企業将棋部日本一、優勝経験者が10人以上。リコー将棋部の強さの秘密とは?

企業将棋部日本一、優勝経験者が10人以上。リコー将棋部の強さの秘密とは?

ライター: 直江雨続  更新: 2017年01月11日

一般に『将棋を観て楽しむ』ファンにとって、その対象はプロ棋士が公式戦で指す将棋、ということになると思います。ですが、将棋を指しているのはプロ棋士だけではありません。プロではない、社会人のアマチュア棋士が同じ職場のメンバーで5人のチームを組み、日本一を目指す『内閣総理大臣杯職域団体対抗将棋大会』(職団戦)という大会があるのをご存知ですか?

いわゆる企業将棋部ナンバーワンを決める超大規模な大会なのです。なにしろ400チーム・2000人を超える人々が同じ会場で一斉に将棋を指すので、その光景は圧巻ですよ!そんな職団戦の最上位クラスで過去31回の歴代最多の優勝を誇る、まさに日本一の企業将棋部があります。

それがリコー将棋部です。2016年11月3日に行われた第110回職団戦では109回に続くS級優勝(2連覇)の快挙を達成するなど、今年文句なしに職団戦の頂点に立ちました。今回、そのリコー将棋部の馬上勇人(もうえ はやと)さんに将棋部の活動や職団戦での実績、今後の目標などを聞いてみました。

リコー将棋部の強さの秘密とは

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リコー将棋部の馬上勇人さん。2015/11/07 第5期リコー杯女流王座戦第2局 浮月楼での大盤解説会にて筆者撮影

 ――まずはリコー将棋部についてご紹介いただけますか。

馬上「リコー将棋部は、1960年に創部し、現在部員は60名ほどおります。師範は屋敷伸之九段で、現在のキャプテンは細川大市郎です。屋敷九段とリコー将棋部の関係は大変古く、屋敷九段がまだ奨励会の頃(15、6歳)、リコー将棋部の合宿に来てくださり、それ以来20年以上のお付き合いになります。また、10人以上の部員が全国優勝経験者で、30人以上が四段以上の棋力があります。企業将棋部としての層の厚さは恐らくナンバーワンなのではないでしょうか」

 ――全国優勝経験者が10人以上いるというのはすさまじいですね。将棋部としては普段どういった活動をしているのでしょうか。

馬上「それについては普段は『特に活動していません』が答えです。部員の事業所がバラバラなこともあって、なかなか平日に集まるのは難しいのです。部員それぞれが、個人戦への参加や将棋倶楽部24、将棋ウォーズなどで鍛錬しています。将棋部としての活動は、年2回の合宿と、職団戦前の研究会、職団戦、社会人団体リーグ戦ですね」

 ――年2回合宿をしているのですね。具体的に合宿ではどんなことをしているのでしょう?

馬上「合宿は、毎年夏と冬に1泊2日で行っています。部員が25名程度参加し、他に屋敷九段をはじめとする棋士、女流棋士に来ていただいています。場所は湯河原か箱根でいつも決まっています。毎回同じ宿が続いていて少し飽きているというのはあるのですが、将棋盤とチェスクロックが完備され、夜通し将棋が指せるというメリットがあまりに高く、他の選択肢がないというのが本音です。それでも、何回か新規開拓を試みましたがどれも失敗に終わりました(笑)。 合宿では、部員から選ばれた2名が合宿委員として場を仕切ります。主な仕事は、宿の手配、部員の出欠確認、リーグ戦の表の作成と進行、宴会、夜の部の企画です。昼間にリーグ戦を行い、夜の宴会では屋敷先生に最新の一局を次の一手形式で解説していただき、夜はリレー将棋というのが定番です。宴会では、以前とある合宿委員が将棋クイズを企画したのですが、初代名人の大橋宗桂からすべて答えろという超難問を出され、大ブーイングを浴びたことがありました。リレー将棋が終わった後は自由行動なのですが夜遅くまで将棋を指し続ける部員も多くいます」

 ――合宿のゲストに来てくださった棋士、女流棋士で印象に残る方はいらっしゃいますか?

馬上「そうですね、これまでもたくさんの棋士、女流棋士のゲストが来てくれたのですが、室田伊緒女流二段について話をしたいと思います。室田女流二段は、育成会だった中学生の頃から参加してくれています。当時は、本当に人見知りで、なんでも「はい。はい」という感じで、本当に、素直でおっとりされていました。お菓子が大好きで、夜中にポテトチップスの袋を開けて一人で食べ始めたり、常にそばにお菓子があったのを覚えています。将棋はもちろん、徹夜でトランプしていたのは懐かしい思い出です。そんな、室田女流も関西では、「○○」と呼ばれるなど、ご立派に成長されて嬉しいです。今でも合宿に参加してくれてありがとうございます。その他にも、将棋世界の企画、「ガチンコ10秒将棋」で豊川孝弘七段がいらして、得意の親父ギャグを交えられながら、戦ったりと合宿ではいろいろとエピソードがあるのですが、それだけで終わってしまいますのでまた別の機会で!」

内閣総理大臣杯職域対抗団体戦での実績

 ――リコー将棋部のこれまでの実績を教えてください。

馬上「将棋部の実績としては、なんといっても社会人ナンバーワンのチームを決める内閣総理大臣杯職域団体対抗将棋大会(職団戦)の最上位クラスで歴代最多の優勝31回があります。私が入社する前は、毎年のように優勝していましたが、近年ではライバル企業が増え、優勝するのがとても大変です。そういった状況でしたが、今年の春の大会では大型新人の中川慧梧くん(※)の活躍もあり、S級で優勝。S級のもう1チームも3位に入賞しました。そして先日の秋の大会でもS級で優勝できました」
※中川慧梧さんは学生時代に数々のアマチュアタイトルを獲得し、プロ公式戦にも何度も出場した超有名アマ強豪です。

 ――ズバリ、リコー将棋部のライバルは?

馬上「S級での近年の一番のライバルは富士通さんとNECさんです。富士通さんは、近年、有望な新人が立て続けに入り、総合力が大幅に上がりました。元奨励会の方も多く、勝敗はいつも紙一重です。NECさんは、アマトップの清水上徹さん、加藤幸男さんを中心に強豪が揃い、ここ最近までかなり苦戦を強いられてきました。他の企業も、レベルが上がってきており毎年、予選を抜けるのも大変です。持ち時間20分、30秒の秒読みと短く、優勝するまでは5局戦うため、瞬発力や体力も求められます」

 ――10名以上の全国優勝経験者がいるというリコー将棋部ですが、団体戦のメンバーはどうやって決めているのでしょうか?

馬上「はい、職団戦のメンバー選考は、リコー将棋部独自に設けたレーティングによって決まります。1年間の対外戦や合宿などの部内戦の勝ち負けをポイント制にして一目でわかるようにしています。職団戦の少し前に、メンバー選考を兼ねた研究会を実施し、そこでの最終レーティングでほぼ決まります。強豪が多い部内では、みんなが納得いくメンバー選考が難しいところもありますが、これである程度は解決できていると思います」

――今後の目標は?

馬上「春、秋の職団戦で優勝して今年の社会人No.1チームの座をつかむことができました。次の目標は学生No.1チームと団体日本一をかけて戦う、リコー杯アマチュア将棋団体日本選手権に優勝することです」

リコー杯アマチュア将棋団体日本選手権について

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――団体日本一を決めるリコー杯アマチュア将棋団体日本選手権についても教えていただけますか。

馬上「『リコー杯アマチュア将棋団体日本選手権』は、社会人の日本一チームと学生の日本一チームが対戦し、アマチュア将棋の団体日本一を決めるもので、リコーが主催して28年にわたり開催しています。社会人チームは前年春秋2回の職団戦S級優勝チームから、総合順位が高いチームが代表として選ばれ、学生チームは学生王座戦の優勝校が代表になります。発足当時は社会人の方が圧倒的に強く、社会人が胸を貸す研究会のような形だったのですが、近年では学生が力をつけ対戦成績も学生側の16勝12敗。なかでも最近は、学生側が10勝1敗と圧倒しています。社会人の団体戦は5人制、学生の団体戦は7人制ということもありますが、社会人の代表は全国レベルの強豪ばかり。近年の学生将棋のレベルの向上は目覚ましいものがあります。大会の権威を高めるべく2006年から将棋連盟の後援をいただき、毎年、審判棋士をお願いしています。朝日新聞社様、マイナビ様にも後援をいただいています。また、盤、駒も当時はプラスチックの駒とビニール盤でしたが、「日本一を決めるにふさわしい環境」との意識で、二寸盤を7つ購入。駒も部員が木の駒を持ち寄り、格式の高い雰囲気づくりを心掛けています」

2017年に第29回リコー杯アマチュア将棋団体日本選手権が開催されます。詳しくはリコー将棋部のHPを参照ください。

いかがでしたでしょうか。将棋の世界はプロ棋士だけのものではありません。日々研鑽を積み、アマチュアの大会や団体戦で活躍しているリコー将棋部をはじめとする企業将棋部の熱いメンバーたちにも、今後はぜひ注目してみてください。日頃会社で仕事をこなしつつ、将棋の勉強も怠らないその姿勢には頭が下がりますね。

また、有名なアマチュア強豪はプロ公式戦にも出場することがあります。その際はぜひ応援をお願いします!最後に馬上さんに今後の抱負をお聞きしました。

馬上「リコー将棋部は、これからも鍛錬を積み重ねて日本一を目指していきたいと考えております。また、将棋という文化が少しでも多くの人に伝えられるよう、普及活動を積極的に行っていきたいと考えています。今後ともよろしくお願いいたします」

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

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