初タイトルが倉敷藤花! 里見香奈女流四冠の倉敷藤花戦にまつわるエピソード

初タイトルが倉敷藤花! 里見香奈女流四冠の倉敷藤花戦にまつわるエピソード

ライター: 直江雨続  更新: 2016年11月06日

11月8日(火)から第24期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負が開幕します。今期挑戦者は室谷由紀女流二段。迎え撃つのは倉敷藤花6期(クイーン倉敷藤花資格保持者)の里見香奈女流四冠です。今期の倉敷藤花戦をより楽しく観戦いただく予備知識として、里見女流四冠のこれまでの倉敷藤花戦の戦績を中心にご紹介したいと思います。

16歳での初タイトルが倉敷藤花!

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里見女流四冠は2016年10月末現在タイトル戦登場回数28回、獲得合計23期という驚異的な実績を誇りますが、16歳8カ月の時に初めて獲得したタイトルが倉敷藤花です。2008年の第16期倉敷藤花戦、清水市代倉敷藤花に挑戦した里見女流二段(当時)は2連勝でタイトルを奪取。以来2009年は中村真梨花女流二段、2010年は岩根忍女流二段、2011年は清水女流六段、2012年は矢内理絵子女流四段の挑戦を退けて5連覇を達成。倉敷藤花通算五期の実績により、永世称号「クイーン倉敷藤花」の資格保持者となります。その翌年の2013年に甲斐智美女流王位に1勝2敗で敗れて倉敷藤花のタイトルを失冠。2015年にはトーナメントを勝ち上がり、挑戦者となると甲斐倉敷藤花との三番勝負を2連勝してタイトルを奪還します。今年は2連覇、通算7期目の倉敷藤花を目指しての防衛戦となります。

前期倉敷藤花戦三番勝負振り返り

前期の倉敷藤花戦、甲斐倉敷藤花(当時)対里見女流三冠(当時)の番勝負を振り返ります。第1局は2015年11月10日(火)、東京・将棋会館で行われました。棋譜はこちらでご覧いただけます。この対局開始前の時点での戦績は里見17勝、甲斐7勝。タイトル戦では4回対戦があり、2勝2敗の五分でした。第1局の戦型は先手里見女流三冠の居飛車に後手甲斐倉敷藤花のゴキゲン中飛車。里見女流三冠の作戦は超速▲3七銀戦法。甲斐倉敷藤花も△4四銀型で対抗します。

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序盤の駒組みが終わり、△5六歩と中央から積極的に戦いを起こした甲斐倉敷藤花でしたが、この仕掛けは形勢を損ねる結果となりました。数手後の里見女流三冠の▲5四歩の垂らしが好手でした。甲斐倉敷藤花は飛車を切って銀桂との二枚換えの順を選ばざるを得ない展開に。中盤は甲斐倉敷藤花の攻めを丁寧に受けた里見女流三冠が優勢に。その後も「絶対に負けない手」を続けて駒得を果たした里見女流三冠が不敗の態勢を築き、最後は豊富な持ち駒を生かした鋭い攻めが決まって先勝。

第2局は場所を岡山県倉敷市「倉敷市芸文館」に移し、2015年11月23日(祝・月)に行われました。棋譜はこちらでご覧いただけます。この第2局は、午前中の対局は対局室で、午後からは芸文館ホールに移動して公開対局となるのが通例です。

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さて、そんな第2局の戦型ですが、先手甲斐倉敷藤花は三間飛車、後手里見女流三冠はまたも居飛車を選んで対抗形となります。里見女流三冠は振り飛車党ですが、近年は相手が振り飛車党の時は居飛車を選ぶことが多く、この倉敷藤花戦でも2局続けての対抗形となりました。序中盤は進行が早く、これは前例があったことによるもの。この年の女流王将戦第2局、香川愛生女流王将(当時)VS里見香奈女流二冠(当時)の将棋がベースとなっていました。両対局者ともその前例を踏まえての早指しが続きます。前例から手を変えたのは里見女流三冠。46手目の角を逃げた△4四角がその手で、前例では角を逃げずに△9六歩と斬りあいの展開にしていました。本譜は冷静な進行を選んだことになります。この手が本局の最初のターニングポイントでした。

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午後からは公開対局に。62手目、端を受けた里見女流三冠の△1二歩が消極的な一手で、ここから先手の甲斐倉敷藤花がペースをつかみます。しかし、89手目の▲5一角が痛恨の逸機。代えて▲2六飛なら先手優勢でした。その後の形勢は里見女流三冠が再逆転で優勢に。そして終盤は迫力のある玉頭戦となり、最後は先手の攻めをきっちり受け切って里見女流三冠が勝利。倉敷藤花のタイトルを奪還し、女流四冠となったのです。

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終局後は両対局者も参加して、大盤での感想戦が行われました。今年もまた昨年同様に第2局は午後から公開対局となりますので、現地で観戦する方には楽しみな時間ですね。

倉敷藤花戦では初めての年下の挑戦者!

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今期挑戦者となった室谷女流二段は1993年3月6日生まれの23歳、1992年3月2日生まれで24歳の里見女流四冠にとっては倉敷藤花戦では初めてとなる年下の挑戦者となります。二人の対戦成績はこれまで里見の3勝0敗。女流王位戦での2局と、昨年の倉敷藤花戦の準決勝での対局となります。過去の実績では圧倒している里見女流四冠、しかし室谷女流二段も近年、力をつけてきており、序盤の巧みさと優勢を拡大して勝ち切る技術に磨きをかけていますので好勝負を期待できそうですね。

倉敷藤花戦での里見女流四冠の実績をご紹介しました。どの棋戦でも活躍している里見女流四冠ですが、昨年の倉敷藤花戦の番勝負で見せた強さは圧巻の一言でした。振り飛車党の室谷女流二段が相手ということで、昨年同様に里見女流四冠の居飛車が見られるかもしれませんね。倉敷藤花戦の持ち時間は2時間。スリリングな熱戦を期待しましょう!

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

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