長期にわたる防衛戦 9月上旬の注目対局を格言で振り返る

 王座戦五番勝負が開幕。昨年タイトルを獲得した永瀬拓矢二冠も、まさか防衛戦が被るとは夢にも思っていなかったのではないでしょうか。霧島酒造杯女流王将戦は難敵を連破した室谷由紀女流三段が挑戦権を獲得しています。

第5期叡王戦七番勝負第8局

【第1図は△4三金右まで】

 第1図は第5期叡王戦七番勝負第8局(▲豊島将之竜王△永瀬拓矢叡王)。角換わりから先手が居玉のまま桂を跳ねる速攻を仕掛けました。先手の飛車が捕まりそうな形ですが、迷わず▲4三同飛成と切ります。「一段金に飛車捨てあり」で、先手はこのために低い陣形のまま動いていったのです。以下△同金に▲2七歩で角を取り返し、陣形の安定度の差で先手ペースです。以下は押し切って先手の快勝となりました。

第68期王座戦五番勝負第1局

【第2図は△4九飛まで】

 第2図は第68期王座戦五番勝負第1局(▲永瀬拓矢王座△久保利明九段)。四間飛車対居飛車穴熊から、長い中盤戦を経て戦いが始まりました。堅陣のまま攻めをつないだ先手が優勢のまま終盤戦となりました。ここで▲9五歩が「端玉には端歩」の確実な攻め。△同歩と取るよりありませんが、▲9七香打と数を足して一手一手となりました。まずは永瀬王座が好スタートです。


撮影:日本将棋連盟

第68期王座戦五番勝負第2局

【第3図は△7一歩まで】

 第3図は王座戦五番勝負第2局(▲久保九段△永瀬王座)。先手の中飛車に、後手は珍しい玉形から急戦を仕掛けました。振り飛車は駒の連結が良く優勢ですが、ここからも気持ちの良い手順が続きます。「遊び駒は活用せよ」と、▲7七桂で唯一使えていなかった桂もさばきます。次に▲6五桂と使われては酷いので△7七同銀不成は仕方ありませんが、▲4五歩△5四金寄▲5五歩△6四金寄▲4四歩△同歩▲6五歩△7五金と駒がどんどんそっぽに追いやられていきます。以下はさすがの永瀬王座も受け止めるのは難しく、振り飛車の会心譜となりました。


撮影:日本将棋連盟

第10期リコー杯女流王座戦挑戦者決定戦

【第4図は△1三桂まで】

 第4図は第10期リコー杯女流王座戦挑戦者決定戦(▲里見香奈女流四冠△伊藤沙恵女流三段)。序盤に駆け引きがあり、里見女流四冠が珍しく居飛車を採用する形になりました。図は中盤戦でここから▲4六歩と突き「攻めは飛角銀桂、守りは金銀3枚」の理想的な展開です。以下△2五歩▲1七角△1五歩▲4五桂△同銀▲同歩△1六歩に▲4四角と強くさばき、先手の快勝となりました。西山朋佳女流王座に昨年のリターンマッチを挑む形です。

第42期霧島酒造杯女流王将戦挑戦者決定戦

【第5図は▲8六飛まで】

 第5図は第42期霧島酒造杯女流王将戦挑戦者決定戦(▲里見香奈女流四冠△室谷由紀女流三段)。相振り飛車の終盤戦ですが、攻め駒が急所に刺さっており後手優勢です。一発△8五歩が「大駒は近付けて受けよ」の手筋で、▲同飛に△5五桂と数の攻めで十分です。以下▲8四歩に△9四銀が飛車取りになるのが飛車を近付けた効果で、後手が押し切りました。室谷女流三段は準決勝、挑戦者決定戦と大敵を下し、女流王将戦では初の挑戦を決めました。


撮影:常盤秀樹

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