対局に遅刻をしたときはどうなる?意外と知らない、将棋の「時間」についてまとめてみました

対局に遅刻をしたときはどうなる?意外と知らない、将棋の「時間」についてまとめてみました

ライター: 佐藤友康  更新: 2017年01月19日

将棋のテレビ放送やネット中継を見ていく中で、「持ち時間」が気になったことはありませんか??一度分かってしまえば納得ですが、意外と細かな決まりがあるのです。今回は、持ち時間を詳しく解説していきます。

将棋で使う3つの「時間」

将棋では、3つの「時間」が存在します。持ち時間、秒読み時間、考慮時間です。これらの時間は、各棋戦や大会ごとにルールとして規定されています。ひとつひとつの意味をしっかり確認しておきましょう。

mochijikan_01.jpg

「持ち時間」とは?

持ち時間とは、対局に使用できる時間の限度のことで、ルールの一つとしてあらかじめ定められています。自分の手番の時には自分の持ち時間が減っていきます。後述する「秒読み」が無いルールは、「切れ負け」と呼ばれ、この切れ負けルールの場合は持ち時間がなくなってしまうと即、負けになってしまいます。
秒読みの時間が設定されている場合には、持ち時間がなくなると秒読みのルールになります。

プロ公式戦の最長持ち時間は名人戦の9時間

プロ棋士の対局では、棋戦によって持ち時間が異なります。最も長いのは名人戦で、9時間もの持ち時間があります。1日では終わらないため、2日間かけて1局を指します。1日目の終わりには、図面に次の一手を矢印で記入し、封筒に入れて封をするという「封じ手」を行います。2日制のタイトル戦は、竜王戦・名人戦・王位戦・王将戦です。

プロ棋戦では一手に2時間かけることもしばしば

プロの棋戦では、持ち時間が棋戦により異なります。ほとんどの棋戦で数時間もの持ち時間がありますが、多くの場合で持ち時間を使い切り、1分の秒読みの将棋になります。中盤での一手に1,2時間かけることもしばしば見かけます。

5時間24分の長考

戦後、プロ公式戦の中で、一手にかけた最大の長考時間は、5時間24分です。これは堀口一史座七段が2005年9月2日に順位戦で指した時の記録です。順位戦の持ち時間は6時間ですから、9割もの時間をつぎ込んだことになります。この長考が功を奏したのか、見事勝利を収めています。

「秒読み」とは?

秒読みとは、1手を決められた時間内に指し続けるルールのことです。記録係が秒を数えていくので「秒読み」と呼ばれています。多くのプロ棋戦では、秒読み1分と設定されています。

秒読みのメリット

秒読みのルールがなければ、持ち時間がなくなった瞬間に、即負けとなってしまいます。勝ちの間近であっても、指すための時間がなくて負けてしまうということがあり得ますが、秒読みのルールを採用することで、そのような事態を避けることができます。

秒読みカウントのプレッシャー

1分の秒読みであれば、「30秒」「40秒」「50秒」と記録係が進行を言い、そのあとは「1・・・2・・・3・・・」とカウントしていきます。10まで読まれてしまうと負けになります。どんどん時間が経過していくのを声で伝えられるので、プレッシャーがかかりますね。なお、30秒将棋の場合は、「10秒」「20秒」「1・・・2・・・3・・・」となります。

mochijikan_02.jpg

「考慮時間」とは?

NHK杯などのテレビ対局や、公開対局でよく用いられるのが「考慮時間」です。秒読みのルールの場合に、定めた回数のみ30秒以上考えることができる仕組みです。この時間の延長のことを考慮時間と言います。

NHK杯を例にとって紹介

NHK杯では、持ち時間10分、秒読み30秒、考慮時間10回(1分単位)のルールとなっています。このルールを例に考慮時間を説明していきます。

考慮時間は、秒読みの際に利用できる考慮の延長の時間です。持ち時間10分を使い切った後は秒読みになるので、1手30秒以内で指します。ですが、30秒以上考えたいときに、考慮時間を使うことで1分伸ばすことができます。1手に複数回考慮時間を使うこともできます。考慮時間を使うたび、記録係が残り回数の表示を更新していきます。

考慮時間のメリット

考慮時間は、秒読みに入ってからも考えたい局面で時間を使えるルールです。持ち時間を短く抑えつつ、必要な局面でじっくり考えることができる、テレビ向けのルールかもしれません。序盤の仕掛けのタイミングや、中盤の手の広い局面、終盤での寄せなど、考慮時間の使い方は人それぞれで、時間の使い方も戦略の一つとも言えるでしょう。

以上の3つを覚えておけば、基本的な将棋の持ち時間は理解したと言えます。より詳しく知りたいという方に向けて、プロ棋戦での少し複雑な持ち時間についても紹介していきます。

「持ち時間」のストップウオッチ形式とチェスクロック方式の違いとは?

順位戦では、2016年から持ち時間の考え方が変わりました。B級2組以下は、ストップウオッチ形式からチェスクロック方式に変更になっています。この変更は、日をまたぐ対局を少しでも減らし、記録係の負担を軽くすることを目的としています。少しマイナーな変更点ですが、この機会に合わせて覚えておきましょう。

ストップウオッチ形式とは?

ストップウオッチ形式とは、実際に消費した時間から、1分未満を切り捨てる方式です。45秒で指しても、それはカウントされません。ですから、1分未満で指し続ければ、持ち時間の消費ゼロ、ということもあります。

チェスクロック方式とは?

チェスクロック方式とは、実際に消費した時間を秒単位で記録していく方式です。45秒で指せば、その分がきっちりとカウントされます。

秒読みの始まりの違い

ストップウオッチ形式では、持ち時間を使い切ることはありません。残り1分から秒読みとなります。 一方のチェスクロック方式では、持ち時間を使い切ってから秒読みになります。

どのぐらいの差があるのか?

1手30秒で指し続けた場合、ストップウオッチ形式では何手指しても消費時間はゼロです。一方、チェスクロック方式の場合は、二人で100手ほど指す間に、30秒×50手=25分消費したという計算になります。つまり同じ持ち時間でも、チェスクロック方式の方が、持ち時間の消費は早くなるのです。

mochijikan_04.jpg

遅刻の場合はどうする? 持ち時間の扱いについて

プロ棋士も人間ですから、遅刻することだってあります。遅刻の場合の持ち時間の取り扱いについて、ご説明します。

1時間遅刻で不戦敗に

対局に遅刻した場合は、1時間で「負け」になってしまいます。

1時間以内でも、遅刻した時間の3倍差し引き

1時間以内に到着した場合も遅刻した時間の3倍を持ち時間から差し引きます。40分の遅刻の場合、40x3=120分が持ち時間から差し引かれての対局となります。

mochijikan_05.jpg

指し直し局の場合はどうする? 持ち時間の扱いについて

千日手や持将棋で「指し直し」となる場合があります。この場合の持ち時間についての取り扱いについて、ご説明します。

持ち時間は次局へそのまま引き継ぐ

指し直し局の場合、残りの持ち時間は次局へそのまま引き継ぎます。持ち時間に差がある状態で指し直すということになりますから、時間の少ない方はやや不利な状態とも言えるでしょう。

1時間に満たない場合は、双方加算

ただし、持ち時間が1時間未満になっている場合には、少ない方が1時間になるように双方に加算されます。例えば、残りの持ち時間が1時間20分と40分となっていた場合、20分ずつ加算して、1時間40分と1時間となるように調整されます。
竜王戦など、一部のタイトル戦の番勝負では、少ない方が2時間になるように双方加算されます。

1時間未満の棋戦の場合

持ち時間が1時間未満の棋戦の場合は、棋戦によってルールが定められています。

mochijikan_06.jpg

持ち時間は心理的な駆け引きにも

いかがでしたでしょうか。意外と細かな決まりがありましたが、時代とともに変化し、最適化されてきたルールです。駒だけでなく、持ち時間も貴重な"資源"です。時間を効果的に使うことで勝ちにつながりますし、うまく使えなければ不利になってしまうかもしれません。これらの時間に関するルールを知ることで、心理的な駆け引きの一端を見られるようになり、さらに将棋を楽しめることでしょう。

佐藤友康

ライター佐藤友康

3歳から将棋に触れ、将棋とともに幼少期を過ごすものの、途中、長い長いブランクを経て、27歳で将棋復活。 2015年4月より、池袋で20代・30代に向けた将棋普及活動『将Give』を主催・運営する。 将棋の楽しさ・面白さ・奥深さに深く感動し、将棋普及と将棋を通じた社会貢献・人間的な成長の応援を使命とする。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています