個性派棋士にして竜王経験者! 王将リーグでの糸谷哲郎八段の実績を紹介

個性派棋士にして竜王経験者! 王将リーグでの糸谷哲郎八段の実績を紹介

ライター: 直江雨続  更新: 2016年11月04日

今期の王将戦挑戦者を決める『第66期王将戦挑戦者決定リーグ戦』を戦う7人の棋士を紹介するコラム、第3回は糸谷哲郎八段です。竜王のタイトル獲得実績もある実力派、糸谷八段の印象的なエピソードや王将リーグでの実績をご紹介します。

印象的なエピソード満載、糸谷八段の魅力とは

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糸谷八段は1988年10月5日生まれの28歳。広島県広島市出身、森信雄七段門下。タイトル戦登場回数は3回、獲得合計は竜王1期、棋戦優勝は1回(第37期新人王)、竜王戦は1組(1組以上2期)、順位戦はB級1組です。今期は王座戦で挑戦者となり羽生王座との五番勝負を戦いますが、0勝3敗で敗れてタイトル奪取はならず、王将戦では今期2度目のタイトル戦登場を狙います。

糸谷八段は居飛車党で角換わりが得意戦法。そして超が付くような早指しにも定評があります。また、終盤では玉が盤上を縦横無尽に動き回ったり、入玉目指して上部脱出を図るような展開に独特の怪力を発揮します。そんな糸谷将棋を「ちょっと不利になるとスライム(粘りのある液状のもの)化してなかなか切っ先が届かなくなる」と評したのは斎藤慎太郎六段。

2006年度の第37期新人王戦に参加した糸谷三段(当時)は順調に勝ち進み、途中で四段プロデビュー。そしてそのまま新人王戦トーナメントを勝ち上がり、決勝三番勝負で横山泰明四段(当時)を2勝0敗で破り新人王となります。その新人王の表彰式にて、糸谷新人王はこんな謝辞を述べます。

今の将棋界は斜陽産業。僕たちの世代で立て直さなければと思っている。新人王の名に恥じぬよう、面白く思ってもらえる将棋を指していきたい。

デビューしたての若手棋士の口から「将棋界は斜陽産業」という言葉が出てきたことは将棋ファンに衝撃を持って受け止められ、話題になりました。有言実行、糸谷八段はその謝辞の通り、対局と並行して将棋の普及にも力を入れています。

関西若手棋士ユニット『西遊棋』の中心メンバーとして、イベントの開催やニコニコ生放送の将棋番組への出演などを精力的に行い、若い将棋ファン、女性将棋ファンを増やしてきました。その姿勢は自身が竜王のタイトルを獲得した後も変わらず、六段時代と全く同じスタンスで『西遊棋』イベントに出演し、ファンサービスをする姿は多くの将棋ファンの心をつかんでいます。その愛嬌のある独特のキャラクターは『西遊棋』には欠かせない存在で、イベントでは【糸谷八段がマイクを持っただけで客席に笑いが起こる】【本人がいないのに糸谷八段の名前が出ただけで観客爆笑】などの伝説を残しています。

将棋界のリアルゆるキャラ グッズ化も!

もはや将棋界のリアルゆるキャラといったポジションを確固たるものとしている糸谷八段、日本将棋連盟Digital Shopでは可愛らしいイラストのグッズも販売されています。

そして日本将棋連盟公認、将棋RPGつめつめロードで、糸谷八段をモチーフとした「みたま」(プレイヤーの仲間になる精霊のような存在)、『いとだにてつろう』も登場しています。

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棋士みたま「いとだにてつろう」(進化前)

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棋士みたま「いとだにてつろう」(進化後)

関西のスイーツ王子

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糸谷八段といえばもう一つ、「スイーツ好き」でも有名です。ニコニコ生放送でもおやつレポート要員として、これまで数々のスイーツを食べてその味を視聴者に伝えてきました。また2014年の棋聖戦中継ブログにはスイーツの味を解説する糸谷六段(当時)のレポートが掲載されています。

なるべく正確な表現で味を伝えようとするあまり、どこか哲学的な表現が入り込む糸谷八段の食レポは将棋界にとって今や必要不可欠なコンテンツです。

糸谷八段と哲学

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糸谷八段は、現役の大学院生です。プロ入りから1年後に大阪大学文学部に合格し、その後同大大学院に進み哲学を専攻しています。(現在将棋に専念するために休学中)ドイツの哲学者マルティン・ハイデッガーの研究で卒論を書いたとのこと。

棋士でもあり哲学者としての一面を持つ糸谷八段、第27期竜王戦七番勝負第1局ハワイ対局の際の前夜祭の挨拶は、日本とハワイの精霊信仰(シャーマニズム)という共通点と、シャーマニズムにおける神との交信儀式と将棋との類似点について言及し、将棋ファンに大きなインパクトを与えました。

挨拶の全文はこちらでお読みいただけます。

対局者あいさつ(竜王戦中継ブログより)

この機会にぜひ全文ご覧いただきたいです。

糸谷八段の王将リーグの実績

糸谷八段はプロデビューから9回目の挑戦で昨年ついに王将リーグ入りを果たします。初の王将リーグでの成績は4勝2敗。3位となり、残留を決めています。ちなみにこの時の4勝の相手は「羽生善治三冠、渡辺明竜王、森内俊之九段、佐藤康光九段」です。永世称号の資格保持者4人を相手に初の王将リーグで素晴らしい戦いぶりを見せてくれました。今年は二度目の王将リーグです。その個性的な将棋で今期リーグを盛り上げてくれることは間違いありませんね。

糸谷八段のこれまでの実績とそのユニークなキャラクターをご紹介しました。同門の兄弟子山崎隆之八段は糸谷八段をこう評したことがあります。

高スペック(性能)な最新戦闘機なんだけど、自分では石油基地を持っていない。燃料は他から輸入して調達しないといけない。

周りの活躍が刺激にならないとエンジンがかからない、そんな糸谷八段ですが、今期王将リーグには同じ関西所属のライバル豊島七段や、さらに年下の近藤誠也四段なども参加しています。彼らの活躍が糸谷八段のハートに火をつければ、ますます面白い対局、白熱の王将リーグが見られるのではないでしょうか。期待して見守りましょう!

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

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