹介しましたが、今回は私のもう一つの顔である「学生棋士」についてのお話です。

現在、私は京都大学に通う学生です。文学部に在籍し、心理学を専修しています。認知心理学の観点から将棋の「読み」について研究をしており、2017年3月に卒業予定です。さかのぼること2005年。私は小学5年生の時に将棋と"出逢い"ました。覚えてすぐに女流棋士になることを決め、地元・宮崎の道場に毎日通い詰めました。

女流棋士になるには東京か大阪の研修会に月2回通い、規定の成績を上げる必要があり、すぐにでも入会したかったのですが、金銭的負担や体力的な問題を乗り越えられるほどの棋力はなく・・・。女流棋士になるためにどうしたらいいのかを考えた結果、関西圏の大学に進学してから研修会に入会することに決めました。もともと勉強は好きだったので、興味や関心を考慮して決めた志望校が京都大学。中学3年生の頃のことでした。

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小・中学時代は授業をよく聞き、道場への移動中や空き時間に課題を終わらせておけば勉強に支障は出ませんでしたが、高校入学を機に将棋の時間がなかなか取れなくなっていきます。朝7時半から夕方まで授業があり、課題も試験も格段に増えました。課題や試験には与えられた範囲や締め切りがありますが、将棋にはそれがありません。課題や試験勉強を優先せざるを得なくなり、入学してしばらくはゆっくり考えながら棋譜を並べたり、詰将棋をしたりする精神的余裕を失いました。

両立の難しさに悩み、将棋がしたいと盤を抱えて泣いた日のことが忘れられません。ちょうどその頃にマイナビチャレンジマッチがあり、予選を勝ち上がったことをきっかけに将棋がしたい気持ちを再認識して時間の使い方を改めました。枕元に詰将棋を置いて朝目が覚めたら1冊解いてから起きるようにし、食卓の横には盤を置いて食事が出てくるまで棋譜を並べ、トイレやお風呂にも詰将棋を貼るようにしました。夜9時からは人と約束してネット将棋をし、将棋の時間を捻出するために休み時間に課題を済ませる日々です。大学に進学してすぐ研修会に入会するために将棋から離れる時間をできる限り少なくしたかったので、受験勉強は高校2年生の春に始めました。平日は勉強を中心に据えつつも夜の対局と毎日の詰将棋・棋譜並べは継続し、土日は道場や大会という生活です。詰将棋を制服のポケットに入れておき、暇な時に解くようにしていた記憶があります。

それでも高校3年生の12月にはセンター試験を前にいったん将棋から離れました。授業は朝7時半から夜8時過ぎまであり、早弁して昼休みも自習室にこもり、食事中も、移動中も、ずっと参考書とにらめっこ。「大学に合格すれば女流棋士になれる」の一心で、毎日16時間に及ぶ勉強一色の生活でした。この時期に将棋に触れることはできませんでしたが、精神的な部分で大きく成長しました。一歩引いて、自分を客観視する癖がつきましたし、自分の励まし方や支え方、不安への対処の仕方も身に付きました。

そして、晴れて大学に合格し、やっとの思いで研修会入会にこぎつけるのですが、この続きはまた次回にしたいと思います。

山口絵美菜

ライター山口絵美菜

1994年5月生まれ、宮崎県出身の女流棋士。2017年に京都大学文学部を卒業し、在学中に研究した『将棋の「読み」と熟達度』を足掛かりに、将棋の上達法を模索している。
将棋を覚えるのが遅かったため「体で覚えた将棋」ではなく「頭で覚えた将棋」が強くなるには?が永遠のテーマ。好きな勉強法は棋譜並べ。

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