主演の香川女流三段と、イシイ監督に生インタビュー!ゲームクリエイターが仕掛ける将棋映画「女流棋士の春」、その見所は?

主演の香川女流三段と、イシイ監督に生インタビュー!ゲームクリエイターが仕掛ける将棋映画「女流棋士の春」、その見所は?

ライター: 直江雨続  更新: 2016年12月15日

映画「女流棋士の春」の監督イシイジロウさんと主演女優を務めた香川愛生女流三段にインタビューを行いました。この映画を作ったきっかけや見どころ、将棋監修の村中秀史六段のエピソードや香川女流三段が歌う主題歌についてなど、将棋ファンが気になることをいろいろ聞いてきました。イシイ監督からご提供いただいたこの映画のメイキング写真と合わせて、ご紹介いたします。

当初作りたかったのは昭和の時代のアイドル映画

haru2_01.jpg
監督のイシイジロウさん

 ――この映画を作ろうと思ったきっかけについて教えてください。

イシイ「当時、私はENBUゼミナールという映画の学校に演出の勉強をする目的で在籍していて、課題として映画を作らなければならなかったんですね。最初は技術的なテーマを探していたんですが、ふと、そう言えば学生時代は角川アイドル映画に憧れて女の子を主人公に映画を撮りたいと思っていたなぁと思い出しまして。たまたま公園を散歩してて、こういうふうな緑の中で女性を綺麗に撮りたいな、と思いついたのがそもそものきっかけですね。そこから、誰か主演できそうな人いるかな、あ、そういえば香川さんがいるな、(※)香川さんを主演にするなら将棋を題材に面白いものを作らないといけないな、と」
(※)イシイジロウ監督と香川女流三段は「将棋棋士VSゲームクリエイター人狼」などの共演以来、ゲームクリエイター人狼会などで何度も勝負を繰り広げております。

 ――主演を香川女流三段にするのは映画を作ろうと思った最初の段階からなんですね。それで将棋が題材になったんですね。

イシイ「そうです。でも公園では将棋はできない、盤駒を置いて指すのは不自然ですから、そこで『目隠し将棋』ならいけるんじゃないかと思いついたんですね。それでこの映画の導入部のプロットが出来上がりました。香川さんにオファーする前に、まず映画のプロットを見せたところ、香川さんが『じゃあ、実際の目隠し将棋を見せましょうか』って村中六段とやって見せてくれたんですね」

香川「ゲームクリエイター人狼会の時でしたね」

イシイ「それで目隠し将棋をやってもらった時に、普通の人から見て、これ申し訳ないんですけど、やっぱり笑えるんですよ」

香川「わかりますよ。ちょっとおかしい、って笑いですよね」

イシイ「そう、一般人にしてみれば、『なんなの? この人たち?』ってなるんですよ。それで、目隠し将棋の棋譜を作ってほしいと村中六段に頼んだんです」

haru2_02.jpg
今回の映画で将棋監修を務めた村中秀史六段

イシイ「そもそも私が棋士の方と知り合うきっかけが、人狼だったんですが、やっぱり棋士って皆さん面白いんですよ。あと顔がいい。絵作りしている人間から見て、棋士の方の対局しているときの顔、人狼しているときの顔って、いい顔しているんですよ。いい顔するな、みんな。役者だな、って思ってたんですよ。被写体として魅力的なんですね。棋士というのは将棋という一つのゲームを徹底的に考えて考えてやっていて、そこはやっぱり普通じゃない、ありきたりじゃないな、ってとにかく思ってたんです。その『ありきたりじゃない』ところは映画のシナリオに生かせると思ったんですね」

haru2_03.jpg
将棋会館5階『香雲の間』での撮影シーン

イシイ「それで実際に映画を作る段になって、スタッフを集めなきゃ、と。それで「428~封鎖された渋谷で~」というゲームで撮影をお願いした飯野歩さんと、あとやっぱり音楽が勝負だな、と思ったんで、ノイジークロークの坂本英城さんに依頼したんですね。坂本さんはゲーム音楽の人気作曲家なんですけどアマ四段ですごく将棋ファンなんで、香川さんの映画と聞いて『是非!』ってノリノリで参加してくれました」

香川「坂本さんがそんなノリで参加してくれて、飯野さんは本当に凄く実績があって、腕のあるカメラマンさんで、撮影した画がやっぱりすごくかっこいいんですよ。私のつたないお芝居を、本当に素敵に撮ってくださって、そういう意味で、私も映像を見て感動しました。飯野さんの撮影でこれだけ引き上げてもらえるんだ、と。だから、自主製作映画を作るという話ではあるんですが、イシイさんも含めて、本当に凄い人が集まってしまったな、と

haru2_04.jpg
香川愛生女流三段が演じた主人公の賀川春(かがわ はる)

 ――主人公の春という名前の由来は?

イシイ「心を閉ざした女流棋士に春が来る、というのがこの映画のコンセプトなんですよ」

香川「いろんな意味を持たせていますよね」

イシイ「タイトルに二重性があって、「女流棋士の春」の英訳が『The Arrival of Spring for A Shogi Girl』ってのがわかりやすいと思うんですけど」

香川「ダブルミーニングがお好きなんですよ。イシイさんは特に、一つの作品でも2回目のほうが面白いってなるように伏線とかいろいろ入れてきますよね」

イシイ「この作品も2回見てもらうと面白いと思いますよ」

香川「っていう、作風っていうか、こだわりがあるんですよね」

「封じ手」が生まれた意外な理由

イシイ「大野聡さん(将棋RPG「つめつめロード」プロデューサー。この映画でもプロデューサーを務める)がゲーム業界将棋会という集まりを作って、私がそこに初めて参加した時に、大野さんとの将棋を時間制限なしでやったら、二人ともすっごい考えちゃって、それで時間切れで封じ手になったんです。それで『封じ手ってロマンチックだな』って思ったんですよ。相手は大野さんだけど、これがもし相手が女子だったとしたら、これって次に会う約束ってことじゃん、みたいな。あと、封じ手って面白いのが、その局面をずっと考えるんですよね。これもね、ラブレターだなって。その時は大野さんが封じたんで、私は5パターンくらい大野さんの手を予想して、その先の展開をずっと考えていたんですよ。そしたら大野さんの封じ手はそのどれでもなくて(笑) 1手目から全然違う。え? それ? みたいな(笑)」

haru2_05.jpg
劇中で使われた「封じ手」。村中六段によって書かれたものだそうです

イシイ「この映画では封じ手というのと目隠し将棋という二つがキーになっていて、封じ手はロマンチックだな、目隠し将棋は笑えるな、って。この2個を組み合わせて最初にふわっとした話を書いたんです。その初稿を香川さんに見せた時に『もっと深くなるはず』って言われたのと、『女流棋士としての自分からだと、ちょっとこれはわからない』って言われて、『なぜ彼女が女流棋士を選んだのか』というのを突き詰められて『考えます!』って(笑)」

秒読みの声は実はNHK杯記録係で有名なあの棋士

イシイ「将棋って、じゅうびょう~、にじゅうびょう~って秒読みがありますけど、あれは将棋やってるひとには当たり前だけど、素人が聞く分には面白いわけですよ。耳に残るというか。今回実は門倉啓太五段に秒読みの声をやっていただいたんですね。物語が展開するにあたって、門倉さんの秒読みで、過去に戻ったり、現在に戻ったり、それで物語をつないでいこうと。そして秒読みがあるので、指さないと時間切れで負けちゃうんですね。そこができたことでこの映画はすごく良いシナリオになりました。それで春が指せない、指せなくて時間切れで『負けました』って言うんですけど、そこで香川さんがいい芝居するんですよ」

香川「ほんと? どうですか? 女優・香川愛生は」

イシイ「やっぱりね、手元のお芝居が凄く素敵。指先で駒を指してるときの芝居が本当に素晴らしかったですね」

haru2_06.jpg

香川「私はこの映画で女優デビュー、あるシーンでアフレコもしたので声優デビュー、あと主題歌も歌い歌手デビュー、やりたいことを全部やらせていただきました」

イシイ「主題歌は坂本さんの協力がなければできなかったですね。映画のタイトルの名前の歌を、主演女優が歌うってのは、これはもう王道だよね、って」

香川「本当にすごく良い曲で、歌わせてもらえてありがとうございます」

将棋監修:村中秀史六段。完成した映画を観て...

この映画では村中六段は棋譜の作成のほか、撮影現場での役者さんへの手つきや所作の指導、封じ手の文字、駒音も担当しています。将棋ファンが見ても納得できるリアリティは村中六段の将棋監修があればこそ。

haru2_07.jpg
沢田一二三(さわだ ひふみ)役を演じた澤田拓郎さんへの手つき指導を行う村中六段


haru2_08.jpg
村中六段の熱のこもった指導

haru2_09.jpg
音響を担当したノイジークロークさんのこだわりで、駒音の録音はノイズ音が入らないように蛍光灯を消して、真っ暗な中で行われたそうです。

イシイ「村中さんに完成した映画を見てもらった時に印象的だった話があって、村中さんは泣きそうになったんだけど(この主演は人狼だ、騙されるな、騙されるな...)と自分に言い聞かせながら見ていたそうなんです(笑) でも、結局ラストシーンでは感動して泣いてしまったんですよね」

注目のラストシーン。父親を演じたのはこの人

そんな村中六段も涙したラストシーンで、賀川春の父親であり、A級棋士の賀川貴を演じたのは安西崇さん(スクウェア・エニックス在籍。『ドラゴンクエストX オンライン』チーフプランナー)です。

haru2_10.jpg
安西崇さん演じる賀川貴八段

イシイ「最初は安西さんは写真だけの出演の予定だったんです。だけど、シナリオを書いてたらこれは回想シーンがないとだめだな、って」

haru2_11.jpg
香川女流三段と安西さん。二人が実際に盤を挟んで対局する撮影シーン

haru2_12.jpg
劇中で使用された「将棋世界」2007年9月号。賀川貴追悼特集

haru2_13.jpg
その将棋世界の1ページ。映画の中で重要な役割を果たします

ラストシーンでは、盤を挟んだ安西さんと香川女流三段の演技にも注目です。映画館に行く際は、どうぞハンカチもお忘れなく!

出だしから感動のラストシーンに至るまで、将棋好きには見どころしかないこの映画。12月17日(土)~12月23日(金)までの1週間、下北沢トリウッドで一般上映されます。上映期間が短いのでお見逃しのないように、劇場に足を運んでみてください。

 ――これを読んでいるみなさんにメッセージをお願いします。

香川この映画は将棋を知らない人でも楽しんでいただけるんじゃないかな、と思っています。将棋好きな人は、将棋を知らないお友達を連れて一緒に見に来てほしいですね」

イシイそれでいて、ガチの将棋好きが見ても大丈夫なように作ってあるのが、この映画の面白いところです。村中さんや門倉さんにもご協力いただいていますので、将棋を知らない方もこの映画を見て将棋に興味を持っていただけたら嬉しいです」

イシイジロウ監督をはじめ超一流のクリエイターがそろい、プロ棋士が本気で監修をしたこの映画、美しい映像と音楽にも注目ですし、何よりも女優・香川愛生の熱演は見逃せません。将棋好きな方も、詳しくない方もどちらも楽しめる「女流棋士の春」、ぜひ映画館でご覧ください。

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています