史上4人目の竜王・名人同時戴冠。豊島名人が逆転劇を制した第32期竜王戦七番勝負を振り返る

竜王VS名人の対決となった第32期竜王戦七番勝負。初のタイトル防衛を目指す広瀬章人竜王と、史上4人目の竜王名人を狙う豊島将之名人。

第32期竜王戦七番勝負第1局

第1局は東京都渋谷区「セルリアンタワー能楽堂」にて。記録的な台風の中での対局となった。角換わり腰掛け銀から先手の豊島が手にした桂を早々と▲2四桂と打ち込んだものの、広瀬に受け流されて苦戦に。しかし豊島が粘り、局面は徐々にもつれ最後は逆転した。

【第1図は▲4二銀まで】

図で後手玉は必死だ。△4七竜▲同玉△5六馬から先手玉は詰むや詰まざるやだが、2筋に竜の利きがあるのが大きく、際どく詰まなかった。豊島が激戦を制してまず1勝。


セルリアンタワー能楽堂で行われた第1局は豊島名人が先制

第32期竜王戦七番勝負第2局

第2局は京都府京都市「総本山仁和寺」にて。相掛かりから双方中住まいに構える力戦に。豊島が駒損の猛攻を仕掛け、広瀬も合間を縫って反撃して形勢の揺れ動く熱戦となった。

【第2図は▲6三角成まで】

先ほどとは逆に広瀬玉が詰むや詰まざるやだが、豊島は読み切っていた。△5六歩▲6七玉△6八竜から先手玉はピッタリ詰んでいる。豊島が2連勝と好スタート。


第2局も豊島名人の勝利

第32期竜王戦七番勝負第3局

第3局は兵庫県神戸市「神戸ポートピアホテル」にて。角換わり腰掛け銀から豊島がリードしたものの、攻めを誤り逆転。広瀬にはっきりと形勢が傾いたが......。

【第3図は▲5七同銀まで】

図で取られそうな金を△4五金と詰めろで味良く逃げたが、▲3四桂打△1二玉▲1三歩△同銀▲2一角が好手。△1一玉なら▲8五銀が詰めろ逃れの詰めろになる。実戦は△2一同玉だが、▲2三竜~▲5四角で要の金を抜いて先手の勝ち筋だ。図では△4七金としておけば後手の勝ち筋で、▲3四桂には△1三玉で問題ない。またも終盤の競り合いを豊島が制した。


第3局の対局開始前の様子

第32期竜王戦七番勝負第4局

第4局は山梨県甲府市「常盤ホテル」にて。矢倉から先手の広瀬はバランス重視の土居矢倉、後手の豊島が金矢倉に構える。広瀬が角香交換に踏み込み、激しい攻め合いとなった。

【第4図は△3三金まで】

先手が優勢だが、穴熊は遠いのでうっかり攻め間違えると大変だ。▲2二歩が当たりを強くする手筋。△同飛なら▲3一銀だし、本譜の△7七香成▲同玉△7六歩▲6八玉△3二銀にもいつでも2一に駒を打って玉を引きずり出せる状態になった。広瀬が細い攻めをつなぎ、待望の初勝利。


1勝を返した広瀬竜王

第32期竜王戦七番勝負第5局

第5局は島根県津和野町「藩校 養老館」にて。豊島の作戦は三度角換わり腰掛け銀。先手の腰掛け銀が行ったり来たりする不思議な将棋だったが、ペースをつかんだのは広瀬。そのまま会心譜になるかと思われたが、見た目以上に形勢は際どく、いつしか逆転模様に。

【第5図は▲6八玉まで】

後手の王手ラッシュが続いている局面で、先手は大量に駒を手にしているが、このまま詰まされてもおかしくない。しかし△8六角には▲7九玉、△5七角には▲5九玉で不思議と詰みはない。実戦は△7七角だが、これにも▲6九玉で先手玉は際どく詰まない。後手にもう一歩あれば△6八歩▲7九玉△7八歩と打つことができて先手玉は詰むのだが、もうひと押しが足りない。実戦は王手ラッシュをかわしきった先手が反撃に転じ、勝利を収めた。

豊島は史上4人目の竜王・名人同時戴冠となった。この夏は棋聖・王位と続けて失冠したものの、大きなタイトルを得た。広瀬は好局が多かったものの、終盤の詰む詰まないで配置が悪く、ツキがなかった。


翌日に行われたインタビューで揮毫を披露する豊島新竜王

*画像は竜王戦中継ブログより

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