上田初美女流三段インタビュー。一児のママとして挑む女流名人戦、その意気込みとは?

上田初美女流三段インタビュー。一児のママとして挑む女流名人戦、その意気込みとは?

ライター: 渡部壮大  更新: 2017年01月14日

いよいよ開幕する女流名人戦五番勝負の挑戦者・上田初美女流三段。産休明けながら好調を維持し、女流名人リーグで7勝2敗で優勝した。今回は挑戦を前に、この1年についての話を伺った。

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 ──約2年ぶりのタイトル戦ですが、開幕に向けて準備はいかがでしょうか。

「現在は子育てをしながらの生活で、以前のように将棋を第一に、というのは難しい状況です。ただ、里見さんとは久しぶり(4年ぶり)の対局で、楽しみですね。まずは自分の持っている力を出し切れるような状況にはしておきたいです」

 ──昨年は第一子出産のため、休場(※1)となりました。ブランクはありましたが、復帰後も安定して白星を積み重ねてきました。

「復帰戦(※2)は不安がありました。体調も万全ではありませんでしたし、子どもも毎日泣きっぱなしで、将棋の勉強もできていない時期でした。ただ、対局が始まってみると読んでいるうちに感覚が戻ってきて。結果は逆転負けでしたが内容は悪くなく、復帰戦としては自信になりました。それからは対局を重ねる度に、調子が戻ってくる感じでした。
 以前と比べて勉強時間は減りましたが、普段子育てで忙しい分、将棋と向き合える時間を今までより大切に思うようになりました。復帰後は週に1回程度のペースで対局させていただきましたが、育児と将棋、ちょうど良いバランスだったと思います。週に1回子どもと離れて将棋に集中できるというのが、気持ちの切り替えができて良い循環になっていました」

 ──対局の時はご主人(※3)にお子様を任せると。

「そうですね。家にいますから(笑)。実際に自分でやってみて、子育てっていろんな人の協力がないと難しいものなんだな、と思うようになりました。いくら可愛くても精神的につらくなることもありますし。将棋に集中できる環境ができるのも周りの協力があってこそです」

 ──タイトル戦は地方なら2泊3日コースになります。出産してから泊まりの仕事は初めてでしょうが、ご主人も大変そうですね。

「そうなんですよ(笑)。それもタイトル戦が始まってからは対局が毎週あるので。ちょっと心配してますが、普段対局の時も見てくれているので大丈夫でしょう。夜に寝ついてくれるか勝負でしょうけど。遠征時もテレビ電話で子どもの顔は見たいかな、と思います」

 ──今期女流名人戦のリーグ戦は9局戦いまして、7勝2敗でした。印象に残る対局や、リーグ全体の感想としましては。

「復帰してすぐというのはさまざまな戦型に対応するのは難しいと思い、主導権を握れる形を選んでいました。ただ、子育ても少し落ち着いて時間をコントロールできるようになってからは、いろんな戦型を指すようになりました。元々さまざまな形を指すのが好きでしたから。
 対局の内容についてあまり振り返ることはありませんが、対局の背景としてひとつ挙げるとすれば、8回戦の中村真梨花さんとの対局ですね。前期最終戦は休場したので不戦敗(※4)、復帰後も女流王位戦で負けていたので。ここは勝ちたいなという状況で、その将棋を相手の得意形で勝つことができたのはよかったです」

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 ──現在の勉強法などは。

「研究会はほぼ0ですね。対局が一番の勉強になっています。実戦といえば子どもが寝た後に、夫とたまに10秒将棋をする程度です。実戦については相当少ない方だと思います。
 普段は子どもが寝ていれば勉強はできるのですが、いざやろうとしても駒音を立てた瞬間に起きたりするんですよ。そうなると中断するしかなくなっちゃいますから、自分のペースでできず精神的にイヤなんです。なので夜完全に寝付いてからか、昼間はこっそり音も立てないようにという感じですね」

 ──上田さんと里見さんの対局といえば、4年前の女流名人位戦五番勝負が印象的です。当時の自分と比べ、現在はどう変わっているでしょうか。

「当時は20代前半と若く、とがっていましたね(笑)。女流棋士でありながら、奨励会員でもある里見さんの顔を何とかこちら(女流棋戦)の方に向けたくて。まだタイトル戦で負けたことのなかった里見さんに対し、『私以外の誰がやる』というくらい強く意識していた部分がありました。自分がやらないといけないという責任感ですね。楽しむ気持ちもありましたが、何より勝ちたいという気持ちが強かったです。
 それからの4年間で結婚、出産の他、棋士会の役員もやらせていただき、将棋以外はいろいろ経験してきました。今はそういった重圧のようなものもなく、一歩引いた感じで臨めるかなと思います。プレッシャーも減っていて、前より楽しみな気持ちが強いですね」

 ──里見さんの印象について教えてください。

「里見さんは以前からたゆまず努力をされている方。ずっと続けるというのはすごく難しいことだと思います。そこは女流棋界の中でずば抜けているでしょう。
 里見さんは何でも指しますし、第1局は振り駒ですから、どんな戦型になるかは分かりません。相居飛車、対抗形、相振り飛車と、角換わり以外は何でもあるんじゃないかなと思います」

 ──今回のシリーズで楽しみな対局場はあるでしょうか。

「4年前にお世話になった方々と対局者としてもう一度会えるのは嬉しく思います。昨年から対局場となった岡田美術館には行くのが初めてで、楽しみです。ただ、どこも地域の特色が出ていてよさがあり、どこが一番というのはないですね。一局でも多く指せるように頑張りたいです」

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 ──最後に、このコラムを見ている将棋ファンへメッセージをお願いします。

「戦型が自分でも予想がつきませんので、番勝負を通じてさまざまな形を見せられるんじゃないかと思います。どこまで肉薄できるかというのは私次第だと思うので、切り合いに持ち込んで『戦っている』というような将棋を指したいですね」
 (取材日・2016年12月27日)

※1・2015年11月~16年2月に休場。2015年12月末に第一子出産
※2・2016年4月、女流名人戦リーグ1回戦の中井広恵女流六段戦で敗れる。
※3・夫は及川拓馬六段。
※4・前期リーグ最終戦の前、清水と並んでリーグ首位だったが、休場のため挑戦はできなかった。

渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

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