藤井、圧巻の史上最年少防衛。ヒューリック杯棋聖戦を振り返る

 タイトル初防衛を目指す藤井聡太棋聖に挑戦したのは渡辺明名人。前期とは立場を入れ替えてのリターンマッチとなった。渡辺は保持する名人、棋王、王将をすべて防衛しての挑戦だ。

第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局

 第1局は千葉県木更津市「龍宮城スパホテル三日月」にて。戦型は相掛かりとなり、両者は2月に行われた朝日杯将棋オープン戦の準決勝と同じ形に進めていく。深い研究を思わせる進行だが、ねじり合いになって徐々に藤井が抜け出していく。

【第1図は▲4五桂まで】

 第1図は▲4五桂と跳ねて後手の玉頭にプレッシャーを掛けたところ。しかし先手の猛攻を恐れず、△3三桂とぶつけたのが妙手。▲同桂成△同角の進行は後手の手駒が増え、攻め筋が広がりながら▲8二飛の合駒請求にも対応しやすくなって明らかに得。実戦は▲5三桂成△同玉▲1五飛と攻めていったが、△4二玉▲5六香△5二歩で先手の攻めは届かない。後に好機の△4五桂を実現させて後手勝勢となった。藤井が初防衛に向けて好スタートを切った。


撮影:常盤秀樹

第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局

 第2局は兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」にて。相掛かりから難解な戦いが続く。玉形と残り時間の差で渡辺ペースと見られたが、秒読みの中藤井は崩れない指し回しを続け、いつしか形勢も藤井良しに。

【第2図は△5六歩まで】

 ▲4二歩が攻めを厚くする落ち着いた好手。△同飛なら▲5三金で駒得を拡大すれば良い。実戦は△5五金寄だが▲4一歩成と玉近くにと金を作れたのは大きい。最後はこのと金を足掛かりに寄せ切って藤井が2連勝。


撮影:中野伴水

第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局


撮影:常盤秀樹

 第3局は静岡県沼津市「沼津御用邸東附属邸第1学問所」にて。矢倉の出だしから後手が急戦で動き、ねじり合いに。第2局に続いて時間は大差となったが、やはり藤井は秒読みでも崩れない。形勢が微妙に揺れ動く大熱戦となったが、最後は藤井が抜け出した。

【第3図は▲6三金まで】

 双方一分将棋だが、藤井の△7一飛が防衛を決める絶妙手。▲同馬と取るくらいだが、△7九竜▲4八玉△3六桂まで先手の投了となった。以下は▲5七玉△3九角▲5六玉△6六金以下の詰み筋がある。4四の馬を動かしたことにより、6六の地点が薄くなっているのだ。

 圧巻の強さを見せた藤井が3連勝で初防衛。史上最年少防衛、そしてタイトル通算3期により九段に昇段。こちらももちろん史上最年少だ。一方の渡辺はタイトル戦で初のストレート負けを喫した。両者はこれからもタイトル戦で数多く顔を合わせるだろうが、果たして次はどのような戦いが見られるか楽しみだ


撮影:常盤秀樹

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