藤井七段の鬼手「△6二銀」での大逆転、羽生九段のNHK杯優勝など3月下旬の注目対局を振り返る

2018年度最後のタイトル戦は渡辺明棋王の防衛で終わりました。8大タイトルを8人が分けあったり、羽生善治九段が27年ぶりの無冠転落など話題の多かった一年でしたが、2019年度はどのような時代になるでしょうか。

第44期棋王戦 五番勝負第4局

【第1図は△2八飛まで】

第1図は第44期棋王戦第4局(▲渡辺明棋王△広瀬章人竜王)。図の△2八飛は2四角と4八金の両取りになっており、受けるすべはありません。こんな時は「両取り逃げるべからず」です。実戦は▲5四銀△同金▲6三角と攻めて先手優勢です。△4八飛成と金を取られても先手玉はまだ大丈夫。怖いのは△2四飛成とされて受けきりを狙われる順ですが、それを許さないように厳しく攻めたのが好手順でした。渡辺棋王がリードを残したまま押し切り、3勝1敗で7連覇を達成しました。


7連覇を達成した渡辺棋王。棋王戦中継ブログより


広瀬竜王の二冠目はならなかった。棋王戦中継ブログより

第68回NHK杯将棋トーナメント 決勝

【第2図は△2二玉まで】

第2図は第68回NHK杯将棋トーナメント決勝(▲羽生善治九段△郷田真隆九段)。角換わり腰掛け銀から激しい攻め合いです。図から▲4一角が「要の金を狙え」の寄せ。手番を握り、玉も安全な先手は攻め合い勝ちを狙えます。実戦は△8五桂と攻めましたが、▲3五桂が痛打。次に▲2四飛からの詰めろですし、△3五同歩は▲2四飛が王手角取りとなります。△3五同角と取りましたが角が消えては先手玉は安泰。先手勝勢となりました。

羽生九段はこれで45回目の棋戦優勝。大山康晴十五世名人の持っていた記録を抜き、歴代1位となりました。無冠に転落した羽生九段ですが、存在感を示しました。

第32期竜王戦 ランキング戦1組

【第3図は△8六歩まで】

第3図は第32期竜王戦ランキング戦1組(▲渡辺明二冠△豊島将之二冠)。二冠対決は相掛かりから持久戦へ。図で▲9七金と駒得を維持しようとすると△9五香と攻められてうるさくなります。▲8六同金△同飛▲8七歩とあっさり指すのが「終盤は駒の損得より速度」です。△8一飛で手番を握り、▲7四桂の反撃から先手が勝ちきりました。

第32期竜王戦 ランキング戦4組

【第4図は▲2二歩まで】

第4図は第32期竜王戦ランキング戦4組(▲中田宏樹八段△藤井聡太七段)。終盤に△6二銀の鬼手で逆転を呼んだことが話題になった一局ですが、そこに至るまでの必死の粘りがあったからこそです。図で△2二同玉は▲6二角成△同金▲4二飛が痛打でいけません。実戦は△9八歩▲同香△7七歩成▲同銀△9七歩▲同香と端にアヤを付けてから△4三玉としました。「不利な時は戦線拡大」「中段玉寄せにくし」の通りの指し回しで、局面を複雑化させています。藤井七段が苦しい将棋を粘り抜き、最後は一瞬のチャンスをとらえて抜き去っています。

第5期叡王戦 女流代表決定戦

【第5図は△6二金まで】

第5図は第5期叡王戦女流代表決定戦(▲里見香奈女流四冠△西山朋佳女王)。駒得で手番を握っている先手がはっきり優勢です。▲9三香△7四桂▲9一香成△6六桂▲同歩△8四歩▲7五桂と「寄せは俗手で」迫って一手一手になりました。

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