すべてはファンのため。書道に打ち込むプロ棋士の姿。将棋連盟書道部に潜入

すべてはファンのため。書道に打ち込むプロ棋士の姿。将棋連盟書道部に潜入

ライター: 直江雨続  更新: 2016年10月03日

プロ棋士には字の綺麗な人が多いですよね。揮毫が印刷された扇子や色紙へのサインなど、その達筆さを目の当たりにできる機会も多いです。さて、ではどうして、プロ棋士は字が綺麗なのでしょう?今回、その秘密を探るべく、東京・将棋会館の一室で行われていた、ある部活の様子を取材してきました。

その部活の名は『書道部』。

そうなんです。将棋連盟にはプロ棋士が参加する部活がいくつかあるのですが、そのうちの一つがこの『書道部』なのです。果たして普段どんな活動をしているのでしょうか。東京・将棋会館の研修室で開催されていた書道部の例会を見学させていただきました。ちなみに大阪の関西本部にも書道部があります。

この日の参加者は全部で5名。現在の書道部の部長を務めているのは門倉啓太四段。部員数は10名以上いるけれど対局やイベント出演などのため毎回参加者はこれくらいの人数になるとのことでした。また部に所属していない棋士の飛び入りでの参加もあるようです。

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書道部の活動は、まず書道の先生にお手本をお願いするところから始まります。故事成語や熟語がたくさん載っている本を見て、書きたい言葉を決め、それを先生に伝えます。門倉四段がお願いしたのは「慎獨」(しんどく)という言葉。連盟書道部に教えに来てくださる書道の先生は菅菰会副理事長の佐々木恵陽先生です。

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佐々木先生がまずお手本を書きます。これを見ながら自分でも練習していくスタイルのようです。

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こちらは高浜愛子女流2級です。今日練習するのは「一日千秋」。

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高浜女流2級、黙々と練習しています。

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門倉四段、書いたものを先生に見せて、アドバイスをもらっています。

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こちらは伊藤真吾五段です。

何を書くか、しばらく悩んでいましたが「竜頷」(りょうがん)という言葉に決めたようです。

"「竜頷」(りょうがん)竜のあご。美しい珠のあるところとされ,それを得ようと危険を冒すたとえにいう。(大辞林 第三版)"

書く言葉が決まれば後はひたすら書いて書いて書きまくります!

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先生にアドバイスをもらう門倉四段。

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伊藤真吾五段は、先ほどの「竜頷」を草書体という書体で書くことにしたようです。先生のお手本を見ながら練習中。

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書いたものを持っていただきました。「竜頷」

部活開始から少し遅れて、室谷由紀女流二段と塚田恵梨花女流2級が二人そろって登場。

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さっそく先生にお手本をお願いする塚田女流2級。

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塚田女流が練習しているのは「躍進」。

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「進のしんにょう(部首)がうまく書けなくて...」と塚田女流2級。先生の指導を受けて試行錯誤。

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「これどうやろ」と自分の書いた作品を室谷女流二段に見せる高浜女流2級。(同じ関西出身の親友同士ということで、二人の会話は関西弁でした)参加者同士で意見を言い合って、より良い作品に仕上げようという部活の風土が素晴らしいですね。

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室谷女流二段、まるで対局中のような真剣な表情です。

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「何書いてるんですか?」塚田女流2級が様子を見に来ました。真剣な練習と合間のおしゃべり。

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自分の書いた書と先生の書いたお手本。じっと見比べる室谷女流二段。

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門倉四段は別の言葉にも挑戦中でした。何を書いていたかというと...

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こちらが今回の門倉四段の作品。「比翼之鳥」「慎獨」

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伊藤五段の「竜頷」。

こちらの色紙は先生にも褒められていた素晴らしい出来の一枚。門倉四段によると伊藤真吾五段は「書道部のエースです!」とのこと。

そんなこんなであっという間に三時間。今日の部活はこれにてお開きとなりました。

「棋士はサイン会などで色紙に揮毫をする機会が多いのですが、そんな時にきれいな字で書いてファンの方に喜んでもらえたら嬉しいですね」と門倉四段。棋士がこうして書道を頑張るのも、ファンに喜んでもらいたいからなのですね。

書道部の佐々木先生にもインタビューしました。

将棋連盟の書道部で棋士のみなさんと接していると、プロはこうじゃなくちゃいけないなと刺激を受けますね。棋士のような純粋な人たちを指導すると、自分が若いときに熱い想いで書を勉強していた時の気持ちを思い出せます。ここに来てよかったと思いますね。自分の作品にもいい影響がありますよ」

短い時間でしたが、私も今回の取材で棋士の皆さんが書道の練習にいかに真剣に打ち込んでいたかを知ることができました。イベントなどでサイン色紙をいただく時、そこに至るまでにどれだけプロ棋士が書の練習をしてきたかに思いを馳せると、その色紙がさらに大切な宝物になると思います。

ところで、部長の門倉四段からは「若手棋士の皆さん、連盟書道部でお待ちしてます!」との熱いメッセージも受け取っています。書道部はほぼ毎月1回の頻度で活動しています。いつタイトルを取っても大丈夫なように、若手棋士の皆様ぜひご参加を!

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

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